「パブロフの犬」
よもやま さか ( ぽち )
第1話
「パブロフの犬」
秋風の海岸。
波の音が響く。
緊張気味に涼介はキヨコの前に指輪を差し出した・・
「長くまたせたね」
波の音が聞こえる。
「ずっと君の事を考えないことはなかった。実家の仕事のこともあるから悩んでいたんだ。
でももう・・悩まない。――ぼくでよければ結婚してくれ!!」
………
サッサ、サッサ、サッサ。
サッサ、サッサ、サッサ。
サッサ、サッサ、サッサ。 サッサ。
その刹那、キヨコは綺麗なフォームで反復横跳びをはじめた。
あまりにも見事な反復横跳びをちょうど10回、涼介の前に披露したのだった。
一匹の白い野良犬が、遊んでくれていると勘違いして、尾をブンブンふりながら彼女の後を追いかけた。
あまりのことに呆然とする涼介。
息づかいを整えながらキヨコは言った。
ハアハア…
「話せば長いことなの …… 聞いてくれるよね!!!!」
キヨコの目は真剣そのもの。
「え。うん。なに?」
「昨日の深夜のことなの」
「うん」
「昨日大学の寮で友達と話してて、パブロフの犬の話になったのよ」
「ほう」
「友達が、おまえはこのポテリングを見ると反復横跳びを10回する、って言ったの」
「は?」
「は?でしょ。私もそういったわ。はって。そしたら友達が、は、じゃないわよ。あなたはポテリングを見ると反復横跳びを10回する!!よ。いいわね。そ~ら、そ~ら。っていう遊びを2時間やったの」
「2時間!!それで俺のリングみて反復横跳びを10回やったんだ」
「そうみたいなのよ(泣)」
「だいたい分かったよ。君らしいね。あらためて結婚指輪だ。受け取ってくれ」
涼介は真剣な目でそう言って再びリングをキヨコの前に差し出した。
キヨコは涙をながした。 そしてリングに顔を近づけて・・
ぱくり!!
エンゲージリングを口にほおばった。
「っ! ポテリングじゃねえ!」
涼介は眉間にしわを寄せながらそう言った。
立ち尽くす涙の訳に、
――秋の風がただ吹いているばかりであった。
了
「パブロフの犬」 よもやま さか ( ぽち ) @meikennpoti111
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