第4話 ステータスオープン!

■1-4: ステータスオープン!



案内されたのは、村の外れにある丸い土壁の家だった。

木の床は乾いていて、窓から差し込む陽光が柔らかい。



「ここなら休めるだろう。食事も用意してくる。少し待っていてくれ」


アレルはそう言い、村長の家へ向かっていった。


遺跡の状況を詳しく聞くため、しばらく別行動。

部屋には、玄太と――肩の黒猫テスだけが残る。



木皿に盛られた果実と穀物の香りが漂ってきて、腹が鳴った。



「……ふぅ。落ち着いたところで現状整理だな」



玄太は座り込み、腕を組んだ。



(ゲームそのまんま。マリヤ族の村、遺跡異変、アレル……

ここまではシナリオ通り。でも俺が転生してる理由とテスはシナリオ外。)



肩の黒猫が、くい、と尻尾を立てる。



「む……そなた、また難しい顔をしておるな」


「お前のせいで情報量が多すぎんだよ」


「それはそなたが勝手に考えておるだけであろう」



軽口を叩きながらも、玄太の視線は一点に固定されていた。



(この世界、UIは? インターフェースは?

ゲームだった頃にあった“アレ”、出ねぇかな……)


思わず、口をつく。




「ステータス……オープン」




……何も起こらない。



テスがじとりとした目で見てきた。


「何をしておる、そなた」


「いや……ちょっと試しだよ。ロマンってやつ」


「ロマンより飯の心配をしたらどうだ」


「いや俺は今、もっと大事な検証をしてるんだよ」



そう言いながら、玄太は続ける。



「メニュー……開け。……開けよ? 開けって」



沈黙。



「……おぉい。お前、魔法猫なんだろ? なんか反応しろよ」


「我は便利な道具ではない」


「クソ。UI非対応かよ。ゲームなのに……」



だが諦めず、玄太はさらに続ける。




「スタート……ボタン……とか」




その瞬間。




――ピコン。




何か、耳の奥で“機械的な音”がした。




玄太は背筋を伸ばす。




(今……聞こえたよな?)




テスが眉をひそめた。




「……今、妙な“揺らぎ”を感じたぞ。そなた、何をした?」


「いや、何も……? ただ言っただけ……」




玄太は言葉を切り、心の中で違和感の正体を探った。



(この音……ゲームで聞いた効果音にそっくりだ)




脳の奥が“システムメッセージの気配”を拾っている。

ゲームプレイ中には見えなかったが、今は体ごとこの世界にいる。



だからこそ“異物”として感知できる。



目をつぶって考え込む。


そこには見慣れたあのゲームのメニュー画面が。



「ヒャッハァ!!」



ビクッと驚くテスを背に玄太は悪魔のような笑みを浮かべる。




ステータスにカーソルを合わせ決定。




――再び、ピコン。




今度ははっきりと聞こえた。

黒猫の毛が逆立っている。



「……ゲンタ。そなた、何かが“起動した”ぞ」



玄太は小さく笑った。



(やっぱりな……

この世界には“システム”がある。俺専用の……)



その表情は表向きは落ち着いていたが、

心の底では――ひどく楽しそうに、黒く笑っていた。



(……ハッハァ…運命の天秤…か)





その直後。



家の外で、鈍い“地鳴り”がした。


テスが耳を立てる。



「……来るぞ。人の気配ではない」



玄太の口元に自然と笑みが浮かぶ。




(お、イベントフラグか。

丁度いい……“テスト”してみっか)


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