理性知覚残り15


※報告書の形式を維持できなくなった。以下、日記として記す。


・?日目


 日付が分からない。


 夜が続いている。もう何日も、何日も。


 あたまの中で、何かが切れ続けている。


 細い糸。一本、また一本。


 切れるたびに、何かを忘れる気がする。何を忘れたのかも、分からないが。


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・夢の記録


 また、あの水の中にいた。


 黒い水。冷たい水。底のない水。


 そして、あの眼。


 無数の眼が、下から私を見上げていた。


 今回は、声が聞こえた。


 私の名を呼ぶ声ではない。私の中に、直接、意味を注ぎ込んでくる声。


 「見よ」と、それは言った。


 「我を見よ」と。


 私は見た。見てしまった。


 その全体を。


 そして、あたまの中で、何かが大きく断たれた。


---


・症状


 あたまが重い。


 脳に、熱した針金を刺し込まれているような感覚。


 いや、違う。


 脳を、細い刃物で、少しずつ削られている感覚。


 ざり、ざり、と音がする。


 自分の内側から聞こえる音。


 何を削られているのか分からない。おもいでか。心か。それとも、もっと根本的な何か。


---


・変化


 かべが動いている。


 いや、かべは動かない。かべは動くものではない。


 しかし、私が目をそらすと、かべの位置が変わっている。


 窓があった場所に、かべがある。


 扉があった場所に、かべがある。


 私は、この建物の中に閉じ込められている。


 出口がない。


 はなれられない。


---


・名前について


 「ビガンゴ」。


 あの名を書くと、あたまの奥が痛む。


 名前には力がある。


 呼べば、それは来る。


 書けば、それは見る。


 私は今、見られている。


 この文字を書いている私を、それは見ている。


---


・夜


 ずっと夜だ。


 月も星も見えない夜。


 暗いのではない。暗さの向こうに、何かがいる夜。


 眼がある。


 空の全体が、眼のように感じる。


 私を見下ろしている。


 常に。


 永遠に。


---


・追記


 かがみを見た。


 私の瞳は、確実に白く、にごり始めている。


 あの老婆と、同じように。


 私は、変わりつつある。


 何に?


 それを考えると、あたまの中の音が大きくなる。


 ざり。ざり。ざり。


 削られていく。


 私が、削られていく。

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