理性知識残り20
## 黯浦村調査報告書(続)
日付:不明(夜が明けないため)
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### 記録の継続
報告書の形式を維持する。これが私の正気の証明になる。
夜が明けない。
窓の外は暗いままだ。腕時計は止まっている。何時間が経過したのか分からない。
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### 異常現象
眠った。
眠ったはずだ。
しかし、あれを「眠り」と呼んでいいのか分からない。
黒い水面に立っていた。足元は鏡のように暗く、頭上には星のない空が広がっていた。空というより、虚無だった。何かの不在だった。
そして遠くに、何かがいた。
山よりも巨大な何かが、水平線の向こうでうごめいていた。
それは私を見た。
私が認識した瞬間、それも私を認識した。
無数の眼が、青白く光りながら、私を見ていた。
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### 自己診断
頭痛は続いている。
いや、頭痛というより——脳の内部を、何かが這っている感覚。細い針金のようなものが、神経の隙間を縫うように動いている。
時折、ぷつり、と音がする。
何かが断たれる音。
切れた糸がどこへ行くのか分からない。ただ、何かが減っていく感覚だけがある。
私は、何を失っているのだろう。
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### 観察記録
集会所の構造が変化している。
昨夜は確かにあった窓が、消えている。壁だけがある。扉の位置も変わった気がする。
いや、私の記憶が変化しているのか。
どちらが正しいのか、判断できない。
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### 仮説
「ビガンゴ」という語彙について。
あれは名前だ。
何かの、名前だ。
名前を呼ぶと、それが来る。
村人たちは、それを呼び続けている。
なぜ?
呼ばずにはいられないのか。
それとも、既に——
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### 症状の進行
今、鏡を見た。
私の瞳が、少し白く濁っている気がする。
気のせいだ。
気のせいだと、信じたい。
しかし、頭の中の音は止まらない。
ぷつり。ぷつり。ぷつり。
何かが、着実に、断たれていく。
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### 追記
外に出ようとした。
扉を開けた。
扉の向こうは、壁だった。
私は閉じ込められている。
この村に。
この建物に。
この——夢に?
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