第7話 動機
家に強盗が入ったことで、母親が殺されかけた坂田洋二であったが、最初こそ、
「大変なことになった」
ということであったが、母親も次第に回復しているようで、
「盗まれたものというのも、ほとんど大したものを盗んでいったわけではない」
ということで、とりあえず、
「事なきを得た」
ということであった。
ただ、そうなると、警察からも、
「これは、強盗に見せかけた殺人未遂事件ではないか?」
という疑いもあるということで、こちらも、捜査本部ができて、やはり、
「本部が出張ってきている」
といってもいいだろう。
ただ、この事件、実は、
「被害者が夜勤めているスナックで、怪しい話を聞きこんだ」
ということからであった。
その話は、どうやら、犯行計画に近いものであり、ただ、あくまでも、
「ミステリー小説を書くネタだった」
ということで、話をしていた二人は、
「ミステリー同好会に入っている大学生だった」
というのだ。
さすがに、最初こそ、
「ひそひそ話」
であったが、白熱して、話が佳境を迎えると、結構声が大きくなってきたということだったので、ママが見かねて、
「お客さん、それは、小説か何かのお話ですか?」
と聞いたところ、
「僕たち大学の、ミステリ同好会に所属しているんですよ。今度同人誌に載せる作品を練っていたところだったんですよ」
というのだった。
ただ、その時聞こえてきたワードに気になるところがあった。
一つは、
「町工場」
というのと、
「パトロン」
ということであった。
時代背景は、
「高度成長期に端を発する」
ということで、
「当時は町工場というのがたくさんあり、好景気から、パトロンになったり、愛人を囲う」
などということが結構あったということであった。
「あの頃の社会派小説を書きたいと思ってですね」
といっていた。
「僕の場合は、トリックや謎解きという、本格派の推理小説を書きたいと思っているんですが、こいつは、社会派を考えているんですよ」
といっていて、それがお互いに、切磋琢磨しているようで、
「まったく違った視点ということなんですけど、最後には、同じところに着地する」
ということを、
「自分たち、それぞれに考えていたんだけど、少し話をしてみると、それが意外と奥深いところにあるようで、ミステリーというものを考える中で、お互いの意見交換だったり、発想の共有というのが大切だと思うようになったんです」
と言っているのであった。
ただ、この二人の大学生の先輩に、
「坂田洋二がいる」
ということは、その時は知らなかった。
そう、店のホステスをしている坂田やよいの息子だったのだ。
今は、肝心のやよいが、
「強盗に入られて、重症で入院中」
ということで、事件が起こってから、2,3日は、店を休業ということにしたが、さすがに、ママとしても、
「店を閉めておくわけにはいかない」
ということで、開店することにした、
「臨時の女の子」
ということで、ママさんのパトロンである男性が女の子を調達してくれたことで、店を開けることができるようになったのだった。
それが、今度は、
「パトロンの側で、こっちにかまっていられなくなった」
というのだ。
というのが、実はこの店のパトロンというのが、今回死体が発見されたという町工場の社長だったからである。
「偶然といえば、偶然である」
この事件は最初に、
「店のホステスである坂田やよいが、家で強盗にあったということから始まった」
ということである。
やよいは一命をとりとめたが、実際に、調べが進むうちに、
「本当に、強盗なのだろうか?」
という疑念が出てきた。
それを捜査している間、今度は、やよいの店のパトロンの工場に、
「死体が遺棄される」
という事件が起こったということだ。
それを、本当に、
「偶然だ」
といってもいいのだろうか?
しかも、今度の事件にも、
「違和感」
というものがあり、
「殺されたのは別の場所で、後からここに運ばれた」
ということが、簡単に分かるということであった。
しかし、
「死体を動かすメリット」
として考えられることの中に、
「町工場で死体を遺棄する」
という意味がまったく分からないということで、
「謎だけが残った」
といってもいいだろう。
そうなってくると、
「本当にこの二つは偶然なのだろうか?」
と考えられるようになり、
「どこか、連続性のようなものが考えられる」
ということになるだろう。
それが、今回の事件における謎というものがあるとすれば、
「その動機にあるのかも知れない」
と思ったのは、
「今のところ、どちらの犯罪に関しても、犯人像が浮かんでこないことから考えて、動機も浮かんでこない」
ということから、
「本当に、殺されかけたり、殺されたりする理由を持った人たちなのだろうか?」
と思えてならないのであった。
「まったく想像もできない犯人がいて、しかし、その犯人が分かってみると、その意外性に、電流が走ったかのようなショックを感じるかも知れない」
といえるだろう。
とにかく、見えている犯行としては、どちらも、
「幼稚ともいえる犯行だ」
といえる、
「とても、ち密な知能犯には見えないが、それこそが、犯人の計略ではないか?」
と考えると、
「堂々巡りをさせられている」
といってもいいだろう。
この事件が、
「偶然なのか?」
ということを考えた人は、捜査員の中にもいるだろう。
ただ、時期が近いというだけで、連続犯を匂わせるものは、それほどなかった。
あくまでも、
「最初の被害者の勤めていたスナックのパトロンの工場で、死体が見つかった」
ということであれば、
「死体が運ばれてきた」
ということで考えるなら、
「死体を動かした」
ということの理由として、
「この事件二つを結び付けよう」
という考えから生まれてきたものではないか?
そんな風に考えられるということであるが、
そうなると、いろいろな疑問が感じられる。
「死体を運んだ」
ということは、
「鑑識が捜査すれば、簡単に分かることだ」
ということはハッキリするだろう。
それを分かっていながら、
「なぜ、犯人はわざわざ死体を動かす」
ということをしたというのか?
何かの疑問を呈させようとしているとしても、そこに何の意味があるというのか、とにかく、
「警察の捜査で分かる」
ということを、カモフラージュなのか、
「捜査を混乱させる」
ということでの意図になるのか、どちらにしても、その考えが、曖昧にしか思えないのであった。
死体を動かすということは、
「誰かに見られる可能性だってある」
と考えれば、
「それだけでも、危険なリスクだ」
といえるに違いないのに、なぜ、そんなことをしたというのだろう?
それを考えると、一つ、
「俺に考えていることがある」
と思っている刑事がいたのだ。
それが、
「K警察署の刑事課」
にいる、
「秋元刑事」
であった。
彼は、事件解決において、
「奇抜な発想を推理に用いる」
ということで、事件解決に今まで何度も導いてきたということであった。
ここで、彼が注目したのが、
「犯人の身になって考える」
ということで、
「動機」
というものに注目していたのだ。
もちろん、警察の捜査で、推理ばかりを優先するわけにはいかないというのは、当たり前のことであり、
「状況証拠に基づいて、犯人を絞り込んでいき、そこから、物的証拠を探しだす」
ということが、
「犯罪捜査において、一番大切なことである」
ということは分かっている。
だから、
「組織捜査が必要」
ということになるのだろうが、そこで、犯人としても、
「そんな警察の捜査に対して、いかに逃げ切ろうか?」
と考えるのだから、
「推理を巡らさないわけにはいかない」
ということになるだろう。
そこで考えられることとしては、
「今回の事件において、分からないことが多く、実際に、被害者の身辺調査をしても、
二人を殺したいほどの動機を持った人はいない」
ということであった。
しかも、一人は、
「強盗に見せかけた」
ということで、カモフラージュしているということになる。
もっとも、
「本当の強盗」
の可能性もないわけではないが、それにしては、物色があまりにも少なすぎる。
あくまでも、
「強盗に見せかけるため」
ということで、仕方なく細工をしたと思えるほどだ。
となると、
「何をそんな紛らわしい方法で、強盗に見せかける必要がある」
というのか、
普通に考えれば、
「犯行をカモフラージュする」
ということで、
「捜査のかく乱を狙った」
ということになるであろう。
しかも、
「強盗はカムフラージュだ」
と、相手に分からせるかのような、それこそ、
「幼稚なやり方」
というのは、
「本当に、発想が幼稚なのかも知れない」
とも思わせる。
片方では、
「緻密に思わせる犯行」
でありながら、どこかで、
「幼稚に見える」
という犯行を行っている。
ということは、
「犯罪のどこかに限界があるのではないだろうか?」
と思えるのであった。
頭脳は、実際に明晰なのかも知れないが、どこかに落ち度であったり、甘さがあるということは、
「机上の発想に掛けては、素晴らしいものがあるが、実際の経験であったり、実践的な経験値というものに掛けては、幼稚でしかない」
といえるのかも知れない。
「理論的なものと、リアルなもの」
ということで、
「リアルなもの」
というものには限界があり、どうしても、超えることのできない考えが、犯行の裏に、
「見え隠れしている」
といえるのではないだろうか。
「犯罪というものを計画し、それが、事件として形づけられるまでは、あくまでも、計画でしかない」
といえるだろう。
となると、
「犯罪を計画する」
ということは、
「動機があるから、犯行を計画する」
というわけで、その動機を、
「いかに警察に察知されないようにするか?」
ということが、警察を、
「犯人や真相に近づけない」
ということで、一番完全犯罪に近いといえるのではないだろうか?
「完全犯罪」
というもので、一番完璧なものは、
「犯罪が起こり、警察が捜査を始めても、そこから、誰が犯人なのか、その容疑者すら上がらない」
というものが、
「一番の完全犯罪」
というものではないだろうか?
つまり、
「容疑者が分かってしまうと、その時点で、完全犯罪というものは、成立しない」
といってもいいだろう。
容疑者が警察に悟られた時点で、
「犯行をごまかす」
ということのためには、
「完璧なアリバイ」
というものをでっちあげる。
あるいは、
「他に犯人をでっちあげる」
などという方法を取るしかない。
そもそも、
「完全犯罪」
ということで考えられるものとしては、このような、
「後追い犯罪」
というものが多いといえるのではないだろうか?
そういう意味で、
「容疑者が定まらない犯罪」
というものとして、
「一番完全犯罪に近い」
といわれるものとして、
「動機が判明しない」
というものである。
つまりは、
「動機がない」
ということは、捜査の段階において、
「容疑者として上がってこない」
ということだ。
たとえ、被害者と知り合いだったとしても、
「動機」
というものがなければ、容疑者としてカウントするわけはないだろう。
実際に、
「動機があっても、完璧なアリバイがある」
という人と、
「アリバイはないが、動機もない」
という人であれば、警察は絶対に、前者を容疑者として考えるだろう。
もちろん、
「アリバイ成立」
という時点で、一度は、容疑者から外れるということになる。
しかし、動機のない人間は、最初から、容疑者として上がってくることもないというものだ。
だから、完全犯罪というものは、
「動機のない人間が犯人だ」
というのが、完全犯罪ということであろう。
そういう意味で、
「交換殺人」
というものが、
「完全犯罪に近い」
といわれている。
しかし、これは、
「リスクが大きすぎる」
ということで、
「リアルな犯罪ではありえない」
といわれている。
というのは、
「交換殺人の一番のメリット」
というのは、
「実行犯と、主犯が別にいる」
ということである。
つまり、
「実行犯は、被害者とまったく関係がなく、接点もない。だから、動機などあるわけもなく、当然、容疑者の一人として上がることはない」
ということだ。
そして、本当に動機を持っている人に、
「完璧なアリバイを作る」
ということで、こちらも、一度は容疑者に上がっても、
「アリバイ成立」
ということから、逮捕されることはない。
というのだ。
しかも、それを、お互いに襷を掛ける形で、今度は相手が殺してほしい人の実行犯になる。
ということで、警察もなかなか疑わないということになる。
だから、実質的な犯行という意味では、
「完全犯罪」
ということになる。
つまり、
「理論上の完全犯罪」
ということだ。
しかし、実際に、
「交換殺人」
というものは、その敷居は高いと言われる。
というのも、警察に、
「交換殺人だ」
とバレると、その瞬間に、犯人側の敗北となる。
だから、絶対に、
「犯人である二人が知り合いだ」
ということを知られてはいけない。
だから、犯行に入れば、絶対に連絡を取り合うことは許されないというわけで、
「実行前にすべてが終わっている必要がある」
と考えられる。
しかし、それはあくまでも、理論的なことで、精神的な面で、少しでも狂ってくれば、
「二人の間で、事件はうまくいかない」
ということになる。
特に、先に相手に自分の殺してほしい相手を殺してもらえば、もう、自分が危ない橋を渡って。犯行に及ぶ必要はないということだ。
つまり、
「相手に、先に実行犯にさせる」
ということで、その時点で、計画は終わりだということになる、
つまり、実行犯は、騙されたということになるだろう。
ここまできて、
「交換殺人計画」
というものにメリットがあるということだ。
ただ、実際に精神的なものが分からないということで、
「騙された」
ということが分かった犯人とすれば、
「自分が殺してほしい相手を殺してもらえる保証がまったくない」
ということで、
「自分で殺すしかない」
ということになり、そうなると、そこで必ず、自分が容疑者になって、普通の事件として逮捕されるかも知れない。
しかし、逮捕されてしまうと、
「騙された」
と感じた実行犯は、
「警察にすべてを話す」
ということになりかねない。
確かに、
「自分は、犯行を犯したわけではないが、殺人計画を練って、殺人の実行犯にさせた」
ということに変わりはない。
自分たちで計画したことなので、実際に、裏は簡単に立証できる。
しかも、
「裏切られた時のために」
ということで、保険として、録音でもしているということであれば、いくら完全犯罪をもくろんだとしても、相手が心変わりした時点で、事件は、まったく別の方向に行ってしまうということになるのだ。
「誰が犯人なのか、見当もつかない」
というのが、
「交換殺人」
ということであるが、
「どちらか一方でも、警察に捕まってしまうと、その時点で、事件は終わった」
といってもいいだろう。
少なくとも、
「謎の部分」
というのはなくなるわけである。
それを考えると、
「完全犯罪というものは、ありえない」
といえるだろう。
これを考えれば、
「動機」
というものが、分かるか分からないか?
ということで、それだけでも、
「完全犯罪が成り立つ」
と考えられないかということである。
交換殺人というのは、
「二人で行う」
ということで、
「共犯が増えれば増えるほど、事件が露呈する可能性は高い」
といわれるが、まさにその通りで、
「事件というものと、犯罪というものが、心理的、そして、リアルな部分において。結びついてくるか?」
というのが、
「事件を解決する」
あるいは、
「真実を見極める」
ということになるのかということに関わってくるということになるだろう。
今回の事件においても、
「動機」
というものが、なかなか見えてこない。
実際に事件性が、
「幼稚なところが見え隠れしている」
ということから、
「実際の動機というのも、ひょっとすると、幼稚なところからきているのではないか?」
と考えられるのであった。
そこで、秋元刑事は、
「今度の事件の動機が、同じところからきているかも知れない」
と考え、その幼稚な犯罪性から、
「それぞれ、犯人は別かも知れないな」
とも思うようになったのだった。
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