第4話:意思確認
女の指示に従い、ジョージは州間高速道路I-95本線を南下していた。
ニュージャージー州境は、とうに越えている。
途中でI-495の東回りに逸れ、やがて再びI-95へと合流する。
――
意図は明白だった。
監視カメラ。連邦施設FBI本部等。
自動車ナンバー読み取り機。
それらを可能な限り避けるためのルート選択だ。
目的地がわからぬまま、走らされ続けて数時間は経つ。
ジョージは、次のレストエリアの表示を見た瞬間、迷わずウインカーを出した。
◇
州間高速道路沿いのレストエリアは、ガラス張りの近代的な造りだった。
パーキングエリアには何十台もの大型トラックが整然と並び、風景は不自然など直線的に切り取られている。
女はまるで、初めて来た異国を見渡すように、あたりをせわしなく視線を送っていた。
だがその瞳には輝きはなく、色は沈んでいた。
車を降りている間も、会話はない。
トイレを済ませ、互いに余計な距離を取る。
ジョージは缶コーヒー片手に何気ない仕草を装い、視線だけを流した。
女の手元で、スマートフォンの画面が浮かび上がる。
表示されていたのは、メッセージアプリの画面だった。
だが、一般的なものではない。
送受信の履歴が、任意の時間で自動消去される。
高い匿名性を売りにしたアプリだ。
女は、それを常に開いたままにしていた。
ジョージは何も言わず、ただ缶コーヒーを飲み干し、スマホを操作した。
空き缶をゴミ箱に投げ入れた。
乾いた音がした。
◇
SUVのドアが閉まる音が、外の空気を切り捨てた。
フロントガラスの先で、テールランプの列が赤い線になる。
SUVはその流れに溶け込み、再び南へ向かって走り出した。
ジョージは前方から目を離さない。
左手だけで、スマートフォンを操作した。
画面を点灯させ、持ち替えて後ろ向きにした右手で、運転席と後部座席の間に無言で差し出す。
メモアプリだった。
文字は大きく、短い。
――
・この移動は、あなた自身の意思ですか
・誰かに強制されていますか
・今、この車を降りたいですか
――
女は一瞬、息を止めた。
シートに背を預けたまま、画面だけを見つめている。
車線変更。
ウインカー。
ジョージの動きは変わらない。
しばらくして、女がジョージのスマートフォンへと指を伸ばす。
一瞬だけ指が画面の上で止まった。
だが、意を決したようにメモの一番下に、短く打ち込まれた。
――
はい
いいえ
いいえ
――
ただ、短く表示されただけの文字だった。
ジョージはそれを一瞥すると、
何事もなかったようにスマートフォンを伏せた。
しかし、ジョージの胸の奥は砂のように渇き、ざらついていた。
たとえそれが本心でなく、指示された答えだったとしても、
本人が否定している以上、他人が踏み込む理由はない。
彼女は彼女の人生だ。
選ぶのは、彼女自身だ。
SUVは、夜の高速道路を外れることなく、走り続けていた。
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