第9話 キングダム


■1-9: キングダム


勇者アレルがいるおかげで、王都の巨大な城壁に近づくと周囲の空気が一変した。

遠くからでも気づいた門兵が慌てて走り、声を上げる。


「ゆ、勇者アレル様!? 戻られたぞ!!」


歓声が一気に広がり、門の上からも警備兵が顔をのぞかせる。


「勇者様だ!」「本物だって!」「帰ってきたぞー!!」


完全にスター扱いである。

村での静かな生活を思い出し、アレルは気まずそうに小さくため息をつく。


門兵が駆け寄り、深く頭を下げた。


「ご無事の帰還、何よりでございます! ……お供の方々は?」


アレルはほんの一瞬だけ間を置き、すっと背後を手で示す。


「仲間の…魔物使いだ」


門兵は「魔物使い」という単語にビクリとしたが、勇者の連れとなれば話は別だ。

顔を強ばらせながらも、すぐに礼を取る。


「し、失礼いたしました! 城下へどうぞ!」


馬車すら渋滞する時間帯だというのに、門は特別に全開。

アレルたちは一切待ち時間なしで王都へ入る。


──が、その直後。


テス(黒猫)はアレルの背中に視線を刺し、低い声でつぶやく。


「……我を魔物扱いしたな、この脳筋バカが」


アレルは聞こえなかったふりをする。

玄太はそれを聞いてニヤニヤが止まらない。



---


市街地に入ると、玄太は素材の入った袋をアレルへ突き出す。


「魔物素材、ギルドで換金しといて。宿の確保もな」


「は? お前が行けばいいだろ」


「俺は三日、図書館に籠もる。知能はあるがこの世界の知識が足りん。

だからお前らは“知識の代わり”を稼いでこい」


言ってる意味はわかるが、言い方がムカつく。

しかし目的のためだと割り切り、アレルはいつものように眉間に深いシワを寄せる。


「……はいはい。行けばいいんだろ」


テスはアレルの肩からひょいと飛び降りて横に並ぶ。


「ふん、脳筋だが有能ではある。宿探しは任せようぞ」


アレルは渋い顔、玄太はひたすらニヤニヤ、テスは気分上々。


三人の温度がまるで揃わないまま、王都での次の幕が上がる。



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