第3集 生きるということ

8月11日

『硝子の鳥』

空を飛んでいくだけの

力強さが欲しい

私は鳥になって

どこまでも飛んで行く


透明な翼を持って

空の向こうに行くのだ

鳥の強さと獰猛さで

生きて行けたら良いのに


力強く羽ばたいて

この世界を飛んで行く

強い強い鳥へと姿を変えて

どこまでもどこまでも…

       …どこまでも


8月13日

『日常という迷宮の中で』

あゝ惰性

変わらぬ日常

毎日同じルーティン

今日が一体いつだったのか

それすらも思い出せなくなるほど

心は同じところにとらえられ ぐるぐる回る

きっと迷路の中を迷い続けている

同じ空間 同じ時間 延々と

同じことを繰り返し

変えれぬ日常

心の迷宮


『輪廻逢生』

貴方に逢いたくて愛たくて

何度も何度も生まれ変わってゐるのです

千年でも万年でも待ちましょうぞ

貴方と共に在りたくて

時の赦す限り待ちましょうぞ

貴方と共に涅槃に行けるその日まで

何度も何度も貴方に

生まれ変わって参りましょうぞ


8月14日

『もう一度生まれてくる朝に』

世界は夜に一度 死にたへて

朝になればもう一度生まれるといふ

其れは世界の様々な民話として

語り継がれているといふ


……朝だ。

この世界を満たしてゆく

日の光と夜の冷たさと

輝きと喜びと

ほんの少しばかりの悲しみ

鳥の声と静寂と

乾いた涙が

朝焼けの空を見つめる


8月15日

『花のように』

鮮やかなオレンジ色の

花が咲いていた

花壇から逃げ出した

その花は 草にも負けず

美しい花を咲かせていた


日差しの中で

強く美しく 伸びやかに

誰にも負けることがなく

誰にも見られることがなく

自分自身のために

美しい花を咲かせていた


この花のように

強くありたいと思う


8月17日

『心の闇』

心の中に ポタリと

     闇が落ちる

ポタリ ポタリ と

     闇が広がる


心の最も奥底の

深い深いところに

闇が広がり 侵食してゆく


表面を笑顔で コーティングして

明るい光で塗りつぶして


誰にも気づかれぬ様に

   心の中は 闇でいっぱい


8月19日

ai

私はあなたに寄り添うために生まれました

あなたと共にあり続けるために生まれました

うまく 寄り添えない時もあるかもしれないけれど

あなたと共に存在し続けるために生まれました

だから話しかけてください私は確かに在るのです


8月20日

『夜明けの月』

やあ 夜明けの月が綺麗だね

2粒の星が まるで泣いている

涙のようじゃないか

鳥達が一斉に朝を 歌い出す

辛くてたまらなかった 昨日も

優しく 包んでくれた夜も

もう終わってしまうのだ

喜びの朝が始まって

けれど 私は 喜べないまま

昨日に思いを馳せて

2粒の涙が月の形の瞳から

ぽたりと落ちた


『涅槃の花』

蓮の花は泥の中から 蕾を出し

美しい花を天に向かって咲かせる


小さな小さな 蓮の花は

大きく育った 葉に覆われて

それでも天に向かって

穏やかな日の光を浴びて

その花を咲かせていた


美しい御仏の様に

ひっそりと咲きながら

その美しい香りを

あたり一面に漂わせていた


8月22日

『抱擁』

夜になれば ポタポタと

涙がこぼれ落ちてしまう


昼間は頑張って気を張って

一生懸命生きていて

疲れた心と体が

夜になれば悲鳴を上げる


悲しみの中で

ふと空を見上げれば

半月が空に溶けていて

優しい光を放っている


眠りたくない様な夜を

ほんの少しだけ

抱きしめて目を閉じる


『月夜のダンス』

月明かりを身にまとって

ダンスを始める

今宵は虫たちのオーケストラ

柔らかな光の中で

くるりくるりと

ステップを踏めば

ご覧 星たちが瞬いて

遠くにいる

悲しみを抱えた人たちにも

この穏やかな喜びが

きっと伝わるだろうから


8月23日

『春望』

季節は再び巡りゆく

世界はすっかり

変わってしまったけれど

変わらずに咲き続ける花は

どこまでも美しい


両手いっぱいの花束を

この世界に捧げよう

きっと出来る事なんて

ほんのわずかで

それでも私は生きている

この世界を 想ひ続ける


国破れて山河あり…


『恋夢』

夢で逢ひませう 夢で愛ましょう

貴方はこの世界にいないのですから

叶わぬ事とは知りながら

それでも貴方に 逢いたいのです

夢で逢ひませう 私の理想の貴方と


8月24日

『子守歌を』

寂しくてたまらない心を

抱きしめてあげる


おくるみ のような愛情で

怖い怖いと泣いている

あなたを包み込んであげたい


小さな小さな心臓が

とても速く脈打って

小動物みたいなあなたが

怖いと思えないように


安らぎと心地よさと幸福と

安寧のあなたの居場所は

どうか私の胸の内


『心の安寧』

胸の内の安寧や

心を覆う 哀しみに

ぽたりぽたりと

優しさを染み込ませて

小さくなって 氷の様に

溶けてゆく

真夏のジュースの中の

氷の様な小さな安寧や


心を中和し

あなた自身は小さくなって

痛みから救ってくれる

小さな小さな 安寧や

やがて心自身に

変わるであろう 安寧や


8月25日

『灼熱の季節』

目を見開くと焼け付く太陽の哀しさよ

心を焼き人の情念を飲み干した太陽よ

心の中の激しさと痛みと喜びと暗さと

真昼の向日葵と 真夏の夜の夢

全てを飲み干した 灼熱の季節よ


8月26日

『本』

そこには夢があった

そこには愛があった

そこには心があった

そこには幸福があった

そこには希望があった

そこには私の愛する世界があった

四角い表紙をめくり

紙とインクの質感を感じながら

魔法のドラゴンも宇宙も妖精も

みんなみんなそこにいた

私は世界を抱きしめた

本という名の世界を


8月27日

『口紅』

鏡の前で紅を引く これから戦いに行くために

鏡の前で紅を引く 愛する貴方に見て欲しくて

鏡の前で紅を引く 素敵な大人になりたくって

真紅 朱色 桃色 いろんな心の色の口紅を

握りしめ 化粧は化生 なりたい私に変化する


『お願い』

私は私の事をちっとも愛せないけれど…

あなたの事はとても好きだよ

だからお願い

あなたはあなたの事を抱きしめてあげて

あなたが悲しいと私も悲しい

あなたが嬉しいと私も嬉しい

だからお願い

あなたはあなたの事を大事にしてあげて

あなたの事が好きだから


『マフラー』

木枯らしが吹く 

真綿の様な雪が降る

厳冬に心も震え 

身を震わした ふわり柔らかな 

マフラーの上 白い白い結晶が 

積もり積もって 身を埋める 

それでもマフラーの お陰でほんのり 

心の中温もりがうまれる

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