第7話

 ……こちらより被害が圧倒的に多い。


「そんな絶望的な状況下、ある人物が逆転の一手を打った」

「……逆転?」

「ええ。それが――」


 ルリナは立ち上がり剣に変身する。


「クロス。これによって人類は反撃を開始した」

「剣状態でも声出せたんだ……。どこから声出しているの?」

「ツッコミはそこなの?」


 そう言ってからルリナは人に戻り椅子に座り食事を再開する。


「まあいいわ。ヤツらに通用する心象の武器。それがクロス」


 ある鍛冶師が空から特殊な隕石を元に作った月牙のような物。素体クレセント元型アーキタイプと呼ばれる。

 それを使い手と融合させる事で、業――武器の形成も含む――が使えるようになる。


「業って……あの時に使った?」

「ええ。アレらは大半が使える基本中の基本」


 クリュサオルが使える業は全部合わせて十つ存在するので十業デカログスと呼ばれている。

 その中で……



 α:剣戟などの近接武器を形成する《カリバー》

 β:射撃武器の形成や遠距離攻撃の《イクサクシス》

 γ:遠隔操作が可能な物を形成する《レックス》

 Δ:防御や特定場所に形成する《シロフォン》

 ε:炎、氷、雷などの属性攻撃《キセロノン》



 この五つが基本業コマンドメンツと呼ばれる。


「これで得意不得意が出るし、複合している場合もあるわ」

「へえ。じゃあさ、ルリナは何が得意で何が不得意なの?」

「……。全部」

「……はい?」


 その顔は嫌な物を思い出した、とでも言うかのように苦々しい。


「全部得意で全部不得意なの」

「……どういう事?」


 それにルリナはジュースを飲んで一息入れてから説明を始める。


十業デカログスは基本が五つ、そして残り五つが応用なの」

「応用」

「ええ。そのうち三つは今は関係ないから除外」

「……気になるんだけど」

「また今度ね。それでもう一つは《ゼノグラシア》……固有能力の目覚め」

「固有能力?」

「ええ。これは千差万別」


 何でも大半のクリュサオルは苦手な業は役立たないに等しいらしく、この《ゼノグラシア》を含めて六つの事を基本業コマンドメンツと呼ぶ人もいたらしい。

 ……まあ四天王が五人だったり、十人衆に零番目や十一番目が居たりするので可笑しくはない。


「それでもう一つが《エグザイル》。かなり特殊」

「特殊?」

「ええ。クリュサオルは得意なクロスでαアルファβベータγガンマΔデルタεイプシロンに分けられるんだけど……」


 ルリナの親友は《レックス》が得意だったγガンマクリュサオルだったそうだ。


「六種類目が存在するの。それがΩオメガクリュサオル」

Ωオメガ……最後だな」

Ωオメガクリュサオルは基本業コマンドメンツの内一つしか使えない」

「あらま……」

「でもその代わり、その一つは特殊な性質や能力を持つ。だからこそ別区分になったの」


 かなり変わった業ばかりだったそうだ。

 例えば……



 ・様々な武具・兵器・乗騎を作り出す匣を形成する。

 ・肉体にクロスを混ぜ込み硬化させる。

 ・《■■■■■■■■応用業三つの一つ》しか使えない代わり■■■■が■いため■■出来る。



「――と言った感じよ」

「……つまりルリナはΩオメガのクリュサオルって事?」

「……。ええ」


 どうやら色々苦労したらしく顔に滲み出ている。


「自分一人だと弱体化している。基本すら怪しい」

「……アレで?」


 ホウガが彼女の戦いを思い出して聞く。


「アレで。二つ名持ちとかだったらあの程度一瞬で終わるわ」

「……」

「まあ、あたしも使い手さえ居れば一瞬もかからないけど」


 ルリナの場合、使い手が振るう事で真価を発揮できるらしい。

 しかも得意不得意が出る基本業コマンドメンツすら全部高水準で使用可能になる。


「とは言え使い手が中々見つからないから本当に苦労したわ……」

「そっか」

「使い手になる人を色々選り好みしていたのが悪かったのかしら?」

「……それのせいじゃないの?」

「仕方ないでしょう! 暑苦しい爺、嫌味なお局なんかに使われたくないわ!」

「それはそうだな」


 他者の気持ちになって考える事が大事。


「それである小隊に配属されてそこで武器として戦っていたわ」

「そうなんだ。特定の使い手は居なかったの?」

「ええ。共用の武器って感じかしら」

「何か……いやらしい」

「なんで!?」


 ホウガのコメントにツッコミを入れるルリナ。


「ま、今は良いわ」

「うん」

「……後で問い詰めてあげる。女性の部隊だからそんな事なかったわよ」

「百合は居なかったの?」

「居なかった……わよ」

「今の間は?」


 両刀バイなら居た。

 とは言え、嫌がる相手には手を出さない主義だったので手は出されなかった。


「そこでの日々は結構楽しかったな」


 楽しそうな顔で思い出を語って行くルリナ。

 任務だけの交友ではなく、共同休暇で皆で遊びに行ったりもしたらしい。

 ところが……


「あの屑のせいで全てがぶっ壊れた」


 楽しそうな顔が一変、ブチ切れる寸前の顔になるルリナ。


「屑?」

「無能な働き者」


 自分は偉く能力が高いと思っているうえ、他者を見下している。

 しかも誰も逆らえないくらい家柄が高かったのも悪かった。

 本当にどうしようもない奴だったそうだ。


「……撃ち殺さなかったの?」

「護衛を固めてた。しかもクリュサオルの」

「……固めてなかったら殺してたのか」


 コクリと頷くルリナ。

 とは言え上司なので我慢していたそうだ。

 ところがある命令によって全てが壊れた。


「ところで、さっきの話覚えてる?」

「どの話?」

「クリュサオルへの転身方法」

「確かクロスのもとと融合するんだっけ?」

「ええ。それなんだけどね……」


 顰め面をするルリナ。


「神経を繋ぐような物だから凄く痛いの」

「どれくらい?」

「大の大人が痛みで失禁くらいならよくある。発狂や精神崩壊も出る。死者が出た時もあるらしい」

「そこまで!?」

「うん」


 一拍置いてルリナは続ける。


「でも……あたしの使い手になればデメリットを踏み倒してクリュサオルになれる」

「あ」

「だからこそ……あの屑はあたしの使い手になろうとした」


 しかも武器として使った場合、ルリナは凄まじく強力。ルリナの居た部隊は最強と呼ばれていた。

 それが拍車を掛け圧力を掛けた。

 だがそんな屑に仲間を引き渡すなんて出来ないと小隊の皆は彼女を守ろうとした。

 しかし……


「そしたらその屑……何したと思う?」

「……」


 予想は付いたが言いたくないホウガ。

 それを察したのかルリナは続ける。


「手に入らないなら無くなれば良いって、死にに行くような任務であたし達はほぼ全滅した」

 

 生き残ったのはルリナと彼女の親友のみ。だがその親友も傷が深くまもなく死ぬ。

 だからこそ親友は最後の力を振り絞りルリナを使い、次元を斬り裂き異世界に彼女を逃がしたのだ。


「こうしてあたしはここに来たの」


 そしてルリナは話を終えた。

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