第2集 夏の日常と愛のうた

7月17日

『雨の空』

シトシトと降る 雨の愛おしさよ

乾いた土を潤し

大地の熱を冷ましてゆく


雨上がりの空の 愛おしさよ

たっぷりの水を吸い込み

陽の光の下で

伸びやかに成長してゆく

命そのものの 愛おしさよ


雨の優しさも 陽の眩しさも

この世界そのものの 愛おしさよ


7月18日

『閉じた日記帳』

2人で綴った思い出よ


交換日記はあの日

パタリと終わってしまった。


キラキラとした美しい日々は

辛くて悲しい思い出となり

日記帳の鍵になってしまった。


唖々、涙の装飾が

 表紙を飾ってゆく。


捨てるには美しすぎて

見ているだけであまりに哀しい

引き出しの奥の日記帳


7月19日

『星座』

天空の星を

線でつないで行く

ほらほら あれは

ティーカップ座

そんな星座はないだろ?

君はあきれ顔だ


いいや あるのさ

僕の横に

ティーカップを持って本を読む

君の星座さ


7月20日

『夏の朝』

鳥の声がする

夜明けの太陽は

静けさを含んでいる


洗濯機を回しながら

庭の植物たちに水をやる


息子の声

ラジオ体操頑張ってくる

そう言って走って行く

小さな背中


玄関先には

大輪の朝顔が咲いていた


それは夜の冷たさを

吸い込んで瑞々しく

朝日に輝いていた


夏の1日が始まる


7月21日

『ひまわり畑』

夏の終わりの ひまわり畑ほど

うらめしいものはない

この世の全てを増悪するかのような

黒黒とした姿で立ち尽くし枯れている

夏の異様な明るさとは裏腹に

世界の全てを憎んでいるかの様に

そのままの姿で枯れている


…いや違うのだ

命を全うし

次の命を宿しているのだ

その大きな頭の枯れた花に


7月24日

『眠らぬ夜に』

冷蔵庫開けて

アイスコーヒーを1杯

眠りたくない夜


心の安寧は

昼間の騒がしさの中では

得ることが出来ず


空に浮かんだ月に

ポタリと涙が落ちる


とっくに日付は変わってしまったのに

今日という一日を

終えるのが嫌で

アイスコーヒーを1杯


微睡んでゆく意識

涙で霞む夜明けの黎明


7月25日

『道端の花』

道端に咲く花の名前を

私は知らない

すれ違う人の名前を

私は知らない

世界は私の視点でできていて

だが私の知らない事は

それこそ 星の数ほど在る

これから出会う事も

私が生まれてくる前の過去も

私が生まれる前から世界は存在して

私がいなくなっても 世界は存在する

だが…

我思う故に我あり


7月26日

『夢の中』

愛しくて愛しくて

あなたのことが

忘れられないみたい


何度も何度も夢の中に出てきて

優しい笑顔で笑って

それなのにどうして

現実の世界にはいないの


このまま夢から

覚めなければ良いのに


もしも夢と現実を交換できるなら

今すぐにだってそうしたい

だからもう少し

夢から覚めるのを待って


7月29日

『悪意』

何気ない一言は

だがそれでも 悪意があって

心に ぽたりぽたりと 染み込んでは

ゆっくりと蝕んでしまう


愛と憎しみは

似ている と誰かが言ったが

その2つはちっとも 似ていない

愛に似ているのは優しさだ

憎しみに似ているのは

殺意だ


嫌い嫌い大嫌い

いなくなればいいのに


『花』

痛みも苦しみも憎しみも

全部 土に埋めてしまって

綺麗な花に変えましょう


朽ちて 腐敗し 分解され

この世の全てと

混ざりましょう


たとえこの身が滅んでも

何度も 何度も

生まれましょう


この世で最も美しい

花へと姿を変えて

あなたに会いに行きましょう


7月31日

『憂鬱』

死にたくなるようなメランコリー

不安と絶望と悲しみと怒りと苛立ちと…


べっとりとしたタールの様なメランコリー

心の中に沈殿し何よりもドス闇い

唖々! 暗い闇い冥い儚い!


行き場のない不安は足元に張り付いて

身動き すら取れなくなる

憂鬱な心の色のメランコリー


8月1日

『心の傷』

毎日ちょっとした致命傷


きっと悩みは些細なこと

だけど私にとって

それは確かな痛みとなって

心を蝕んでいる


頑張っているはずなのに

うまくいかないことばかり


傷だらけになったハートを

言葉の包帯でぐるぐる巻いて

そっと抱きしめる


大丈夫だよ 頑張っているよ

痛くてたまらないハート


8月2日

『おくりび』

呼ばれなかった名前

私だけが生きた人間だった

お盆の送り火


空襲で焼けてしまった都市は

そんなことはなかったように

雑多にごった返す


それはきっと

百年前より賑わいを見せ

まるで何事もなかったの様に

過ぎてゆく


いつか私の名も

呼ばれる日が来るだろう

どうかその日まで…


8月5日

『熱帯夜』

焼き付くような暑さの中で

そっと目を閉じた

蚊取り線香の煙が

渦を巻いて上がって行く

熱帯夜の夜

笑ったような 半月が

空にかかっていた


8月6日

『朝から憂鬱』

目を覚ませば 蝉しぐれ

夜明けの光と共に

今日という1日を告げる


日常という 惰性

タスクという名のラベル

騒々しい 目覚ましの音

思考が再び動き出し

頭の中はすでに

混沌とした宇宙の創始と

なり果てる


始まってしまった今日に

諦めに似た感情

あゝ素晴らしき日々の混乱よ


『鎮魂花』

私はあなたに何を残せるだろう

何千何万という命の失われた

何十年も前の今日という日に


唖々 いとしき 小さな命よ

腕の中にすっぽりと収まってしまう

小さな愛しき命を

抱きしめて愛して 語りかけて


私はあなたに何を残せるだろう

私たちはすでに

戦争を知らない世代なのだ


8月7日

『愛の底』

愛をちょうだい

溺れて死んでしまうほどの

深い深い愛をちょうだい


そうすれば私は

愛の中で泳ぐわ

魚になって

あなたの愛の中で


唖々どうせならば

深海魚になりたいわ


光も差さない愛の底で

静かな静かな 愛の底で

生きてゆくの


愛をちょうだい

あなたの愛以外

何もいらないから


8月8日

『明日世界が終わるなら』

摩天楼の上から 空を眺める

見渡す限りの 青天の空

はるか上空に光る飛行機の軌跡

世界は無限大に増殖し続ける

永遠 無限 混沌 刹那


そんな中で 私たちは出会った


もし明日世界が終わるなら

君とずっと手をつないでいたい

この混沌とした世界の中で

君と二人


8月10日

『骨』

その髪に口づけをして

その瞳から目が離せないで

その腕を握りしめて

その声を 永遠に聞いていたくて

その姿を何よりも愛していた


どうしてもっと伝えなかったか

愛しているなど言う事が出来ず

今腕の中にあるのは小さな骨壷

その小さな貝殻に似た白い骨を

食べてしまいたいほど愛おしい


8月11日

『力になりたい』

あなたを傷つけるものを

殴り飛ばすことができたら良いのに


あなたを傷つけることから

守ることができたらいいのに


私はあなたのことよく知らない

SNS 上の関係だもの


だけどあなたが傷ついていたら

とっても悲しい


あなたを傷つけることから

救うことができたらいいのに

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