第5話 一日一回


■1-5: 一日一回


地鳴りはすぐに振動へ変わり、振動は悲鳴へ変わった。


「魔物だ! 武器を持て!」 「子どもを家の中へ! 早く!」


玄太はのそりと腰を上げ、家の戸を開けて外を見た。


村の入り口──木柵をなぎ崩し、ゴブリンとオークの群れがなだれ込んでいた。

先陣で迎え撃っているのはアレル。青い服の青年は剣をかざし、すでに数匹のゴブリンを倒している。


玄太は肩のテスを指で突っついた。


「……スキルのテストチャンスだな」 「楽しそうに言うな」


玄太は空を見上げ、ぽつりと呟く。


「運命の天秤。この戦い……勝てるか?」


――沈黙。


反応なし。


玄太はキレた。


「はぁ!? この状況で動かねぇのかよ!? 何のためのスキルだよクソ!!」


テスがドン引きの目で見上げる。


「怒鳴る暇があるなら逃げ支度でもしてはどうだ」


「いや待て。詳しい効果説明あるだろ……」


玄太は目を閉じ、脳内の“メニュー画面”を開く。

下層にスクロールするとスキルの欄があった。


――【運命の天秤】

はい/いいえで返せる全ての質問への回答が可能。


※小さく表示されている文字


( 一日一回 )


玄太は絶望的な声を上げた。


「おいふざけんな! ピンポイントで1日1回!? 

リセマラ不可のクソスキルじゃねぇか!!!」


叫んでいる横で、戦況はすでに始まっていた。


テスが肩からふわりと降りる。


「下がっておれ、そなたは足手まといだ」


「言い方ァ!」


テスは黒い毛並みを逆立て、前線へ一歩踏み出す。

アレルがオークの大槌を受け止めている所へ横から乱入した。


「よく来た黒猫!」 「肩慣らしにちょうど良い」


テスはジャガーの姿となり、前脚を払うように振る。


――瞬間、魔法陣が空中に展開。緑の紋がぐるりと回転した。


ボッッッ!!


風がきれいに扇状に広がり、前方のゴブリン五体、一瞬で首と胴体が分かれる。

アレルは驚きながらもその隙にオークの首を切り裂き、さらに突進する。


その迫力は“勇者と魔法使いが並び立つ”光景そのものだった。


……ただ、その後方で。


玄太だけが別の意味で目を輝かせていた。


「あの魔法陣、コードだろ!? 待て待て待て……語順がC#寄り……いやRuby混ざってね!? 構文見える!! えっぐ!!!」


口を塞ぎもせずブツブツと解析を始め、完全に一人で盛り上がっている。


いつの間にか魔物はほぼ殲滅されていた。


村人たちは息を飲みながら戦いの跡を見つめる。


焦げた地面。倒れた魔物。

前に立つアレルとテスは剣と魔力を鎮め、振り返った。


そして、その後ろで。


玄太だけがひとり――



「この世界……プログラムでできてる!! 俺、最強じゃん!!」



と、なにもしていないくせに


「ヒャッハァ!!」と最高の笑顔で歓喜していた。


……全員の視線が、冷えた。


村人A「……あの人、襲われて喜んでない?」 村人B「怖……笑ってる……」

子ども「ママ、あの人やだ」


アレルはテスに小声で尋ねた。


「……あいつ、本当に大丈夫なのか?」 「さあな。わからん」


テスは肩をすくめ、しかし声を震わせながら――


大笑いした。


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