第12話 火酒と盟約



■1-12; 火酒と盟約


宴は夜を越えて続いていた。

炉の熱は落ちても、酒と笑い声の熱はまったく下がらない。


肉の山、酒樽の山、空の瓶の山。

その中心で玄太とドワーフが肩を組んで大爆笑している。


「ガーハッハッハッハ!! 最高だゲンタ!!」


「ヒャーッハッハ!! お前も最高だろカザド!!」


――そう。

鍛冶師の名は カザド といった。


筋骨隆々、髭は炎のように赤い。

だがその瞳は老人のように落ち着き、どこか諦観が混ざっている。


テスは肉皿を咥えつつひそひそ声で言う。


「カザドは隠居した鍛冶師らしい。己の好きな物だけ打って暮らしておるとか」


アレルは呆れ半分、警戒半分で返す。


「その割にめちゃくちゃ元気だが?」


「酒が入ればドワーフはみなああなる。種族の仕様だ」


とんでもない仕様である。


カザドは酒を煽りながら語りだす。


「人間とドワーフは共存関係よ。だが――勘違いした人間の貴族どもがうるさくてな。  

“ドワーフは道具を作ればいい”などとぬかすクズもおる」


アレルの表情が鋭く変わる。


「そんな連中、俺が――」


「やめとけ、脳筋バカ。いちいち相手にしてたら日が暮れるぞ」


玄太が酒瓶を振りながら割って入った。


カザドはそんな二人を見て、にやりと笑う。


「まぁ、気にせんでええ。今は隠居の身よ。好きなことだけやれりゃいい」


玄太はそこでようやく本題を切り出した。


「その“好きなこと”に、ちょっと付き合ってほしいんだ」


すっと表情が変わる。

酔っていても、言葉の芯だけは鋭かった。


「カザド。ドワーフの国――“ドッカ”にある遺跡、解放したい」


鍛冶場の空気が一瞬静まる。


玄太は続ける。


「“戦士の神殿”。

 他の遺跡と違ってダンジョン化した後も宝も鉱石も出ない。魔物ばかり。

 なのに鉱山のすぐ横だから被害が広がってる。厄介だろ?」


アレルはそこで初めて悟る。


――玄太はただの知識オタクではない。

問題の“裏道”を常に探しているやつだ。


カザドは顔を伏せ、数秒の沈黙の後――


「……気に入ったァ!! 協力してやる!!!」


拳を突き上げ、獣じみた笑い声を上げる。


「だが作ってやるかはお前の力次第だ!!」


玄太は頬をゆるめ、口の端を吊り上げた。


「任せろ! この酒カス!」 

「お前もじゃろ!!」


「ガーハッハッハッハ!!」


「ヒャーーッハッハッハ!!」


二人は酒樽を抱えながら、鍛冶場の床を転げ回って笑い続ける。


アレルは口をぽかんとあけたまま硬直し、


テスは、周りを走り回りながら魔法で酒の器と肉を口に運ぶ。


――アレルは頭を抱えるしかなかった。



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