君がため
逢坂らと
きみがため
運命の出会いだと、思った。
そしてそれと同時に
「最悪だ」
とも、思った。
僕はその人を神様だと信じた———。
—————————————————
僕の毎日は空虚なものだった。
お腹が常に空いているような気分。
別に居心地が悪かったわけではないのだが、
何処か嘘のような…空っぽのような………の、
割には畦道のように狭いような気もした。
医者にかかったところ、
僕は重い病気らしい。
ただ、手術は必要ない。
僕がそう、医者に言ったのだ。
別に思い入れのない人生だったから…
むしろ今すぐに死んでもいいような気さえしていた…
そんな時に、
僕の人生を変えた【神様】がいる。
神様の名前は「
お洒落なアメリカ風のバーで、
バイトをしていた時に知り合った。
まるで中学生かのような顔立ちの、
綺麗な美青年だった。
僕は彼を美しい、と思った。
けれどそれは到底手に入れられそうにない、
美しさだった。
好き、という感情ではなかった。
ただ、浅村しおんを【神様】だと、思ったのである。
浅村しおん(以下、浅村)は、
薔薇の花が好きだと言った。
そしてその薔薇を、
彼の片思いの相手に渡すつもりだと、言った。
浅村は、
僕の気持ちがよくわかる、
とも言っていた。
浅村も人生に疲れる時があるのだとか。
それからは日々を浅村と一緒に過ごすようになっていた。
彼の家に何回か泊まったこともあったし、
逆に僕の家に浅村が泊まりに来たこともある。
とても有意義な時間だった。
僕の人生の中で最大級の親友であり、
思い出であったと思う。
浅村本人も楽しそうだった。
この世に疲れた2人の青年が、
夢と希望を取り戻していた。共に。
なのに、浅村しおんは死んだ。
睡眠薬を大量に飲んだらしい。
誰宛かはわからないが、
その場にあった遺書には
【眠れなかった】
と、書いてあった。
他人の人生を明るくさせた
その相手よりも先に亡くなる、ということがあるのだろうか。
あっていいのだろうか。
ただ、そんなことを考えてばかりいても仕方がない。
僕は、僕にできることを、
浅村のために自分ができることをしなくてはならない。
自分も追いかけるように死ぬか?
いいや、違う。
僕は浅村しおんをよく知っていた。
誰よりも彼を観察していた。
もし浅村がそれを知ったら驚くほど、
僕は浅村のことをよーく知っている。
だから、
僕がするべき行動はただ一つ。
彼の片思いの相手に接近すること。
そして、
まるで浅村の生まれ変わりかのような
仕草を彼女にする。
僕の命は少ない。
けれどそんなことはどうでも良い。
今日から僕が、【浅村しおん】だ。
君がため 逢坂らと @anizyatosakko
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