第11話 鍛冶場にて
■1-11; 鍛冶場にて
扉の奥は地下に向かう長い階段。
壁中に埋め込まれた鉄管と歯車が鳴り、まるで巨大な機械の腹の中を歩いているようだった。
「ここはどこだ? 何をしに来たんだ」
アレルは剣の柄に手をかけ、警戒を強める。
玄太は振り向きもせず、薄く笑った。
「ショートカットだ。」
その顔は完全に悪魔のそれ。
テスはずっと頬がゆるんだまま、愉快そうに尻尾を揺らしている。
階段を降りきると、広大な鍛冶場に出た。
灼熱の炉、轟音、火花の雨。
屈強な腕のドワーフが巨大なハンマーで鋼を叩きつけ、周囲は鉄と火の匂いで満ちている。
ドワーフは作業を続けながら低く問う。
「……何用だ、人間」
玄太はすっと姿勢を正し、右手を胸に当て軽く頭を下げる。
「鉄と火の神の加護あらんことを。ゲンタと申します」
ドワーフはしばし玄太を観察し、鼻を鳴らす。
「……人間にしては礼儀は知っておるようじゃ。打ち終わるまで待て」
それきり一言もなく、再び鋼を叩き続けた。
火花が散り続けること一時間。
ようやく作業が終わり、ドワーフは玄太の前に歩み寄る。
「……で、要件は何じゃ?」
玄太は満面の笑みで、持ってきた酒瓶を掲げた。
「そんなことより――強い酒、土産です! 一杯どうですか!?」
沈黙。
ドワーフは下を向いたまま肩を震わせはじめた。
アレルは小声でテスにささやく。
「……おい、これヤバいやつなんじゃないのか?」
テスは目を細めながらニヤニヤ。
数秒の後――
ドワーフが弾けるように大笑いした。
「ガッハッハッハ! 人間でお前ほど気の利いたやつは見たことがねぇ!
肉も奥に山ほどある! 焼けェ! 酒盛りじゃあぁ!!
話はその後だ!!!」
鍛冶場が一瞬で祝宴の空気に塗り替わる。
玄太は口の端を吊り上げる。
“計画通り”と言わんばかりの歪んだ笑み。
アレルは頭を抱えながら嘆息し、
テスはノリノリで肉を運び始める。
鉄と火の神の加護を受けた鍛冶場に、
笑い声と酒の匂いが満ちていく――。
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