第23話 凱旋


■2-10: 凱旋


一閃---



黒いクリスタルが砕け散った瞬間、遺跡全体が――息を吹き返した。


光が柱の間を駆け、壁に刻まれたルーンが一つひとつ目を覚ますように輝く。

淀んだ空気は澄み、重苦しい瘴気は霧のように消えていった。


《――ダンジョン解放》


頭の中に響く無機質な通知音。


全員レベルアップ。


「うおおっ!? 筋肉がっ! すごいぞこれ!」

カザドが喜びすぎて暴れてテスの尻尾を踏む。


「いってええええええ!! 何するんじゃ馬鹿者!!」


玄太はいつも通り涼しい顔で、ただ腕を回す。


「経験値美味えぇー!」


アレルは光の余韻の中で呼吸を整えていた。

自分の内からあふれる何かが、さっきまでと違うのをはっきりと感じ取っていた。


強くなった。

もう誰にも言われなくてもわかる。



玄太はアレルの背をポンと叩き、にやりとする。


「帰るぞ。勝利の、勇者の凱旋だ」



ドッカに戻った四人は――否応なく英雄扱いだった。


城門前で見張りの兵士がアレルを見た瞬間、息を飲んだ。


「まさか……成功したのか……?」 「遺跡を……本当に解放したのか!?」


歓声が連鎖のように広がり、

兵士、住民、子どもまでが押し寄せる。


カザドが叫ぶ。

「我らが勇者、アレルがダンジョン解放やり遂げたぞぉぉー!!」


「勇者様だ!!」 「勇者アレル様だ!!」


アレルは少し戸惑いながらも、苦笑しつつ手を上げて応えた。


玄太・カザド・テスにも酒が次々と差し出される。


「ほれゲンタ!飲め飲め! 今日の主役じゃぞ儂ら!?」 「昼からかぁ?!悪くねぇ!」


「テスは魚はあるか!? 魚!」 「ある!あるけど落ち着け!! ワシは猫じゃない!!」


ワアアアアア――!

宴は夜遅くまで続き、歌声と笑い声が砦に響き続けた。



その喧騒の中、玄太はカザドを呼び寄せた。


「頼みがある。――勇者の装備を作れ」


カザドの表情が一気に真剣になる。


玄太はメタル素材の山を指す。


「全部使え。最高の防具。最高の剣。だが一つ条件」


「条件?」


「硬さ頼りのゴテゴテにはするな。  動きを殺す防具は勇者には不要だ」


カザドはニッと笑い、胸を叩いた。


「任せとけ。誇れる仕事にしてみせる」


残りの素材はすべて換金。

玄太は言う。


「旅費にする。何日かはここにいるが次の目的地は決まってる」


テスが尻尾を揺らしながらニカッと笑った。


「クク……まだまだ冒険は続くわけじゃな」


酒の匂いと笑い声の中、夜は明けていく。


そして三日後。

完成した装備は――“勇者”の名にふさわしい輝きを放つことになる。



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