悪霊になりそうです
マロッシマロッシ
悪霊になりそうです
俺、月島ヒロシは死んだ。
享年26歳。ヘビーな残業をこなした台風の日の帰り道。風で飛んで来た瓦が、後頭部にクリティカルヒット。不幸中の幸いは、殆ど痛みを感じなかった事。
ちょっと明るく自分を振り返っていられるのは、死んだ実感が湧かないのもあるが、魂…というか、幽霊になった自分に驚いているから。いやぁ死後の世界って、ホントに あるんだなぁ。
さて、これからどうなるか…自分から、積極的に人を傷付けた事や犯罪行為に手を染めた事は無いので、地獄行きは自信を持って あり得ないと思っている。町を5、6メートル上空から見ているが、天国に昇る気配も無い。
という事はだ! 小説やマンガで読んだ様な異世界行きがワンチャンあるかもだ! 【月島ヒロシは経理の力で王国を建て直す! そして、各国の姫から次々と求婚されました!】が始まるかもしれない!
……そんなに甘くない様だ。上空から、町を見下ろす事3日。誰からのアプローチも、何のリアクションも無い。プカプカ浮いて、町内観光をする日々。幽霊だからか腹も減らないし、疲れもしない。虚しい……。
俺は地縛霊にでもなるのか…そんな考えを持って、勤めていた会社のビルをウロウロ。俺のデスクには、花が飾られていた。その隣では月末に経費処理で、怒られたいキモい オッさんが列を成す、眼鏡が似合うクールビューティー、北川さんがPCのキーボードを超高速で叩き、仕事をしていた。
……彼女とは、不思議とウマが合ったんだよなぁ…仕事終わりによく飯に行ったし、仕事の話はもちろんの事、マンガやアニメに小説から美味しい飲食店の場所まで、色んな話題を気兼ね無く振れたし、逆に振って貰った。残念ながら、恋愛関係にはならなかったけど……。
北川さんのキレッキレの仕事を見ながら、どうせなら、彼女の守護霊なんかになりたいなぁ……何て思っていたら、何らかの力に急に体を引っ張られた。
な、何だコレ……? 自由に行動が出来ない。さっきまで浮いていたのに、絨毯の上に抑え付けられている。
顔を上げると、革張りのソファに写真で見た記憶がある会社のお偉いさんが座っていて、隣には胡散臭い霊能力者の様な服装を着た、グフフと笑いそうなオッさんが座っていた。
「グフフ。若様、月島ヒロシを捕まえましたよ! 会社を張っておいて正解でしたな! これで会社と巨万の富は、貴方の物です!」
「良くやった、五所川原! これで役員を買収後に親父を退任させられる! じゃあ早速、月島とやらに秘密口座のパスワードを聞いてくれ!」
「かしこまりました。賢明な月島君には、 ワシと若様の話を聞いただけで、こちらが何を望んでいるか分かるだろう? ああ、先に言っておくが、君が死んだのは偶然だ。そのお陰で、ワシは高額のギャラで若様に雇われたのだからな。それと、逃げようとは思わない事だ。ワシの霊能力は本物でな、逃げようとすれば君の魂は、拘束結界に魂を引き裂かれる事になる。グフフ。幽霊でも、無間地獄並みの苦しみを味わう事になるぞ?」
コイツ、ホントにグフフって笑いやがった! いや、大事なのはそこじゃない……要は、社長のバカ息子が会社の乗っ取りを企てていて、その為には、秘密口座のパスワードが必要。わざわざ霊能力者を雇って幽霊の俺を捕まえたのは、俺が社長から秘密口座のパスワードを託されたのを知っているから。
クソッ……どうすれば……グワァァァッ!?
「グフフ。ダンマリは感心せんなぁ、月島君? 魂を無にされたくなければ、さっさとパスワードを話したまえ!」
ま、マジで血反吐を吐くくらい痛い……。素直に話せば、存在そのものを消されてしまう。幽霊になって、何でこんな目に遭わなきゃいけないんだよ……グワァァァッ!?
ダンマリを決め込んでいると、3回魂を引き裂かれそうになった。俺の気ままな幽霊ライフが……いや、気ままになる前に幕を閉じそうだ。魂が無になる前に俺は意を決して、パスワードを五所川原に教えた。
「グフフ。間違いないな?」
俺は無言で頷いた。
バカ息子は、五所川原に聞いたパスワードをPCに打ち込んだ。やがて、狂気の笑顔を浮かべる。
「ヒャハハハハハッ! 赤文字でCOMPLETEと出たッ! これで、金と会社は俺の物だッ! 五所川原、彼に褒美として暇を与えようか!」
「はい若様! ではさらばだ、月島君!」
グワァァァッ! 俺の魂が、いよいよ引き裂かれ様とした時、部屋に屈強な黒服の男達が入って来て、バカ息子と五所川原を取り押さえた。その後ろから、貫禄たっぷりに社長登場。
「お、親父、どうして……?」
「お前が打ち込んだパスワードは、愚か者を炙り出す為のニセモノだ。本物は、青い文字でCOMPLETEと出るのだ。パスワードを託した月島君に化かされたな。彼の会社への忠誠心は本物だ。遺族に充分な慰労金を支払おう。ああ、お前と怪しげな男は、何処ぞで魚のエサになって貰おう」
「クソォォォォッ!」
「謀ったな、月島ァァァッ!?」
バカ息子と五所川原は、黒服に引き摺られて部屋を出て行った。
命懸け……いや、魂を賭けてニセモノのパスワードを教えて良かった。ふぅ……会社に近付くのは、もうこりごりだ。真面目に、天国へ行く方法でも探そう。
「月島君!」
窓から擦り抜けて会社を出ようとした時、後ろに北川さんがいた。
「くふふ。みーつけた!」
クールビューティーの可愛い笑顔。だが、語尾にハートではなく、ドクロが付きそうな言葉。何より、笑い声がくふふって……。
ガチャンッ! と鳴った気がする。これは、五所川原と同じ拘束結界!?
「私さぁ、五所川原の愛人が産んだ娘なんだよね。ムカつくブタ親父だったけど、霊能力を何故か引き継いだんだぁ! ブタ親父は、欲の皮が突っ張っているから案の定、豚親父は社長のバカ息子と組んで、秘密口座を狙った。私はずーっと、アイツ等を監視してた。必ず霊能力で、死んだ月島君から何か聞き出そうとすると思った。因みに、バカ息子のPCを監視してて、社長に手際よく通報したのは私だよ。月島君、漢気を見せてたけど、私がいないと死んでたよ。あっ、くふふ。もう死んでたね。だからぁ……私には、本物のパスワードを教えてね? 私の事、好きだったでしょ?」
言葉の最後に、やっぱりドクロが見える。
俺、悪霊になりそうです。
悪霊になりそうです マロッシマロッシ @maro5963
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