第22話 首なし
■2-9: 首なし
王の祭壇は、氷点のような静寂に支配されていた。
高壇の前に、騎士の鎧が佇む。
頭部はない。
右手に大剣、左手に己の首を抱えている。
デュラハン。
アレルは一歩前へ進むと、振り向かずに言った。
「……俺ひとりにやらせてくれ」
制止の声はなかったが玄太が一言。
「針はメタル用だから剣で行け。」
そして、玄太が行ってこいと軽くアゴで前を促した。
デュラハンは静かに歩み出る。
まるで儀式のように剣を胸の前で掲げ――
左手に持つ首が、鈍い声で響かせた。
アレルは一瞬だけ目を閉じた。
そして、剣を胸の前で立て――
ゆっくり、深く、騎士団式の敬礼を返す。
デュラハンの首が満足げに頷く。
次の瞬間、大剣が閃いた。
――ドゴッ!!
アレルの身体が吹き飛び、床を転がる。
だが立ち上がる。
また斬られる。
また立ち上がる。
カザドが歯を噛みしめる。
「何やってんじゃあいつ! 避けろバカ! 死ぬぞ!!」
テスの尻尾が震える。
「……受け続けておる……!」
「……大丈夫だ」
玄太は言う。
デュラハンが振り上げる度、アレルは殴り飛ばされる。
骨が軋む音ような音が響く。
それでも――アレルは挑発も嘆きもない。ただ事実を確認するように呟いた。
「……おかしい……遅い……?」
デュラハンの動きは急加速している。
なのにアレルの目には、まるでスローモーション。
アレルは首を傾げる。
玄太はわかっていた。
強くなりすぎてデュラハン程度じゃものたりねぇよなぁ?!
デュラハンは空気が震えるほどの咆哮を上げ、全力の一撃を繰り出す。
アレルは、また真正面から受け止め――
刹那、笑った。
「……全部わかった」
床を踏み砕く一歩。
振り抜く剣――ただの一撃。
玄太が叫ぶ。
「決めちまえッ!!」
――パァンッ!!
剣がデュラハンをの鎧を縦、真っ二つに断ち割った。
沈黙。
テスもカザドも、そしてアレル自身も固まっている。
デュラハンは、縦に割れた鎧の中で光の粒子へと崩れながら――
≪強者……認めよう≫
静かに消え去った。
力が抜け、アレルは崩れ落ちる。
その横で玄太がゆっくり通り過ぎながら、軽く笑った。
「さぁ――ダンジョン解放、最後の仕事だ」
壇上の奥。
不気味に脈打つ、ドス黒いクリスタル。
玄太は顎で示す。
「ぶち壊せ。アレル」
アレルは返事をせず、ただ立ち上がり――剣を握る。
その足取りはもう、紛れもなく“勇者”だった。
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