第8話 大団円

 この事件の動機は、意外なとことにあった。

 というのは、ある意味、

「復讐」

 というものであったが、その復讐というのも、人が見れば、

「些細なこと」

 ということであった

 ただ、本人とすれば、

「心に受けた傷」

 つまりは、

「トラウマ」

 というものから来た。

 しかも、それは、

「親からつけられた傷」

 であり、しかも、それを自浄できるものではなかった。

「それは、殺された人間が、子供に残したものであり、それが、

「自業自得」

 というものであり、

「結果としての、因果応報」

 というものにつながったのだ。

 今回のそれぞれの事件は、

「交換殺人」

 というものを模倣したものであった。

 そもそも、お互いに、捻じれた関係であり、それぞれ、

「ミステリーに関して興味があった」

 というものであった。

 ただ、

「違和感と連続性」

 というものが、二つの事件を、

「偶然」

 から

「必然」

 というものに変えたのではないかということであった。

 母親と父親に深い恨みを持っていた。

 しかも、それは、子供の頃に、

「他の子供であれば、ありえない」

 というような、まるで苛めに近いやり口は、

「躾」

 という名のもとに行った、

「あざといやり方」

 であり、それは、最初から計画済みだということが分かったことで、殺意は一気に膨れ上がったのであろう。

「親は、他人は他人、うちはうちといったことで、あの親が自分の本当の親ではないということに気が付いた」

 といった。

 確かに、あの親は、

「中条真一の母親は、中条聡子ではなかった」

 のだった。

 ただ、それは、

「真一が自分で確認した」

 というわけではなく、、あくまでも、

「勘」

 ということでしかなかったので、

「ただの偶然」

 ということかも知れない。

 それは、真一にとっての、

「違和感だった」

 ということになるのかも知れないが、ここも曖昧で分からない。

 逆に、

「坂田の方は、別に親を恨んでいるというわけではなかった」

 ということだ。

「あくまでも、中条に脅されて」

 と言い張っていたということであるが、

「それだけ、気が弱かった」

 ということであろう。

 ただ彼は頭がよかった。

 だから、今回の計画を立てたのは、坂田だった。

 坂田は、

「警察に捕まることはないさ」

 といっていたのだが、それはあくまでも、

「自分たちのような、こんな動機がこの世に存在するなんて、警察に分かるわけはないさ」

 と真剣に思っていたのだ。

「警察なんて、小説やテレビドラマよりも、よほど単純な捜査しかできないだろうからな」

 と思っていて、ある意味、

「甘く見ていた」

 ということであろう。

 さらに、自分のことを、

「天才だ」

 と思っていて、

「俺は警察に挑戦状をたたきつける」

 というくらいに考えていた。

「警察なんて、どうせ、何か起きないと、何もしてくれないさ」

 と思っていたのだ。

 実際に、

「親から暴行を受けた」

 ということがあり、近くの交番に訴え出たということであったが、実際には、そのまま、交番から家に連れて帰られて、警察に駆け込んだことが分かってしまい、さらに、ひどい目に遭ったということであった。

 だから、しばらくしてから、虐待というのが明るみになり、以前のこともあって、

「警察に言っても、俺がまたひどい目に遭うだけだ」

 と思ったことで、警察に何を着かえれても、

「黙秘を貫いた」

 ということであった。

 世間は、

「気の毒だ」

 とは言ってはくれるが。その視線は、

「汚いものを見る」

 という視線だったという。

 本当にそうなのかは分からないが、きっと、それは、

「汚いものを見る」

 というよりも、

「強行現場を見てしまった」

 という時の、目をそらす視線だったことだろう。

 いじめを受けている人には、そんな理屈は通用しない。

 結局、

「皆人間というのは、同じなんだ」

 ということで、

「虐待した親」

 というのも、

「警察という、善意の皮をかぶった悪魔」

 というのも、

「善良な顔をして、善意の第三者を演じている外野の連中」

 というのも、

「皆、同じ人間なんだ」

 と思っていたのだ。

 だから、彼は、

「悪魔になった」

 それが、

「親に対しての」

「警察に対しての」

「世間というものに対しての」

 復讐ということであり、

「挑戦だった」

 といってもいいだろう。

 それを考えると、

「こんな犯罪だってあるんだ」

 ということで、

「世間に一泡吹かせる」

 ということである。

「本来なら、その恨みを小説か何かに書けば、それでも十分、復讐にも、挑戦にもなるのに」

 と、捕まった時、坂田少年に言ったが、坂田少年は笑いながら、

「ああ、そうだね。その手があったね」

 といって笑っていたという。

「そのことに早く気づいていれば、俺は今ごろ、印税生活だよな」

 といって笑っていたが、その後一言言ったのが、

「どうせ、俺の作品も、すぐに忘れさられるだけさ」

 と彼は言った。

「だけど、君くらいの頭があれば、似たような作品だって、少しずつ変えて、バラエティ豊かな作品になるんじゃないか?」

 と刑事がいうと、

「そうかも知れないな。どうせ、俺は警察に捕まるような作品しか書けないわけで、それだけに、質より量ということになるのかも知れないな」

 と坂田がいうので、

「そうですね。その時は、いずれ、完全犯罪が書けると思って書き続ければいいんですよ」

 と刑事がいうと、

「無理ですね。この犯罪が、こうも簡単に露呈したんだから、俺の実力なんて、その程度のものなのさ

 というのであった。

「質より量」

 これが、坂田の信条なのであろう。


                 (  完  )

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質より量 森本 晃次 @kakku

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