第8話 しこみ


■1-8: しこみ


酒のせいもあって、三人が目を覚ましたのは昼前だった。

村の宴はすっかり片付いていたが、朝から働くマリヤ族たちの姿に

アレルは少し居心地悪そうに頭を下げる。


「さて、王都へ向かうぞ」


そう言い出したのは玄太だ。

まるで昨夜の酔いも残っていない様子で、妙にハイテンション。


「王都へはそこまで遠くはない。日が暮れる頃には着くはずだ」

アレルの言葉に玄太は満足げに頷き、次の瞬間、突然振り返ってアレルを指差す。


「なぁアレル、若干獣とか魔物は出るだろ?」

「あぁ。そう多くはないがな」


その返答に、玄太はニヤリと笑う。


「なら――パーティーを組め!」

「は?」

「いいんだよ。『はい』と言えばそれでいい」

「……はい」

「テスもだ!」

「はい」


頭の中でだけピコンと音がする



勢いだけで押し切られ、アレルは仕方なく了承する。

その様子を、テスは尻尾をピンと立てて面白がっているかのようだった。


王都へ向かう道中、数匹の魔物が現れた。

アレルは剣を抜き、淡々と対処し、テスは軽い魔法で援護。

玄太はというと、なぜか後ろで魔法陣の形と数式を照らし合わせて

ブツブツと呟いているだけ。


日が暮れ始めた頃、三人は街道脇で野営をすることにした。

交代で睡眠を取ることになり、最初の休憩はアレルの番。


しかしアレルが横になっても、何故か落ち着かない。

少し離れた場所で、焚き火を挟んで座る玄太とテスが――


「いや、あれはこう最適化して――」

「ほほぅ……そなた頭おかしいのでは?」

「最高の褒め言葉だなテス!!」


という会話を、ひそひそ声で延々と続けている。

笑い声は小さいはずなのに、不気味さだけはやたらと大きい。


アレルは深いため息をつく。


(……明日には王都だ。とりあえず休もう)


瞼を閉じると、遠くで聞こえる夜の虫の声と、

玄太とテスの含み笑いが奇妙に混ざり合った。


――王都へ。

その先に何が待ち受けるのか、まだ誰も知らない。


――――――――――

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