第4話

 迷宮ダンジョンに出て来る怪物……とある理由から輪郭ユニットと呼ばれるソレを討伐するとアイテムを遺して光の塵となって消える。

 そのアイテムは一部の例外を除いてほとんどの場合、バッテリーやジェネレーター代わりになる魔力結晶や魔核、もしくは角、爪、牙、毛皮などの体の一部が多い。

 ただ、稀にアイテム、運が良い時にはアーティファクトやオーパーツが遺る時もある。

 因みに迷宮ダンジョンは怪物が居るだけでなく宝箱も見つかる。そこにアーティファクトやオーパーツが入っている時もある。

 

 そしてその一つが【スキルオーブ】。

 使えば何らかの異能――種類は様々。ランダムもあれば調べれば分かる時もある――を取得可能。

 ただし、手に入る可能性はかなり低い。

 そのため表でも裏でもそんなに出回らない。

 

 それが目の前にあった。

 驚いているホウガにジェーンは続ける。


「昔、ある迷宮ダンジョンでボスを倒した時に手に入れたのよ」

「……どんなボスですか?」

「剣を持った二足歩行の小柄な竜……というか怪獣」


 初見殺しや厄介な特殊能力はないが、性能フィジカル技量テクニックが高いタイプ。

 かなり強かったらしい。


「ホウガは剣を使うからピッタリな異能が手に入ると思うけど?」

「……」


 沈黙するホウガ。

 少し間を開けて答える。


「……。…………。確かに欲しいですけど………………駄目です」

(少し心が揺らいだわ。もう一息)


 ジェーンは畳みかける。


「その武器を佩刀出来るベルトと鞘も付けるわ。抜き身なんでしょう?」

[!]


 それに反応したのはルリナ。


[ホウガ。良いわよ。見せてあげましょう]

「っ!?」


 声が漏れそうになるのを堪え、心の声でホウガはルリナに問いかける。


[お前、どういうつもりだ?]

[これ以上は怪しまれるし、あたしにもメリットがある]

[でも……]


 不安そうなホウガにルリナは明るく言う。


[あたしを心配してくれてありがとう。大丈夫。きみの知り合いでしょう?]


 その言葉にホウガはジェーンに向けて答える。


「……ハア。わかりました。ただし」

「わかってる。丁寧に扱うから安心しなさい」


 ホウガは手に持った包みえおジェーンに躊躇いがちに渡す。

 それをジェーンは受け取る。


「……おっと」


 取り落としそうになるも堪える。


(結構重いわね……)


 どうにか卓の上に置いて包みを取る。

 そこから出て来たのは黄金の剣。

 刃渡り五十センチ程、柄も含めれば七十センチと剣としてはやや短めの部類。

 刀身は肉厚・幅広で片刃。


(両刃ならグラディウスね)


 古代ローマ時代の軍団兵や剣闘士によって用いられた剣の事である。


(まあ片刃だから剣鉈や山刀マチェテに近いかしら……)


 そんな事を思う。

 とは言え変わった刀剣は今の時代沢山ある。

 この黄金剣の問題は……


(素材は何かしら?)


 彼女でもこの剣の素材がわからない事。

 この剣も金属で出来ていると思われるのだが何の金属かわからない。


(鉄、鋼、金じゃない、というか普通の金属じゃない)


 次の可能性として思い浮かぶのは幻想金属。

 ミスリル、アダマント、オリハルコン、ヒヒイロカネがよく知られており、どれもが特殊な性質と超常の性能を持つ。

 今の時代なら手に入れる事も可能。

 だが……


(違う。性質・特色が当てはまらない。一般的(?)な幻想金属でもない。というか……)


 じっくりからジェーンは気づく。


(細胞! 生物の細胞が金属と混ざりあっている……!)


 つまりこの剣は――生きている。


(それにホウガの態度から察するに……)


 ジェーンは頭が良いからこそ気づく。


(この剣に意志がある。魂がある可能性もある)


 そういうオーパーツに確認されているため珍しい事には珍しい。

 ……アーティファクトでもあるにはあるらしいが噂の域を出ない。


(何かありそうだけど……。ま、触れないでおきましょう)


 藪をつついて蛇を出したら目も当てられない。

 なのでこの辺にしておく。

 とは言え、ベルトと鞘を用意すると約束したので……


「じゃあ見るのは終わり。最後に採寸させてね」


 メジャーを出したジェーンに頷くホウガ。

 念話テレパシーでルリナに話しかける。


[もう少し我慢してくれ]

[……ええ。でもちょっと落ち着かないわ]

 

 数分掛けての採寸が終わり、ジェーンは包みを巻き直す。


「はい。ありがとう」

「いえ」


 ホウガは卓からルリナを持ち上げる。


(あんなに重いのに随分と軽そうね。使い手じゃないと重く感じるのかしら?)


 ジェーンがそう思う。

 彼女の考えは正解。

 ルリナの剣形態はホウガにとっては羽のように軽く感じるが、他者が持つととてつもなく重く感じる。


「じゃ約束通り。どうぞ」


 ジェーンは【スキルオーブ】をホウガに渡す。

 それを受け取ろうとするホウガだったが、触れる寸前で止まる。


「? どうしたの?」

「……本当に良いんですか?」

「良いわよ。正当な報酬。後で請求とかないから」

「なら遠慮なく」


 ホウガはオーブを手に取る。

 そして、すぐに使う。

 異能が宿ったのをホウガは感じ取る。


「へえ……」


 口元に笑みを浮かべるホウガ。

 その声音と態度から結構良い異能が手に入ったとジェーンとルリナは感じ取る。

 とは言え、二人は聞こうとはしない。

 前者は暗黙の了解から。他者の異能は詮索しないというのがある。

 後者はいずれ教えてくれるとわかっているから。

 そんな彼にジェーンはこう言う。


「じゃあベルトと鞘は……そうね。一週間後以降に来て。用意しておくわ」

「お願いします。……でもそんな貰って良いんですか?」

「良いのよ。面白い物が見れたから」


 それに、と続ける。


には悪い事したからね」

「!」

[っ! この人気づいている!?]


 ルリナが驚く中、ホウガは落ち着きを取り戻しこう言う。


[……落ち着け。そういう武器があるにはあるから]

[そ、そう。なら大丈夫かしら……]


 少し不安そうなルリナを空いた手で撫でてから、ホウガはジェーンに言葉を掛ける。


「じゃあ、帰ります」

「ええ。また一週間後に」


 そして、ホウガ(とルリナ)は店の扉を開けて外に出た。

 ジェーンも一緒に出てホウガの姿が見えなくなるまで見送る。

 それからふと視線を斜め前に向ける。

 暫くそこに目線を向けていたが、ふと思い付いたかのような顔をする。


「……そうだ」


 そう言ったジェーンの右袖から手が出て来る。

 その指には折紙のやっこさんが挟まっている。

 それを空に向けて放つ。

 それはある程度飛んだ段階で透明となって見えなくなる。


「お手並み拝見っと」


 そう言ってから店の扉の札――準備中を作業中に変える。

 そして店の奥に引っ込んだ。

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