第3話 はじまりの むら


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■1-3: はじまりの むら


「ここは……マリヤ族の村だよな…?」


思わず声が漏れた。


木々の間から現れたのは、小さな集落だった。

石と土で組まれた丸い家、天日干しされた果実の香り、ゆっくりと流れる川。

それらが、柔らかな光の中で静かに息をしている。


(うわ……ゲーム通りだ。序盤の“マリヤ族の村”)


肩の上のテスが尻尾をぱたりと揺らす。


「知っておる風だな、ゲンタ」


「まあ、ちょっと……な」


はぐらかすしかない。

“ヤリ倒したのゲームの世界に転生した”なんて、説明して信じるわけもない。


村に足を踏み入れると、数人の住民がアレルを見つけて駆け寄ってきた。


「アレルだ! 帰ってきてくれたのか!」


「うちの若いのが森で魔物を見たと言ってたが……無事で良かった」


人々の表情には、不安の奥にある安堵が滲んでいた。


アレルは柔らかく微笑む。


「心配をかけたな。今日も異常はなかったか?」


「……ああ、多少はな。ここ最近、森の魔物が増えている」


その言葉に、玄太の脳裏にゲームの記憶が自然とよみがえる。


(そうだ。マリヤ族の村は“ククルカ遺跡の異変”が最初の大事件だった)


マリヤ族は元々、古代文明イツァマリヤの末裔。

神が夜に巡礼したとされる聖地――ククルカ遺跡を守るために暮らしていた。

だがその歴史は長くの時代で誤解され、


“呪われた一族”“不吉を呼ぶ守人”


そんなレッテルを貼られ、差別の対象となっていた。


(……ほんと、報われねぇ設定だよな……)


そして、異変の原因は知っている。


――魔族の侵略だ。


遺跡に魔物を放ち、

古代の聖地を邪気で汚染し、

本来の神の力を捻じ曲げて“邪神化”。


遺跡をダンジョン化してで死んだ者の魂は、

生贄を魔王復活のためのエネルギーとして利用される。


それを皆知らず、資源や魔石が豊富だから潜っていく。


序盤の村にしてはやたら重い設定だったのを思い出す。


村の長老らしき人物がアレルへ近づいた。


「アレル、おぬしの帰還は心強い。しかし……ククルカの遺跡が再び騒がしい。

あれは、もう“聖地”ではない。魔物の巣だ」


アレルの眉がわずかに曇る。


「……分かっている。だが、遺跡を放置すれば、村が危なくなる」


玄太は横目でアレルを見た。


(ゲームではここで“アレルが遺跡に挑むイベント”が始まるんだよな)


だが、肩の上の黒猫――テスが低く笑う。


「ふむ……この地に満ちる力、やはりただ事ではないな。

闇に染まった神気の匂い」


長老の視線がテスへ向く。


「その黒猫は……?」


「気にするな。ただの猫……ではないが、悪さはしない」


アレルの苦笑に、長老は複雑な表情をしたが深く追及はしなかった。



村の奥に案内されながら、玄太は小さく息を吐く。


(――ここからが本番か)


自分が知っている“ゲームの始まり”が、今まさに動き出そうとしていた。



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