『古代武装クラフト』で最弱スキルから成り上がる
神崎りん
第1話 静かな日常
佐伯あおいは、どこにでもいる“普通”の高校ニ年生だ。
朝が弱くて、数学と物理は苦手。体育祭では目立ちもせず、学年上位というほどでもない。友達にからかわれたら笑って返すし、誰か困ってたら自然と手を貸してしまう。本人は気づいていないが、そういうところが周囲から「優しいやつだよな」と言われる理由だった。
その日も、あおいは寝癖を直しきれないまま家を飛び出して、学校へ向かっていた。
「やっべ、今日1時間目から小テストじゃん…」
太陽からの熱が容赦なく照りつける中でつぶやきながら早歩きしていると、近所の公園で小学生がサッカーボールを転がして遊んでいるのが目に入った。
ボールが少し勢いよく転がり、道路の方へ向かっていく。
「おーい、あぶないって!」
あおいは反射的に走り、小学生より先に手を伸ばしてボールを拾い上げた。
少年はほっと息をつき、「ありがとう、お兄ちゃん!」と笑顔を見せる。
「気をつけろよー。車来ると轢かれて危ないから」
そのやりとりのあと、あおいはまた学校へ向かった。
こんなふうに、あおいの一日は本当に“普通”の連続だった。
◆
放課後。
教室には部活動へ向かう生徒たちの声が響いていたが、あおいはどこにも所属していない。世間一般的には帰宅部だ。
とはいえ、最近ひとつだけハマっていることがあった。
古代兵器や古代文明の研究動画を見ることだ。
歴史の授業中は眠くなるくせに、古代文明の謎に関しては妙に集中できる。
「もし昔の時代に、とんでもない技術が埋もれてたら面白いな…」
そんな妄想が止まらなくなるのだ。
――そして、
あおいにはもうひとつ“秘密”があった。
彼は小さい頃から、図工が苦手なのに、なぜか金属関連のものは直感で扱える。
工具の使い方も誰かに習ったわけではない。
ただ触れていると、重さや内部の構造、どこが弱点か、どう加工すれば強くなるかが、ぼんやり“分かる”のだ。
友達にその才能を見せたら「職人の家系?」もしかして「世界的に有名な人だったりする?笑」
と聞かれることもしばしばあったが、
家は普通のサラリーマン家庭だ。
(変な特技だよなぁ、これ…)
本人はそんな程度にしか考えていなかった。
◆
夜。
夕飯を食べ終わったあおいは、自室でタブレットを開き、好きな古代文明チャンネルを再生した。
画面の中で、解説者が意味深な言葉を残す。
『古代文明は、現代よりも進んだ技術を持っていた可能性があります。
レールを使った投射武器の痕跡、飛行体の模型…
まるで“クラフト”によって武装を生成していたかのような記録も様々な文献から見つかっているんです』
「クラフトで武装って…そんなRPGみたいなこと
あるわけないじゃん」
あおいは笑いながらも、胸の奥がざわつくのを感じた。
――そのとき。
視界の端に、薄い光が揺らめいた。
「……ん?」
タブレットでもライトでもない。
部屋の空気中に、ほんの一瞬だけ“文字”のような光が浮かんだ気がした。
《起動条件確認》
《適合者──佐伯あおい》
「……は?」
まばたきした瞬間、部屋は真っ暗になった。
突然のことすぎて、自分の心の中で動揺が見えた。
黒い、限りなく深い場所へ、あおいの意識がゆっくり沈んでいく。
テーブルの上で、古代文明の動画だけが淡々と再生され続けていた。
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