理性知能残り11
日記。
日記を書く。
書けば、私は私だと分かる。
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何日目か分からない。
夜がつづく。
夜しかない。
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あたまが。
あたまの中が。
削られている。
ざりざりと、削られている。
何で削られているのか分からない。
でも、音がする。自分の中から。
ざり。ざり。ざり。
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ゆめを見た。
また、あの水の中にいた。
黒い水。
そして、眼。
眼が、近くにいた。
とても近くに。
手を出せば届くところに。
私は手を出した。
なぜ出したのか分からない。
体が、言うことをきかない。
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眼に手が届いた。
冷たかった。
そして、あたまの中で、大きな音がした。
何かが、切れた。
太い糸が、一本。
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目がさめた。
また、この建物の中だ。
かべがある。床がある。天井がある。
とびらはない。窓もない。
私はここにいる。
ずっと、ここにいる。
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思い出した。
私の名は田中。
田中……。
田中、何だっけ。
こう……こう、すけ?
分からない。
あたまが、うまく動かない。
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声がする。
かべの向こうから。
村人たちの声。
「ビガンゴ……ビガンゴ……」
私も、口が動きそうになる。
言いたくなる。
言ってはいけない。
言えば、もっと削られる。
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体が重い。
手が重い。字を書くのがつらい。
でも、書く。
書けば、私は私だ。
書けなくなったら、私は——
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あたまの音が大きくなってきた。
ざりざりざりざり。
止まらない。
何を削っているのか。
私の何を、削っているのか。
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眼。
天井に、眼がある。
いや、ない。
あった。
いや——
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分からない。
何が本当か、分からない。
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