第3話

 閑話休題。


 ジェーンが続けて聞いて来る。


「種類は?」


 【リガド】は大きく分けて四種類存在する。


「えっと確か……青は槍、斧、ボウガン、ナイフ。そして光学迷彩ステルス

「ダブルが居たの? それは珍しい。中々良いのを引き当てたみたいね」

「もう死んでいるからそこで運を使い果たしたんですね」


 青は人工物の能力が手に入る。

 何らかを出現させる人も居れば、肉体を変形させる人、機械や道具の機能を発揮する人も居る。

 数多に存在しているからこそ一番当たりと外れの差が激しい。


「緑は?」

「片方は犬猫系、もう片方は直翅目ですね」


 緑は生物の能力が手に入る。

 他生物が混ざった姿に変身する事が可能になる。

 副産物として筋力増強と硬化外皮があるので外れはない。

 ただ完全なONOFFが出来ないので一部の人にはデメリットとなる。


 そうしてジェーンは査定を終える。


「とりあえず……こんなものかしら」


 紙とペンを出しサラサラと買取金額を書いて見せて来るジェーン。

 それを見るホウガ。覗き込むルリナ。


「おお……」

[格差がエグイわね……]


 内訳は……


 アクセサリーの指輪、腕輪、イヤリング、チョーカーはそれぞれ一万円。

 ネックレスは二万円

 槍と斧がそれぞれ一万円。

 ボウガンが三万円。

 ナイフが五千円。

 光学迷彩ステルスが百万円。

 獣が十万円。

 昆虫が十五万円


 合計金額は百三十六万五千円。


 ジェーンが説明する。


「アクセサリーは多少の補正と耐性くらいだからこのくらい」

「……アレ? 一つ仲間外れがありますけど?」

「このネックレスは効果が特殊だから値段が二倍なの」


 保持している異能を強化する効果があるからこそ二倍の値段が付いた。


「次は本命の【リガド】ね」

「よっ待ってました」

[右大臣!]


 ルリナも案外ノリが良い。ホウガにしか聞こえないが合いの手を入れる。

 ジェーンはホウガのコメントに苦笑。


「それを言うならもう少しテンション上げましょうよ。まあいいけど」


 説明を続ける。


「青。武器を出すタイプは基本一万ね。射撃武器だと三倍になるし、暗器だと半分以下」

「隠し持てますものね」

[意味ないじゃない……]


 ルリナはぼやく。


「そういう事。まあ肉体の強度が上がるメリットはあるけど」

「補正高い武器を装備すれば良い話ですものね。それで緑は?」


 ホウガの問いにジェーンはボードを出して説明する。

 そこには数多の生物とその値段が書かれている。


「普通の哺乳類、爬虫類、両生類なら十万円ね。昆虫は五割増し、魚類と鳥類なら五倍ね。理由はわかる?」


 頷くホウガ。

 ルリナもすぐに見当がつく。


[飛行と水中活動ね]


 鳥は空を飛び、魚は水中呼吸して泳ぐ。

 この【リガド】を使う者達は上記が可能。

 ……一部を除く。飛べない鳥や泳ぎが下手な魚も居る。


「そう。そしてそこから一部の生物は更に高くなるわ」

[……うわ。蝦蛄と電気鰻は五百万……、恐竜は一千万!?]

[元から強い生物だからね]


 ルリナがコメントしホウガはそれに返答。

 そして、まだ挙げられていない物を思い出して問いかける。


「それで光学迷彩ステルスが百万円なのも使い道があるからですか?」

「ええ。戦闘だけじゃなくて斥候や偵察にも使えるからね」

「強さも必要だけど便利さも必要ですからね」

「ええ。それで? この値段で大丈夫?」


 頷くホウガ。


「じゃあ取引成立。お金は口座に振り込む?」

「現金でください」

「あら珍しい」

「分ける必要があるので」

 

 今回は自分一人の力ではない。

 ルリナと分けるからこその判断だった。


(……義理堅いわね)


 ルリナは思う。

 さりげなく彼に対する好感度が上がる。


 そうして現金を受け取った事で取引は終わり、ホクホク顔で骨董屋を後にしようとするホウガ。


(ルリナへの金を引いても結構な臨時収入になった)


 そんな事思っていると、ジェーンが呼び止めて来る。


「ところでホウガ」

「はい?」

は売らないの?」

[ッ!]


 ルリナが反応。

 一瞬震えたのを布ごしにホウガは感じ取る。

 安心させるよう空いている手で軽く撫でてから彼は問いかける。


「ソレ……とは?」

「その包みの中身。見た所……武器みたいだけど?」

「これは売りません。というか売れません」


 ホウガとルリナは迷宮ダンジョンから骨董屋までの道中で、互いの事情を説明をし合っていた。

 その中に今の彼と彼女の状態についての話題があった。

 今の二人は命を共有している。そのため遠くに離れられないとの事。


『離れすぎるとどうなるの?』

『そうね……。死にはしないけど重傷状態に戻るわ』


 だからこそ手放すなんて出来ない。

 そもそも彼女は命の恩人。不義理となる。


 その答えをわかっていたのかジェーンは思考する。


(もしかして特殊なアーティファクト……もしくはオーパーツなのかしら?)


 アーティファクトとオーパーツ。聖遺物とも呼ばれるアイテム。

 簡単に言えば異能を持った、もしくは所持者が異能を使えるようになる武器や道具の総称。

 迷宮ダンジョンやフィーチャー(特殊な環境・空間)で生成される事もあれば、人工的に作成する事も可能。

 この二つの違いは人の手で再現可能かどうか。可能なのがアーティファクトで、不可能なのがオーパーツと呼ばれる。


 閑話休題。


 とは言え、興味があるのでジェーンは提案する。


「わかったわ。売れとは言わない。だから見せてくれないかしら」

「嫌です」


 即答するホウガ。

 だがジェーンは諦めない。


「見物料払っても……ダメ?」

「ダメです」


 再び即答。

 けんもほろろだが、彼女はまだ諦めない。


「じゃあウチの商品、好きな物を持って行って良いって言っても?」

「答えは変わりません」


 ホウガは一度決めたらその意思や答えを曲げない。

 こうなったら梃子でも動かない。

 彼と付き合いがまあまあ長いジェーンはそれを知っているが諦めきれない。

 なので。


(だったとっておき)


 彼女が出したのは玉虫色のオーブ。

 それを見たホウガの眼が見開かれる。


「そ、そこまでしますか?」

「ええ」


 唖然とするホウガ。

 その態度が気になったルリナは聞いて来る。

 

[何なのソレ?]


 彼女に分かるのは普通のアイテムでない、という事。

 それにホウガはややあって応える。


[【リガド】の説明の時に言ったよな。異能者になる方法の一つって]

[言ってたわね。……つまりこれがもう一つの方法?]


 ルリナは察しが良いから気づく。


[ああ。異能を手に入れられる手段の一つ。【スキルオーブ】]

[……言葉通りの意味なら何かしらのスキルを得られるという事?]

[ああ。しかも滅多に手に入らない]

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