第Ⅲ章

俺は狙いを敵戦車に合わせた。 「撃てぇ」 俺はその声を聴くと同時に引き金を引いた。内臓まで震えるような砲撃。  時は1941年ドイツが突然我が国へ侵攻、我々の戦車連隊は早急集められ敵の足止め役としての命令が下っていた。援軍はおそらく来ないだろう。そして生きて帰ることも。ここにいる全員が分かっていた。しかしここを突破されれば俺の故郷がドイツ軍に何もかも破壊されるだろうということもわかっていた。ここにいる全員命がけで命令を遂行すると誓った。だが連隊は善戦するもドイツ軍の猛攻により俺たちの戦車を残して全滅。俺たちの乗る戦車に攻撃が集中した。 俺は向かってくる敵戦車に照準し発射、轟音と共に敵戦車が吹き飛んだ。 どれだけの数撃ったのか、時間がたったのかわからない。日が落ちるまでドイツ軍の攻撃を退けた。その過程で履帯も切られ、多数の砲撃を食らい、中は血と火薬と鉄の混じったようなとても形容しがたいにおいであふれていた。 生き残った仲間も俺と装填の補佐をしていたもう一人だけになってしまった。日が暮れ、ドイツ軍の攻撃が止み一呼吸置くことができた。 敵を警戒しつつ最後の仲間に目を向けた。俺と同じくらいの青年だった。 俺は下に目を向けた。そこにはかつて生きていたはずの仲間たちだった。俺は生きて帰ることはできないだろうと悟った。 それからというもの死の恐怖を紛らわすためにそいつと故郷のクルスクの話をすることにした。そして驚いたことにそいつと俺の故郷が同じだとわかり、同郷ということもあって話はかなり盛り上がった。 次の日の朝、足音でいつの間にか寝ていた俺とそいつは目覚めた。足音の主は砲塔に上ってきた。この状況、 友軍ではないのは明らかだった。砲塔の被弾口に3本の手榴弾が投げ込まれた。目の前に転がってきた手榴弾、投げ返そうと思えばできたが、 それをする力すら俺らには残っていなかった。 俺は最後に本音をこぼした「母さんに…もう一度会いたかったな」そいつも「母さんの手料理…食べたかったな…」これを最後に手榴弾の閃光と一瞬の痛みと共に俺の意識は消えた。

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