第2話 目覚めた先は、知らない空

 ──最初に感じたのは、草の匂いだった。


「……ん……」


 佐伯あおいは、ゆっくりと目を開いた。

視界いっぱいに広がっていたのは、

見慣れない青空。

日本で見るよりも、少しだけ色が濃い気がする。

そして、見たことのない星の数々。

する。


「……ここ、どこだ……?」


 体を起こそうとして、あおいは自分が柔らかい

草の上で寝転んでいることに気がついた。

アスファルトでも、家の床でもない。

 周りには一面、背の高い木々が生い茂り

遠くから鳥の鳴き声や木々が風に揺られる

音が聞こえてくる。


 頭を抱えながら考えていると、昨日の記憶が

少しずつ戻ってくる。


(部屋で動画を見ていた時に光が現われて……

 それから……)


「夢、じゃないよな……」


そう呟いた瞬間、背中がぞくりとした。

夢にしては、この風の冷たさ、草の感触

全てがあまりにも現実的すぎる。


あおいは立ち上がりながら、周りを見渡した。


 森だ。

 完全に森だ。

 日本のどこにもないようなタイプの自然だ。

整備された道路や、電柱、車、建物も何一つ

見当たらない。


「……え、ちょっと待って……」


 混乱しながらポッケを触る。

 スマホがない。

 お財布もない。


 代わりに見覚えのない革製の小さな袋が

入っていた。


「何これ?」


 恐る恐る開くと、

中には金属製のプレートが一枚。

 そこには、読めるけど、見慣れない文字が刻まれていた。


「……読める……?」


 不思議だった。

 見たこともない、日本の文字でもないはずなのに

今だけが自然と頭の中に入ってきて、脳裏に焼きつく。


《名前:サエキ・アオイ》

《状態:正常》

《適性測定:未実施》


「……え?」


 次の瞬間。


 空気が少しだけ揺れ、周りの木々が静寂に包まれた。


《名前確認》

《転移処理、無事完了》


 あたりから聞こえてくる音じゃない。

自分の頭の中に直接入ってくる"声"。


「……な、なに……?」


 心臓が跳ねる。

 だが、不思議と恐怖よりも困惑の方が大きかった自分がいた。


《適正スキル、仮登録》

《古代武装クラフト:ロック状態》


「……古代……武装……?」


 聞いたことのない言葉なのに、どこか胸の奥で

じんわり、熱くなる。


(これ……やっぱ夢じゃない……)


 そう理解した瞬間、あおいの足が少し震えた。


「……異世界転生……って、やつ……?」


 口に出してみると、現実味が増す。


 そのとき——


 ガサッ。


 背後の茂みが揺れた。


「あ……?」


 反射的に身構えたあおいの前に現れたのは、

 人の背丈ほどもある、灰色の毛をした獣だった。


 鋭い牙。

 低く唸る声。


「……え、ちょ……」


 どう見ても、日本の動物、いや地球の生物じゃない。


 獣が一歩、また一歩と、こちらに踏み出す。


 あおいの頭が真っ白になり、思考が追いつかない。


(逃げ……っ)


 だが、足が動かない。


 その瞬間だった。


 胸の奥が、はっきりと“応えた”。


《危険を検知》

《応急処理として、簡易クラフトを許可》


視界の前に、淡い青色の光が広がる。


 まるで、設計図のような線が空中に描かれた。


「……え……?」


 理解するより先に、体が動いていた。


 地面に落ちていた石と、枯れ枝と、空気中の

“何か”が、

 自然に一つへと集まっていく。


 光が収束し——


 あおいの手の中に、短く、細い金属製の棒が

現れた。


「……これ……」


 武器だということが、本能で分かった。


 獣が自分に跳びかかってくる。


 あおいは、震える手でそれを構えた。


「……来るな、来るな……!」


 ――次の瞬間、

 棒の先端が淡く光り、乾いた音が響いた。


 獣は驚いたように、どこか怯えたように後ずさりし、森の奥へ逃げていく。


静寂が戻った。


 あおいは、その場にへたり込んだ。


「……助かったのか……?」


 手の中の金属棒を見つめる。


(……俺、今……“作った”?)


 胸の鼓動が、まだ速い。


 だが、確かに分かった。


 この世界で、

 自分は“ただの高校生”

 ではいられないということを。


 そして——

 この力は、まだほんの始まりにすぎない。



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『古代武装クラフト』で最弱スキルから成り上がる 神崎りん @kanzaki_rin_x

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