第6話
ホウガが三人組を始末し終えた丁度その頃。
骨董屋「花鶏」の店内。
そこでは店主であり唯一の店員でもあるジェーンが立ったまま目を瞑っていた。
勿論寝ている訳ではなく、瞼の裏に映る折紙の
(ほぼ秒殺だったわね)
ジェーンはホウガを送るために店の外に出た際に、通りがかった三人組が彼に目を付けたのに勘づいていた。
始末するのは容易かった。だがあの剣の性能を見たかったので丁度良いと思って敢えて見逃した。
あの三人組が諦めるなら別の機会を待つなり作るなりすれば良いだけ。
結果は……彼女が見たいと思った物を見れた。
(飛ぶ斬撃、剣の生成……発生と遠隔操作。そして氷)
どれか一つだけでもまあまあなアーティファクトと言える。
それが四つ? 盛り過ぎである。というか高位オーパーツの領域に片足突っ込んでいる。
しかも……
(多分まだ何か持っている可能性はあるわね)
あの剣、未だ底が見えない。
思考を巡らせながら映像を見ていると、ホウガが
そして、彼はその場を後にした。
「『ア・ト・ショ・リ・ヨ・ロ・シ・ク』……ね。わかっているわ」
読唇で読み取ったジェーン。
そのまま卓に付くと折紙を折り始める。
出来たのは三機の紙飛行機。
それを窓から飛ばす。
それが空に消えるのを確認する。
「これで良しっと」
そうして目を瞑り映像に視線を戻す。
路地裏の開けた場所には三つの死体があった。
その死体に紙飛行機が着陸。
すると紙飛行機が燃え始め死体に引火し燃え上がる。
暫くするとわずかな灰を残して死体は消え去る。
その灰も風に飛ばされる。全ての痕跡は消え去った。
◇◆◇◆
骨董屋「花鶏」から十分程歩いた所にあるのがホウガの自宅。
ごく普通の一軒家。……なのだが妙に大きい。もしかしたら二世帯三世帯住宅なのかもしれない。
「ただいま~」
「よっと。おかえり~」
誰も居ないがとりあえず挨拶をするホウガ。
それにルリナが人間の姿に戻って応えてくれる。
……案外ノリが良い。
「荷物持つわ。ずっと持たせていたし大半があたしの物だし」
「もう家の中だけど」
玄関である。
持って行く部屋まで距離はほとんどない。
「それでもよ。渡して頂戴」
「いいよ。これでも男だから。力仕事は任せろ」
「ええ?」
「え!? 気づいていなかったの!?」
「……。冗談よ」
「冗談に聞こえないから!? それと今の間は!?」
ホウガは身長が百五十半ばで同世代の男子より小柄。
しかも顔立ちが中性的で可愛いらしいのでよく女子と間違えられる。
ルリナは誤魔化すようにホウガから荷物を取り上げる。
「持って行くわ。どこに持って行けば良い?」
「……。とりあえずリビング」
「わかったわ」
そうしてホウガが先導し廊下を歩きリビングへ入る。
(ここに一人で住んでいるのね……)
リビングを見渡し荷物を降ろしながらルリナは思う。
道中で多少の事情を互いに語り合っている。
「あたしの服はどこに置けば良い? それと寝る場所は?」
「とりあえず来客用の部屋を使ってくれ。あっちにあるから」
「わかった」
今日買った自分の荷物を持ってその部屋に入る。
六畳程の洋室で部屋にはベッド、箪笥、洋服掛け、椅子、卓がある。
(家族は居ないって言っていたけど……)
一人暮らしにしては広い家。
まるで誰にも居なくなった家に残っているかのよう。
(まああたしもここにやって来た事情があるけど)
そんな事を思いながら今日買った服を仕舞って掛ける。
それが終わるとルリナはリビングに戻る。
「もう少しで出来る」
するとホウガが夕食の準備をしていた。
とは言え今日は弁当を温めて並べるだけなのですぐに終わる。
ホウガは唐揚げ弁当、ルリナは鮭弁当。そして揚げ物などの総菜。
因みにデザートに買ったプリンパフェと桃パフェは冷蔵庫に仕舞ってある。
ギリギリに出した方が良い。
「じゃあ食べようか」
「ええ」
「「いただきます」」
そして食事を始める。
食べながら、道中軽く話した事情を更に詳しく掘り下げて話す事にする。
「じゃ、あたしから。レディファーストで」
「何か違うような。でもわかった」
「では改めて自己紹介。あたしはルリナ。異世界から逃げて来たクリュサオルよ」
その言葉に眉を顰めるホウガ。
異世界からやって来ている事は事前に説明されていたうえ、あの登場で何となく察しが付いていた。
だが、問題はその後の言葉。
「逃げて来た? それとクリュサオルって……確かギリシャ神話の怪物だっけ?」
「それが由来の……この世界で言う異能者の一つになるのかしら?」
「ああ。固有名称は色々だからな」
異能を使う者のは「いのうしゃ」と呼ばれる時もあれば「アルカニスト」と呼ばれる場合もある。
その中に色々種類がある。
「……ぐれあーどって?」
「【リガド】持ちの事。そういえば言ってなかった」
「そうなのね……。今は話を戻すわ」
軌道修正するルリナ。
「あたしが居た世界もこの世界と似た感じね」
「怪物が出て来たのか?」
「ええ。しかも銃器・火器が全く通じないの」
「……全く?」
「全く。……その言い方から察するにそっちは通じたの?」
「モノによる」
この世界の怪物と呼ばれるモノには種類がある。
生物・無生物が怪物化するモノ、何らかのエネルギーが集まって生まれたモノ、遥か昔から存在した妖怪、怪異、幻獣、UMAと言ったモノなど多彩。
昔から存在したモノは
「変容したタイプには通じる場合もあった」
「へえ……。こっちは全く通じないの」
何でもルリナの世界に出て来たモノ――異形と呼ばれていた――には銃器・火器どころか核爆弾すら通じなかった。
しかも厄介な事に……
「剣や槍みたいな武器も駄目、素手でも駄目だった」
「マジか!? ソレも駄目とはキツくないか!?」
ルリナの言葉に驚くホウガ。
実はこちらではソレらであれば、ある程度なら対抗出来たのだ。
……体がエネルギーなので物理攻撃無効、余りにも硬すぎる、特殊な条件を満たさないと突破不可能は除外。
「キツイってレベルじゃなかったわ。人類は滅亡寸前に陥ったの」
「そりゃあそうでしょうよ……」
こちらの攻撃は何も通じないのに、あちらの攻撃は通じる。
しかも特殊な性質や能力を持つモノまでいたせいで目も当てられない戦いになったそうだ。
もはや大人と子供以下。
人類の九十九%が死滅したそうだ。
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