第23話 凱旋
■2-10: 凱旋
一閃---
黒いクリスタルが砕け散った瞬間、遺跡全体が――息を吹き返した。
光が柱の間を駆け、壁に刻まれたルーンが一つひとつ目を覚ますように輝く。
淀んだ空気は澄み、重苦しい瘴気は霧のように消えていった。
《――ダンジョン解放》
頭の中に響く無機質な通知音。
全員レベルアップ。
「うおおっ!? 筋肉がっ! すごいぞこれ!」
カザドが喜びすぎて暴れてテスの尻尾を踏む。
「いってええええええ!! 何するんじゃ馬鹿者!!」
玄太はいつも通り涼しい顔で、ただ腕を回す。
「経験値美味えぇー!」
アレルは光の余韻の中で呼吸を整えていた。
自分の内からあふれる何かが、さっきまでと違うのをはっきりと感じ取っていた。
強くなった。
もう誰にも言われなくてもわかる。
玄太はアレルの背をポンと叩き、にやりとする。
「帰るぞ。勝利の、勇者の凱旋だ」
◆
ドッカに戻った四人は――否応なく英雄扱いだった。
城門前で見張りの兵士がアレルを見た瞬間、息を飲んだ。
「まさか……成功したのか……?」 「遺跡を……本当に解放したのか!?」
歓声が連鎖のように広がり、
兵士、住民、子どもまでが押し寄せる。
カザドが叫ぶ。
「我らが勇者、アレルがダンジョン解放やり遂げたぞぉぉー!!」
「勇者様だ!!」 「勇者アレル様だ!!」
アレルは少し戸惑いながらも、苦笑しつつ手を上げて応えた。
玄太・カザド・テスにも酒が次々と差し出される。
「ほれゲンタ!飲め飲め! 今日の主役じゃぞ儂ら!?」 「昼からかぁ?!悪くねぇ!」
「テスは魚はあるか!? 魚!」 「ある!あるけど落ち着け!! ワシは猫じゃない!!」
ワアアアアア――!
宴は夜遅くまで続き、歌声と笑い声が砦に響き続けた。
◆
その喧騒の中、玄太はカザドを呼び寄せた。
「頼みがある。――勇者の装備を作れ」
カザドの表情が一気に真剣になる。
玄太はメタル素材の山を指す。
「全部使え。最高の防具。最高の剣。だが一つ条件」
「条件?」
「硬さ頼りのゴテゴテにはするな。 動きを殺す防具は勇者には不要だ」
カザドはニッと笑い、胸を叩いた。
「任せとけ。誇れる仕事にしてみせる」
残りの素材はすべて換金。
玄太は言う。
「旅費にする。何日かはここにいるが次の目的地は決まってる」
テスが尻尾を揺らしながらニカッと笑った。
「クク……まだまだ冒険は続くわけじゃな」
酒の匂いと笑い声の中、夜は明けていく。
そして三日後。
完成した装備は――“勇者”の名にふさわしい輝きを放つことになる。
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