第一話 寿命口座と余命マイナスの王女⑤

リシアは、息を整えながら最後の大型の首をはね飛ばした。

 血煙の中で剣をおさめ、砦の上を見上げる。


 碧い瞳が、俺を捉える。


 彼女は、にかっと笑った。


「ねえ、そこの新顔!」


 まだ戦場の余韻が残る空気の中で、場違いなほど明るい声が響く。


「今、一瞬だけね、胸のあたりがふわっと軽くなったんだ。

 なんか、“寿命、ちょっとだけ返してもらった”みたいな変な感覚」


 俺は、言葉を失った。


「心当たり、ある?」


 リシアは、冗談とも本気ともつかない顔で首をかしげる。


 俺は石壁に寄りかかりながら、乾いた喉で答えた。


「……さあ。気のせいじゃないですか」


「ふーん?」


 彼女はそれ以上追及せず、代わりに右手をひらひらと上げた。


「ま、いいや。

 あたし、リシア・ヴェイルハート。余命マイナス王女。

 そっちは、二階の窓から危なっかしく覗いてた新顔でしょ?」


「春日悠真。……まあ、似たようなもんです」


「じゃ、ユウマでいっか。

 さっきの“気のせい”が気のせいじゃなかったら──」


 一拍、わざと溜めてから、リシアは笑った。


「いつかちゃんと、恩返しさせてね」


 その言葉に、数字とは関係ない何かが、胸の奥で小さく鳴った。


(俺は、二周目の寿命を一年、見知らぬ王女に使った)


 それが正解かどうかなんて、今は分からない。


 ただ、この砦の上で、もう一度だけ“誰かのために残業する”道を選んだのは確かだ。

 その誰かが、余命マイナス王女だった、というだけの話だ。


(第一話 了)

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余命マイナス王女のバフ係 ―寿命口座チートの俺が選ぶのは、最悪じゃない地獄― のだめの神様 @nodamemenme

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