第19話 メタル狩り


■2-6: メタル狩り


千柱の間へ続く長い通路を抜けた瞬間――

アレルも、カザドも、思わず立ち止まった。


「……本当に、戦闘らしい戦闘がないまま来たな」

「ワシら、ここまで何しに歩いてきたんじゃ?」


アレルがリビングアーマーの足を切断。

バタバタと動けないのを素通り。


それほどまでに順調に、というより “予定通りすぎて”

違和感しかないほど順調に、四人は千柱の間へ到達した。


巨大な空洞。整然と並ぶ千の柱。

天井は見えず、奥行きは闇に消えている。


玄太がすっとアレルの肩を叩いた。


「言ったよな。ここまで来れた時点で勝ってんだってよ」


そして、まったく緊張の色も見せずに続ける。


「アレル。前教えた魔法陣、全員が休憩できる程度の広さでいい。すぐ張れ」


アレルは戸惑いながらも頷き、床に青白い線を描き始めた。

完成すると、静かな膜のような結界が展開し、外の空気から切り離されるような感覚に包まれる。


その中で玄太は荷物袋から“それ”を取り出す。


――鍛冶場で作っていた作品。


鋭い、巨大な針。

ナイフと同じくらいのサイズの、やけに太く重い 針。


カザドの目がニヤニヤしながら見つめる。


「なんでそんなもんを作った……!? 武器でも道具でもないだろ!」


アレルは叫んだ――

玄太の一瞥で口が止まった。


玄太は針をひらりとかざしながら言う。


「ここ、“千柱の間”にはメタル系が出現する」


テスが眉を跳ね上げた。


「メタル系……?」


玄太は頷く。


「素早くて、硬くて、逃げ足が異常に速い。倒すのは困難。

……だが経験値は桁違いだ。手っ取り早くレベルを上げるには最高だ」


カザドは針を指差す。


「攻撃力がなさそうだが、それでどう倒す?」


玄太はニヤリと笑う。


「攻撃力なんざいらねぇ。

この針で急所をぶっ刺す。

当たりさえすれば──運次第で一撃必殺」


アレルは混乱しながら問い返す。


「メタル系なんて見たこともないが……何をすればいい?」


玄太は針をアレルに突きつけた。


「お前が刺すんだよ」


アレルは目を見開く。


「な、なんで俺!? テスの方が速いだろ!?」


玄太は即答した。


「運だ。

メタル系は足が速い。

だが“豪運”なら当たる。

それに運があればよく出現する。

お前が最適なんだよ」


アレルは言葉を失った。


――豪運。

玄太がこの世界で最初にアレルを選んだ理由が、薄ら理解できてしまった。


玄太は立ち上がり、静かに告げた。


「いいか。

ここからはメタル狩りだ。

数匹で一気にレベルをぶち抜く。

俺たちは明日から“バッドエンドの未来”を潰しに行くんだ。

その前に――全員、一段階上げる」


結界の外で、金属の擦れるような音が響いた。


ギギ……ギギギ……


柱の間を、銀色の小さな影が高速で横切る。


玄太の目が鋭く光る。


「来たぞ。

メタルは逃げる。迷うな。

アレル、自分を信じろ。

“ぶっ刺せ”!」


針を握ったアレルの喉が、緊張で鳴る。


次の瞬間――


メタル系と呼ばれる怪物が閃光のように飛び出した。


「行け、アレル。

ここを越えたら──お前が世界を変える番だ」




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