6:女従者アルフィナの剣-光剣になった女従者-

 :女従者アルフィナの剣-光剣になった女従者-


 -光剣城-


 かつて剣の王が、闇魔族との戦いのために戦士の育成用に建てた城。


 闇魔族との和睦がなってもまだ、その役割は続いていて、城主の認めを受けて「勇者」となると、各地で恩恵が受けられる「パスカード」をもらえて優遇される。そして「箔」もつく。


 認めを受けて「勇者」となった者は、その実力を査定されて、「AからE」までのランク分けをされて、パスカードにも記載される。


 そして、決まりという訳ではないが、大抵の勇者は、「従者」を持った。


 強くても、補佐役、雑務役は必要なことが多いから。


                    ☆


 勇者ラーンも、その光剣城に認められた一人だった。


 愛用の片手剣を持ち、左手には固定式の丸盾、鎧は革の簡素な物。


 ランク的には「C」ランクと平凡な部類だが、金髪で整った顔立ちの彼は、女性に人気があった。しかし彼には「先約」がいた。


 従者である、アルフィナという、眼鏡をかけて杖を持ち、白いローブを着た知的美人だ。


 彼女は黒、白の両方の系統の魔法を使え、杖術にも長けている。


 何故こんな、優秀な従者が、「C」ランクのラーンについているかというと、これには少し訳がある。


 彼女は、ラーンが雇った「優秀な従者」だったのではなく、


 ラーンのために、修達して自ら従者になったのである。


                ☆


 ‐この経緯は、少し話がさかのぼる。


 幼い彼女には、幼馴染の男の子がいた。


 男の子は「俺は、光剣城を出て、勇者になるんだ」といっていた。


 そして、大人しい彼女が、他の男の子達にからかわれていると、必ず助けに飛んできた。


「お前ら、よってたかって、恥ずかしくないのかよ!」


 男の子は、棒きれを振り回して、他の男の子達を追い払った。


「お前は俺が付いてないと、ダメだな。光剣城を出て勇者になったら、俺が従者にしてやるよ。守ってやるから安心しろ」


 そういって、彼は幼年から、光剣城で修行するべく、故郷の村を後にした。


 そして、成人して、「C」ランクの勇者になった彼が故郷に戻ると、女の子は、優れた魔法使いになっていた。村の武術家から、杖術まで、習って。


                ☆


 そして、「C」ランクの勇者ラーンと百年に一人の才女と言われる魔法使いアルフィナは、人々の、平和のために、戦うことにしたのだが…。


 闇魔族との和睦が成っているので、それほど大きな依頼はなく、主に、はぐれで生息する劣鬼つまりゴブリンやオーク、コボルド等の退治がほとんどだった。無理に二人がこなさなくても、他の冒険者がこなせる依頼でもあったので、二人の立ち位置は微妙だった。それでも、アルフィナは文句一つ言わずにラーンを補佐するのだが。


 ある日、酒場で二人が食事をとっていると、「A」ランクの勇者、「魔法を無効化する籠手」を持つ武闘家、「メイガスキラー」のルークが、同じテーブルにつく。ルークは二人と同郷の出であったので、親し気に、


「二人とも元気そうだな。劣鬼ばかり相手にしているようだが、もう少し、マシな依頼はこなせないのか?ラーンもアルフィナも、俺と組めば、もっと強い敵と戦えるぞ。まあ、ラーンには少し荷が重いかもしれないが」


 ルークはこの少し前、邪教団を相手に一人で乗り込み、これを壊滅させていた。

 確かに、ルークと組めば、大きな依頼や強大な集団とも戦えるかもしれない‐


 が、アルフィナは、はっきり言った。

「お断りします。あなたは確かに強いけど、ラーンのほうが、強い心をもっているわ。それに、あなたも、馬に蹴られて死にたくはないでしょう?」


 要するに「恋路の邪魔をするな」ということだな、と解釈したルークは、手早く食事を済ませると、


「悪かったな、二人とも。まあ、死なない程度に稼いで、仲良くやってているといい」


 そういって、酒場を出るルーク。


 皆、それなりに平和と秩序のために戦い、それでいて、無難に仕事をこなしていたのだが、


 この後、思わぬ事件に巻き込まれることになる。


               ☆


「下手な魔物より、人のすることのほうが恐ろしい」


 と、ある学者がいったように、


 彼らの居る国、エクトールでは、王弟のオルウェンが、王に反旗を翻して、内乱を起こした。


 内乱自体はすぐに鎮圧されたが、この王弟は、追い詰められた際に、「己と家人の魂」を犠牲にして、


 一つの「禁呪」を使い、他次元への穴を開け、そこから、闇魔族ともまた別の、「異形の魔神」を呼び込んだのだ。


 その巨大な「魔神」は、館の屋根を突き破り、暴れてこれを倒壊させると、王都の方角に向けて進み始めた。


 王によって勇者たちが招集されて、これに当たるが、「A」ランクの勇者たちが束になっても歯が立たない。


 仮面のような装甲を顔面に付けた単眼の黒い魔神は、その眼から、光線を放ち、村や街を薙ぎ払いながら、ゆっくりと進んでいた。


 ラーンは、自分にかなう相手ではないと、王都で腐っていたのだが、アルフィナは彼に、一つの問いを投げかける。


「ラーン、ホントの勇者になりたくない?」と。


 ラーンは、こう返した。


「なりたいさ、でも、俺は「C」ランクで、大した力を持ってない。今の俺に何ができる?」


「私が、あなたの力になるわ」


 そういって。片膝をついて、祈ると、彼女は、燐光と共に、光る片手剣になった。


「これは…」


 ラーンがその剣を手にすると、それは彼の手にはっきりと馴染み、湧き出る力を感じさせた。


 アルフィナの声が頭に響く。「これは、「七星光剣」邪を滅するためだけに、使われる。私の、そしてあなたの切り札」


「行きましょう。ルークが、そして、みんなが、待ってるわ」


 ラーンは、手早く準備をすると、王都に向かう、魔神の所に、向かった。


               ☆


 ラーンがそこに着くと、ランクの高い勇者たちが、苦戦しつつも戦っていた。


 しかし、それが、足止め以上の成果をだせていないのも、見て取れた。


 負傷して、交代していたルークがラーンを見つけて、叫ぶ。


「バカ!何しに来た!おまえに何か出来る相手じゃない!!」


 アルフィナは、今度はルークの頭に語り掛けた。


「ルーク、時間を稼いで。私達が、なんとかするよう、やってみるから」


 ルークは、アルフィナの声と、光る剣を見て、何かをさっしたようで、


「いっとくが、俺も怪我してる。長くはもたせられないから、やるなら早めにたのむぞ」


 そういって、左手の籠手を構えて、ラーンを守る態勢に入る。


「ラーン、集中して、周囲の力をこの剣に、集めて…」


 ラーンが剣を構えて集中すると、周囲のから、光の粒子が剣に集まってくる。


 魔神もそれに気づいたのか、ラーンに向けて、眼から光線を発射する。


 割って入ったルークが、籠手をかざして、それの発する障壁で、光線を、防ぐ。


「籠手のルークをなめるな!」


 ルークが籠手を振ると、光線は、あさっての方角に、逸れた。


「今よ!ラーン。前に出て、薙いで!!」


 アルフィナの激で、ラーンがルークの前に出て、剣にためた力を解放する。


 それは、粒子を放ちながら、巨大な光の剣となった。


 ラーンが、気迫と共にその刃を魔神に向けて横に薙ぐと、バチバチと魔神を守る謎の障壁とぶつかり、火花を散らす。


「このおおー!!」


 ラーンがさらに力を込めると、刃の光はさらに強くなり、謎の障壁を貫通し、魔神を真っ二つに胴斬りにした。


 魔神は傷口から、黒い煙を出すと、サラサラと粉状になって、消滅した。


 ルークがラーンに駆け寄る。


「すごいぞ、ラーン。これでお前も立派な勇者だ」


 しかし、ラーンは答えず、光を失った剣に、何度も問いかける。


「アルフィナ!大丈夫か!答えろよ!アルフィナ!!」


 剣は力を出し尽くしたのか、普通の片手剣と何ら変わりないようラーンは感じて、剣を抱きしめて、泣いた。


                ☆


 その後、ラーンは王から褒章を受けたが、彼は、心ここにあらずであった。


 王都の宿の一室を貸し切り、剣に何度も語り掛けて、抱きしめた。


「信じないぞ、認めないぞ、こんなの…」


 そして、月の綺麗な晩の事。


 窓からさす月の光に照らされて、剣が淡い光を帯びる。


 そして、それは、従者のアルフィナの姿を取り戻した。


「力を使いすぎたから、少し時間がかかったわね」


 といい、つづけて、


「まったく、情けない姿。あなたには、人の姿の私がいないとダメみたいですね」


 ラーンはアルフィナを抱きしめて、


「剣の力なんかより、名声なんかより、お前のほうが、俺にはよっぽど魅力的だ」


「まったく、ほんとに、バカなんだから」


 月光の照らす中、二人はくちづけを交わした。


                ☆


 二人はこの後、故郷の村に帰り、村人の歓喜をもって迎えられたが、その功績を誇ることなく、離れの森に住居をもち、仲睦まじく、ひっそりと、穏やかにくらしたといいます。


(了)


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短編の詰め合わせ 夢月 愁 @214672

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