第2話


慌ただしい朝を乗り越え、シュラ達はなんとか朝食にありつく。

サンドイッチ、スープ、卵焼きに野菜炒め。

色とりどりの料理で綺麗に纏まっている。

ルミーネはそれを美味しそうにパクパクと食べていく。


「ん〜美味し〜。どんどん料理の腕が上がっていくね〜」

「料理の腕が上がってもな」

「お店でも開いたら?いい所までいけると思うな〜」


それを聞いたシュラの手が止まる。

料理人になるという道…考えたこともなかったが、魔法の才能がないと分かった今、この家を出てそれを目指すのも悪くないのではないか?

そんな考えがシュラの頭を巡る。


「なるほど…」

「え?」

「確かにその道もあるよな。なんか勝手にこの家でずっと過ごしていくんだと思ってた。そうだよこの家から逃げ出して、料理の師匠に弟子入りすれば良いだけじゃないか」

「シュラ?…シュラくん?」

「何も教えてくれない魔女より料理の師匠!」

「…え?…シュラさん?」


困惑した表情をするルミーネをよそに

シュラはご飯を口にかき込み食べ終えると、足早に2階へ上がって行った。


「…冗談だよね?」



◆◇◇◇



まだ早朝、シュラはリュックを背負って、麓の街─へやってきていた。

この街はそれほど栄えてはいないが、魔女が住んでいると噂されており、一目見ようと冒険者や観光客で絶えない街になっている。


もちろんルミーネ自身は正体を明かしてはおらず、家の場所も結界によりバレることはない。

しかし…


「さっきの爆発音聞いたか?」

「ありゃ魔女様だな。間違いない」

「山の方から聞こえたよな?行ってみるか?」


このように度々問題を起こすので、魔女の噂はどんどんと補強されている。


「なぁシュラ…本当に弟子入りするのか?」


シュラの後ろから少し不安げの声でルミーネが尋ねた。


「ああ、魔法の才能がないんだし、料理で1人でも多く笑顔にする。そういう夢も悪くないかもなって」

「魔法の才能がないわけでは…」

「なんか言ったか?」

「いやいや、なんでもない…。にしても誰に弟子入りするつもり?」

「そりゃこの街一番の食堂─カルア食堂だよ」


◆◇◇◇


「弟子ぃ⁉︎うちはそんなのとらないよ!」


カルア食堂のカルアは40代手前で、赤い髪をポニーテールでまとめている。

この食堂は、カルア1人で切り盛りしており、街に来る冒険者や観光客の評価も高い。

そしてなんと先日は貴族の人間がわざわざここに来て食べに来たとか。


「お願いします!カルアさん!いや師匠!」


シュラはカルアの前で深々と頭を下げる。


「師匠って…あんたの師匠はルミーネだろ?」

「そうだそうだ〜でも師匠なんて呼ばれたことないぞ〜」

「魔法を教えてくれないんだから当たり前だろ!」


シュラはどんどんと頭を下げていく。


「俺は魔法じゃなくて料理を学びたいんです!」

「うーん…。まぁ弟子というより働くぐらいなら…。最近は人も増えて忙しいし」


カルアのその言葉にシュラは喜びの顔を、ルミーネは驚愕の顔を見せる。


「ちょ、ちょっと待って本当に弟子入りするの⁉︎」

「ルミーネ、働くだけだって。シュラもそれで満足でしょ?」

「最初はそれで構わない!」


シュラは嬉しそうな顔をしながらルミーネの方を向く。


「ということでしばらくここで働くから。飯は…まぁ朝ぐらいなら作って行ってやるよ」

「昼と夜は⁉︎」

「それぐらいどうにかしろよ!良い大人だろ!」


ルミーネはよろよろと膝から崩れ落ちていく。

カルアは耳を疑うように聞き返す。表情は軽く引きつっている。


「ルミーネ、毎食シュラに頼んでるの?」

「そうだけど…?」

「他の家事全般に、素材集めも!」

「本当に魔法教わってないんだ…」

「い、今は修行期間だから…」


崩れゆくルミーネは放っておき、シュラは厨房の方へ向かう。


「カルアさん!俺何からすれば良い?野菜でもなんでも切るよ」

「えーと…。じゃあその辺の食材の下処理から頼もうかな」


ルミーネを一瞥したあと、カルアも続いて厨房に入っていった。


◆◇◇◇


ルミーネはその後、カルア食堂の一席に座り、厨房の様子をずっと眺めていた。

そこにやれやれといった様子でカルアがやってくる。


「それ以上居座るなら、もう一品頼んでいってよ」

「シュラはこのまま料理の道に行くのかな」

「うちは驚いたよ、あんなに物覚えがいいなんてね。即戦力てのはああいうのを言うんだろうね」


ルミーネ頬をは机にべったりとつけたままメニュー表を指さす。


「このオムライスを…」

「はいよ。そんなに後悔するんなら魔法を教えてあげればいいのに」

「そう簡単じゃないんだ〜…」


その姿を苦笑しながらカルアは厨房に戻っていった。

その後もカルア食堂は客の回転率が早く忙しくしている間にあっという間に夜になった。


ルミーネは流石に居すぎたと思ったのか、オムライスを食べしばらくした後、向かいの店などで時間を潰していた。


「ふー終わったー。この量のお客さんを1人でやってたなんて凄いねカルアさんは」

「いやー助かったよ。今日は特に多かったけど、シュラのおかげで店をうまく回せたよ。こういう忙しい日はまた頼もうかな」

「終わったか〜?」


暗闇の中からぬっとルミーネが現れる。


「ずっと居たのか?」

「ま、まぁご飯があれだし…」

「ちょっとは頑張れよ!」


シュラは持ってきていたリュックを背負う。


「じゃあカルアさん、また明日も来るよ」

「はいはい、2人とも気をつけて帰りなよ」


店の外まで見送り、2人の姿が見えなくなるまで眺めていた。


「にしても今日はお客さんが多かった。この辺で何かあったのかねぇ」

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