第10話 ひらけゴマ
■1-10: ひらけゴマ
三日後――。
髪はボサボサ、服は皺だらけ、目の下に濃いクマ。
玄太はフラフラになりながら集合場所へ戻ってきた。
アレルは鼻をひくつかせ、真顔で言った。
「……玄太。まず風呂だ。汗とインクと何か死んだような臭いが混ざってる」
「は? 研究の香りだろうが。知性の匂いだ」
「いや、ただ臭い」
言い返す暇もなくアレルに首根っこを掴まれ、玄太は風呂場へ強制連行された。
テスはその背中に肩を震わせながらつぶやく。
「天才は時として自分の臭気に気づかぬものよ。悲しいのう」
湯から上がると、アレルがいつの間にか買っておいた新しい服を放り投げてよこす。
「着ろ。そのままだと王都の衛兵に捕まるぞ」
「くくく……世話が焼ける仲間よのう」とテスは笑う。
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夜。
三人は再度集まり、玄太が真っ先に口を開いた。
「宿も風呂も礼は言わん。見返りは倍にして返してやる。
稼いだ金で“強い酒”を山ほど用意しろ。
あと、買えるだけ高価な鉱石だ」
アレルは眉を寄せた。
「またか。その理由は?」
「説明したら一晩かかる。だから“はい”だけ言っとけ」
テスも肩をすくめる。
「性格は最悪だが、こういう時の判断は間違わんぞ、脳筋バカ」
アレルはしぶしぶ頷いた。
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そして全員の用事が終わった深夜。
「行くぞ」
玄太が向かうのは城下の外れ、朽ちた倉庫と廃屋ばかりが連なる寂れた区画。
「なぜこんな場所に?」とアレルは眉をひそめる。
人影はない。物音すらない。 行き止まりの石壁の前で、玄太は立ち止まった。
そして静かに、しかしはっきりと詠唱する。
「――鎚よ踊れ 鉄よ答えよ」
ドン、と鈍い咆哮のような音。 無機質な壁が震え、石畳が波打つ。
次の瞬間、壁面が折りたたまれるように変形し、重厚な鉄扉が現れた。
アレルもテスも言葉を失う。
玄太は振り返らず、当然のように扉へ歩き始めた。
「待てゲンタ! ここは何だ!」
問いは無視。 ひたすら奥へ進んでいく。
テスは小さく息を呑む。
「……鉄と火の匂いがする。こやつ、本当に何をする気じゃ」
アレルは剣の柄に手を添え、深く息を吸った。
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