第21話 勇者覚醒?
■2-8: 勇者覚醒?
千柱の間に響いていた雄叫びと金属音が、ふっと途切れた。
――バタッ。
アレルがその場に仰向けに倒れ込んだ。
息は荒く、針は手から離れ、全身は汗と金属粉でぐしゃぐしゃだ。
玄太は結界の外へ歩みながら、淡々と告げる。
「半日 経過。よくやったな」
返事はない。
アレルは気絶にも近い眠りに落ちた。
「さて、休憩ターイムだ」 玄太はニヤリと笑う。
結界の中、皆腰を落とす。
カザドは声を上げた。
「素材が……山ほど残っとるぞ!? 全部レア中のレアじゃ!!」
テスも無表情なのに尻尾をブンブン振っている。
「くくく……メタル素材はダンジョンに吸収されづらいみたいじゃな……!」
「お前らで回収しとけ。売れば当分の資金には困らん。早く回収しとかんとダンジョンに吸われるぞ。」
玄太は淡々と焚き火を起こし、干し肉を串に刺す。
香ばしい匂いがゆっくり広がる。
その匂いに、アレルの指先がぴくりと動き――
「……肉……?」
目を開けた。
腹が鳴った。
本人が一番驚いた。
玄太は振り返らず、火の前で呟く。
「起きたな」
アレルはぼんやりと上を見ていたが、すぐに状況を理解したようで、ゆっくりと身体を起こす。
立ち上がった瞬間――
身体が金色に淡く光った。
今までのレベルアップとは違う、深く、重く、静かな輝き。
テスが低く呟く。
「……覚醒レベルじゃな。魂そのものが強化されるアレ」
カザドが感嘆の息を漏らした。
「もはや別人じゃ……!」
アレルは光を吸収し終えると、針を握り直して小さく笑った。
「……まだやれるな。一休みしたら行くぞ」
玄太が串を裏返しながら、ようやく向き合う。
「その前に一つ。
このダンジョンのボスは――デュラハン」
アレルの表情が引き締まる。
玄太の声は熱ではなく冷静さを帯びていた。
「王を守るため、首を刎ねられた騎士団長の亡霊だ。
だから礼節を忘れるな。相手は“悪”じゃない。
この遺跡に神と言われる存在はいないんだよ。
元々生贄ささげるための祭壇だったしな…」
焚き火がパチリと弾ける。
玄太は続けた。
「――今のお前なら余裕だ。
心配してねぇ」
短い沈黙の後、アレルの頬がかすかに緩む。
「……ああ。任せろ」
玄太は干し肉をひとつ放る。
アレルは無言で受け取り、そのまま一気に噛み切った。
筋肉が鳴り、気迫が満ちる。
立ち上がった玄太の肩に、テスがぴょんと飛び乗る。
カザドも腰を上げ、笑う。
「行くか!!」
玄太は最後に一言だけ。
「――ぶちかましてこい、“最強の勇者”」
アレルは答えず、ただにやりと笑って前へ進んだ。
そして四人は、王の祭壇へと歩を進めた。
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