第5話

 骨董屋を出てからホウガは大型デパートに入る。

 目的は様々な物の買い出し。

 勿論ルリナの許可は取ってある。


[服がアレだけじゃあな……]

[そう? ……似合っているとは言われるわよ]

[違うそうじゃない]


 手始めにルリナの服。

 実は彼女は着の身着のままでやって来たので、服がしかないとの事。

 なので外出着だけでなく、私服、部屋着、寝間着、そして……下着も買う。

 ……女性服のエリアに踏み込むのは勇気が必要だった。


 手早く終わらせ次のエリアへ移動。


[話すにしても食べながらが良いだろう]

[あたしを食いしん坊か何かだと思っていない?]


 普段は自炊をしているホウガ。

 今日は手軽に済ませたいので弁当と総菜を買う。

 デザートのプリンパフェと桃パフェも買う。


[……じゃあ食べない?]

[好き嫌いはないわ。美味しい物を作るのも食べるのも好き]

[料理出来るの!?]

[あたしを何だと思っていたの?]

[……]

[失礼ね。今度腕を振るってあげる。楽しみにしてて]


 ついでに明日以降に使う食材も買っておく。


[ところできみは料理出来るの?]

[程々]

[期待してるわ]

[……お手柔らかに]


 そうして買い物を終え折り畳めるエコバックに色々詰めてスーパーを出る二人(傍目には一人)。

 雑談をしながら家路に付いているとルリナの声音が変わる。


[……ホウガ]

[今気づいた。あからさま]

 

 二人(初めに気づいたのはルリナ)は自分達に付いて来る人の気配を複数感じ取っていた。

 とは言え偶然道が同じ可能性もあるので近くの路地裏に誘導する。

 これで出方を伺う。付いてこなければ白。付いてくれば黒。

 そして開けた場所に出て振り返る。

 そこには三人の男が居る。


[黒ね]

有罪ギルティ

「あん? 何か言ったか?」


 真ん中の男がそう言う。

 この男は中肉中背。両脇の男は片方が大柄でふくよか。もう片方が小柄な痩せぎす。

 体型はまるで違うが人相が悪く目も濁っているのは共通している。

 どう見てもカタギではない。


[……人って顔におこないが出るのよね]

「[まさしく。]それで? 俺に何の用ですか?」


 それに大柄な男が一歩前に出て口を開く。


「お前……金持っているんだろう?」

「そんなにありませんよ」


 痩せぎすの男も出てきて言う。


「とぼけるな! 大金持っているんだろう!」

[……骨董屋には居なかったわよね?]

[ああ。隠れ潜んで居たらジェーンさんが気づく。店から出る所見られたか]


 ホウガの分析は正解。

 実際この三人組は偶然通りがかった骨董屋から出て来るホウガを目撃した。

 手に持った荷物はそこまでないうえ、デパートで沢山買い物をしていたので臨時収入があったと見当を付けて犯行を思いついた。


「良いから出せよ」

「死にたくなかったらな」


 そう言って三人は武装。得物は手斧ハンドアックス、短杖、短剣ダガー二本。

 眼の白黒反転はなしなので【リガド】は持っていないと思われる。

 その様子にリルナはふと気になった事をホウガに聞いて来る。

 

[そういえば【リガド】が手に入る確率ってどれくらいなの?]

[……六割位らしい]

[高いのか低いのか微妙なラインね]


 ごもっとも。

 ホウガは説明を付け足す。


[因みに二回目と両目投与は二、三割。眼球移植は四割、五割くらい]

[あの光学迷彩ステルスがレアな理由がわかったわ]

[ま、今はパッチテストを事前にやるから死者や失明者は少ないよ]

[……出るには出るのね]

[千%は無理だ]

[何で千なの? 普通に百じゃないの?]


 九割九分成功すると言っても、失敗する可能性が一分あるからこそそれを引いてしまう死んでしまう人は居る。

 そんな会話をしていると三人が口々に言う。


「それでどうすんだ?」

「ありったけ出すか? それともここで死ぬか?」

「あ、その手に持った食材も置いて行けよ。有効活用してやるからよお」


 最後の痩せぎすの言葉はホウガの逆鱗に触れる。


[……ルリナ]

[なに?]

[……こいつ等をこの世から消す]

[(食の恨みは恐ろしいわね。)良いけど……大丈夫? 法律的に]


 少し心配しているルリナ。

 ホウガは斜め上に視線を向けてからこう答える。


[大丈夫。見物料として死体処理は任せる]

[……なるほど]


 二人はもう一つの視線に気づいていた。

 その正体も見当が付いていた。

 だからこその言葉。

 それに応えるかのように一瞬だけ折紙のやっこさんが姿を見せる。

 どうやら後処理は任せろと言っているらしい。


「憂いもなくなったしやろうか」

[ええ。試し切りね]


 ホウガは地面にエコバックを置き、手に持った包みを解き黄金の剣を出して構える。中々様になっている。

 そんな彼に対して一瞬怖気づく三人だがそれを虚仮威しだと振り払い……


「死ねやー!」


 まず痩せぎすが襲い掛かって来る。何らかの異能持ちなのか中々に早い。

 それにルリナが提案する。


[ホウガ。さっき言った業を覚えてる?]

[ああ]

[なら試してみなさい]

[おう。そうだな。丁度良い]


 応えるようにホウガは剣を振るう。

 届く距離ではないが斬撃が飛ぶ。

 その斬撃を痩せぎすは短剣ダガーで受け止める。


「おっとお!」 

[あら思ったよりやるわね]


 どうやらこの三人、ただの雑魚ではないらしい。


[でも足元がお留守よ?]


 ホウガが空いた左手を向ける。

 すると動きの止まった痩せぎすの足元の地面に剣が生成される。


「カ、カカ、カカカ……」


 串刺しになった痩せぎす。

 それに大柄な男が手斧ハンドアックスを振り回して迫る。


「お前! よくもぉー!」

「この距離ならこれだな」


 ホウガは自身の周りに剣を生成。

 ルリナが使っていた業と同じ。だが剣の数が六本に増加している。

 それを遠隔操作する。


「く、こnグワァ!?」


 六本の刃を手斧ハンドアックス一本では凌ぎ切れず斬り捨てられる大柄な男。

 

「後ひtおっと」


 ホウガはその場から飛び退く。

 先程まで居た場所に飛んできたのは火球。

 最後の一人が撃った物だった。


「へえ。……術法士ソーサラーか」


 異能を使う者……異能者と一口に言っても様々な種類がある。

 その中で魔術、魔法、陰陽術、妖術、忍法などの体系化されている異能である術法ソーサリーを振るう者は術法士ソーサラーと呼ばれる。

 主に魔法使い、魔女、陰陽師、霊能者、忍者などが当てはまる。


「丸焼きにしてやる!」


 短杖を掲げ大きな火球を作りだそうとする男。

 それにホウガは獰猛に笑う。


「正面から叩き潰す」

[ええ。熱には冷たさを]


 剣を掲げるとその刀身に冷気が集まっていき巨大な氷の剣となる。

 そして。


「死ねえ!」

「チェストォ!」


 火球の発射。氷剣の一刀。

 高熱と低温がぶつかり合う。

 一瞬の拮抗後……


「へぶ!?」


 男は火球ごと氷剣で叩き斬られた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る