003.DPの使い道
突発的な巨大ニワトリ戦を終えて、ダンジョンの奥でコアちゃんとひと息。
「シノミヤ、さっそくDP使っちゃう?」
「DPってどのくらいあるの?」
「えーと、一番弱いモンスターなら五体くらいなら創れるかも?」
五体かー、それって何ポイントくらい入って何ポイントくらいの支出なんだろうか。
「細かい計算はちょっと」
「数字苦手民もいます、と」
「バカでごめんね」
「酷いこと言ってごめんね」
素直に謝られると何も言い返せない。こちらこそごめん。
「ちなみにだけど、水源って創れる? ほんとに小さいやつでいいんだけど、例えばそう……洗面台くらいの」
「一番小さいやつを創ればいいの? そしたらモンスター創れる数減っちゃうけど」
「一番小さい水源を用意した場合、モンスター何体分くらい残る?」
「ニ、三体かな?」
誤差があるのはモンスターの性能とか種類によるのかな?
しかし、ニワトリのDPの半分で水源か……あんな怪物のいる森を水を探して歩き回ることを考えたら水源はダンジョン内に欲しい。
あとはモンスターの数だけど……全部使い切るべきか、罠や壁の作製に回すべきか。
「うーん……罠や壁は素材を集めれば節約できるらしいし、水源とモンスターかな!」
なんだかんだいってまだダンジョン生活初日である。
さすがに連続で襲撃なんて起こらないだろうという現実逃避込みの願望と、モンスターがいれば戦力になるだろうという期待に賭ける。
「それじゃ、先に水源作っちゃうね! えーと、場所は壁際のこの辺でいいかな? 一番小さい洗面台の大きさで、えいっ!」
そんなコアちゃんの掛け声のあと、ダンジョンの壁の一部が動き出す。小さい四角い筒状の突起が現れて、その下に受け口らしき平べったい長方形で、内側の凹んだ突起が現れる。
筒状の方の突起からちょろちょろと水が流れ出し、受け皿に溜まっていくのを眺めて思う。
「一番小っちゃい洗面台だ……」
奥行きが500mlのペットボトル一本分くらいしかなくて横に長い、外出先のトイレで見かけたら一番イライラするタイプの洗面台だ。
手のひらまで洗おうとしたら壁に指先がごつんごつんぶつかってめっちゃストレスなやつ。
「洗面台って言っちゃったのは俺かー」
「シノミヤ、どうしたの?」
「なんでもないよ」
一番小さい水源を、洗面台型でと伝えたつもりだったけど確かに丸いやつって言わなかったもんな、これは責められまい。
「ごくごく、うん。うまい! 生き返った! 水が飲めるなら問題なし!」
「喜んで貰えてよかった!」
DPが稼げる様になったら次は台所サイズで頼もうと心に決める。
「じゃあ次はモンスターだ!」
「おー!」
「一番弱いモンスターってどんなのがあるの?」
「はいっ! ゴブリンとか、コボルドとか、スライムです!」
「おー! テンプレだね! 他の候補は?」
「他のモンスターだと二体か一体になっちゃうけど検索してみる?」
「検索システムなの? うーん、とりあえずはその三種類ならどれでも三体? 三匹? 出せる感じ?」
「そんな感じ!」
うちのダンジョンの現状、なるべく強いモンスターは欲しい。けれど、それ以前に労働力が欲しい。だって今のところ動けるのは俺一人。
俺はできればもう外には出たくない。となると、質より数が欲しい。
「モンスターの特徴教えて貰える? だいたい予想はつくけど一応」
「はい! ゴブリンは強くないけど人型だから雑用向き! だけど不真面目かも? コボルドは人型の犬で、忠実だけど手が肉球だから不器用かな! スライムはべとべと!」
スライムはべとべとかー。情報が無いに等しいがどうしよう。ゴブリンとコボルドはとりあえず一匹ずつか、ゴブリン二匹かな? コボルドに指がないってのが器用さの面で迷いどころ。
「決めた、全部一匹ずつにしよう」
「いいの?」
「正直スライムは要らないかもしれないけど、どうせ試すなら早い方がいいかなって」
「なるほど? じゃあ召喚しちゃうよ?」
「よろー」
「サモン! ゴブリン! コボルド! スライム!」
コアちゃんの声が響き、ピカーっと光ったあとに洞穴の中に三体の魔物が召喚される。
「ゴブゴブ」
「わん」
「……」
ゴブリンとコボルドの外見は想定内のゲームでよく見かける姿。ゴブリンの肌は緑タイプ、コボルドの毛並みは黄色っぽい茶色。一番読めなかったスライムはもっこりした水溜りみたいな感じだった。しずく型とか球体じゃなくて、ぬべーっとした感じ。
「さて、ゴブリンくんはとりあえず外で使えそうな木とか草を集めてくれる?」
「ゲー」
緑の肌につるつる頭の腰蓑ゴブリンが洞穴を出て森に向かう。なんか不満そう。
「コボルドくんは洞穴の近くで穴を掘って土を集めて。ついでに周囲を警戒しててくれる?」
「わんっ!」
コボルドはゴブリンと違って命令されて嬉しそうに尻尾を振って洞穴の外へ。
「で、スライムくんだけど……きみ何かできそ?」
「……」
沈黙である。
まあ、発声機関なさそうだしなー、と思っていたら。
「……」
スライムくん、いや、スライムさん、いきなりぐにょぐにょ動いたかと思ったら人型に変形。
背景スケスケの何故か女体型に。
「なんかえっちだね」
「どこが?」
半透明の人型って幽霊みたいで怖いんだけど。無表情だし。ていうかコアちゃんにえっちな知識あるの? バレーボールなのに?
「あー、スライム……さん? そのまま動けたりするの?」
「……」
相変わらず声は出せないようだけど、一応動いた。腕や体から肉が削げるみたいにボタボタと体の一部が落ちては、足元の水溜りに合流してまた復元して溢れるを繰り返す。
ちなみに動きはめちゃくちゃ遅い。
「コアちゃん、スライム殺処分したらDPに戻らない?」
「……!?」
「戻らないねー」
「……っ」
気のせいか、ぷるっと震えたスライムがほっとしている様に見える。
声は出せなくても意識はあるんだもんな、悪いことをした。
「とはいえ、何もしないんじゃ他のモンスターに示しがつかないしなぁ」
そんな俺の言葉をどう受け止めたのか、スライムは遅いなりにいそいそと洞穴の外に向かい、健気に穴を掘っているコボルドの元へ行くと、べちゃっと潰れて元の形に戻って土を取り込み、ずりずりとダンジョン内に土を運びだす。
正直、コボルドが集めた土はあとでトンボ(グラウンド整備するやつ)でも作って運ぼうと思っていたのだけど……まあ、遊ばせているよりはいいか。
「彼らにはダンジョンを改築するための素材を集めて貰おう。ゴブリンには産出品で棍棒を用意してもいいかもしれないな」
「戦闘も大事だもんね! 私は次は何をすればいい?」
ダンジョンの壁に埋まったコアちゃんがピカピカ光りながら嬉しそうにする。
「とりあえずは何も。戦闘の後なんだから休憩しよう、もう少ししたら日も暮れるでしょ」
「今日は働かなくてもいいの?」
「俺たちはモンスターの様子を見守るってお仕事があるからね」
「なるほどー!」
納得したコアちゃんがピカピカを少し抑えて、いい塩梅の明るさに抑えてくれる。
さて、日が暮れるまで俺は俺で確かめないといけないことをしようか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます