転生妖怪令嬢「これって転生や令嬢じゃなくてもよくねぇ」

楠本恵士

第一話・異妖『転生玉』に轢かれて令嬢転生

 その日の『逢魔町おうままち』の夕暮れは、町が紫色に染まった変な夕暮れだった。


 女子高校生の『七尾 妖湖ななお ようこ』は、帰宅時の制服で一人──逢魔坂の上にある自宅に向かって、スマホの画面を観ながら歩いていた。

「ダルぅ……あ~ぁ、早く異世界転生したいな」


 肩口で切り揃えた茶髪で、前髪の両側に頭頂から銀色に染めた。

 妖湖がスマホの画面をスクロールさせて、読んでいるのは異世界転生モノのネットラノベ小説だった。


「ふ~ん、転生するにはトラックや車両の前に飛び出すか、走ってくる電車の前に立てばいいのか……トラ転とか電転は痛そうだな」


 妖湖はワイヤレスイヤホンで音楽も聴いていて、妖湖の後方はまったくの無防備だった。

 逢魔坂の下に陽炎のような揺らぎが現れ、厳つい顔をした球体異妖『転生玉』現れた。

「転生、転生、転生」

 転生玉が高速で回転しながら、坂道を登ってきた。


「転生、転生、転生」

 スマホの画面を見ている妖湖は、まったく登っくる転生玉の存在に気づいていない。

「転生、転生、転生どーん」

 妖湖の体は押し潰された。

「ぐげぇぇ」

 カエルが潰されたような奇妙な声を発して、妖湖の体はペラペラの紙のようになって道路に貼りつく。


 転生玉はそのまま、どこかへ走り去ってしまった。

 少し風が吹いて、飛ばされそうになった妖湖の体を、空中でつかんだ者がいた。

「あ~ぁ、こんなに薄っぺらになっちまって」

 美形の鬼系異妖──『イバラ童子』だった、バラのピアスをして体にイバラを巻いた二本角のイバラ童子は、ペラペラになって両目を閉じている妖湖の口から抜け出ようとしている魂ごと。

 かれた妖湖の体を丸めると、ポンポンと叩いて音をさせる。


「こりゃあ、妖転だな……いや、転生玉に潰されたんだから転転か……異妖界の『転生女神ババア』の所に持って行って、妖転生してもらうか……異妖界におかえりなさい、妖怪令嬢『七尾 妖湖』」


 ポスターのように丸めた、妖湖の体を持ったイバラ童子の姿が揺らぎ消えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生妖怪令嬢「これって転生や令嬢じゃなくてもよくねぇ」 楠本恵士 @67853-_-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ