第二話 転生おめでとうございます……ご主人様。

 死ぬ瞬間も僕は彼女達を思い出していた、彼女達を作るのにも多額のゲーム内通貨やアイテムが必要なのだ。一生懸命考えて作った自慢のNPC達。みんな可愛くて夢を見させてくれた。死んでも僕は彼女達を絶対に忘れない……。


「……てくだ……。」

 そう、忘れはしない。今もこうして彼女の声がするのだから……。

「おき……くださ……い。」

 それにしても鮮明に聞こえるな……迎えがこんなにもハッキリとするとは……。

「良い加減、起きてください。」

 すると何かが触れる感触が顔を伝う、瞼をギリギリと雑に広げてくる。

「痛あああああああああああ!!」

 あまりの痛さにベッドから起き上がる。

「おはようございます。ご主人様。」

「は?!なんだこれ?!」

 状況が飲み込めない……僕は死んだはず……電車に轢かれたという記憶は何故か鮮明に残っている。

「まずは転生おめでとうございます。」

「は?!」

 転生……これが俗に聞く異世界転生か?!

「状況が飲み込めて無いようですので、ご主人様から創造されましたメイド長『センシア』から説明いたします。」

 なんだこれ……確かに目の前にいるメイドは二体目に作ったNPCのセンシア、画面の向こうだった存在が話しているのは正直信じられない。

「ご主人様は電車にシバかれて死亡、転生。ハッピーエンド……これが、全てです。」

「おい、転生した原因はなんだよ?!」

 話を端折りすぎだ、伝わるもんも伝わらねぇ!

「申し訳ございませんが、転生した理由は私にも分かりかねます。」

「分かりかねますじゃないよ!第一僕はベッドの上、一部始終は見てたんじゃ無いのか?」

「それが……私がここに居た時には既にハル様はベッドの上でした。丸一日寝てたのですよ?」

「丸一日……。」

 ていう事は、僕は少なからずともこの世界に1日は居たということになる。転生した原因が分からないのは気になるけど……転生したからそんなんどうでも良いか。

 

「よし!それじゃあ、この世界を攻略するぞ!」

「はい、かしこまりました。」

 玄関を出て庭に出ると『FOO(フリーダム・オーバー・オンライン)』の世界じゃなかった。

「ここどこ?」

「私も知りたいです。」


「まさか、僕達は……。」

「はい、正真正銘異世界転生です。しかも可愛いメイド付き。」

「えぇ……僕はてっきり知ってる世界に転生されてると思った。けど、これは……。」

「残念ながら、FOOとは別の世界。ハル様の知識もここでは未知ということです。」

「はぁ……。」

 自分の思い通りにいかずため息が出る、異世界で無双する夢潰えたのと同時に正直不安しかない。

 

 センシアと共に屋敷に戻る、このでかい屋敷も建てるのに時間かかったよな……本来だったら他のプレイヤーと協力して一緒に建てるものだ……僕はぼっちだったから時間がかかるのは当然。

「他の子はどうしたの?」

「それぞれの寮で待機しています。皆、ハル様に会いたがってましたよ。」

「全員いるのか?」

「はい、全29名。一人も欠ける事なく。」

「……各寮長を、会議室まで。『ヴェスターズ』の寮長は呼ばなくて良い。」

「かしこまりました。すぐ呼んできます。」

 

 僕の作ったNPCは各寮に振り分けられている、まず『カリス・ピスティソス』寮長はセンシアであり、主な業務は家事全般。一般的なメイドでありメンバーも全員で10人と一番多い。戦闘には参加しないが、時々連れ出してはレベルを上げている。

 

 次に『ノクターンズ』彼女達は夜に活動するいわば夜勤だ。カリス・ピスティソスの仕事と入れ替わるように夜は彼女達が仕事をする。一般的な家事以外も警備、監視のセキュリティー面も彼女達の仕事になる。寮員は5人と半分だ。

 

 三つ目の寮は『ヴァリアンズ』これに関しては元々経験値を効率よく稼ぐために固めたパーティだ。外へ連れ出す度に同じメンバーとなるのでそのまま訓練場に寮を作り定着させた。主に戦闘面に特化しており家事は一切しない。寮員は4名と少ない。

 

 続いて『ヘイムス・ヴィティズ』彼女達は異形の集まりではあるが魅力的な女性達だ、主にこの屋敷や仲間が危険に晒された時、またイレギュラーの発生。ノクターンズやヴァリアンズが太刀打ちできない敵が現れた時用に彼女達がいる。戦力が強く一斉にこられたら僕でも勝てるかどうか分からない。太陽の光を嫌うのと単に表に出られるような風体なので屋敷の地下に寮を築いている。寮員は5名だ。

 

 最後に『ヴェスターズ』屋敷東棟は教会だ、そこに彼女達は寮を築き住んでいる。彼女達は戦いをしない、ただ最低限の家事に徹し、戦いが起きれば傍観者として見守るだけ。介入は彼女達の気分次第。何より寮長の種族が神であり職業は蘇生術師で審判者……この屋敷の安寧のために彼女達は存在している。寮員は5名。

 

 以上が寮になる、全て合わせて29……これが僕が作ったNPC達。紹介してもしきれない。


 会議室へ入って待っていると両扉がゆっくりと開く。

「お待たせ致しました。ヴェスターズ以外の寮長をここに……。」

「『ノクターンズ』が寮長……『フォスノーラ』。お会いでき光栄です。」

 彼女はフォスノーラ、ダークエルフであり『ブラックマジシャン』『呪術師』の職業を持っている、レベルは62だ。カンストが100であり職業はレベルが30で2つ併用できる60になれば3つ併用可能だ。

 

「『ヴァリアンズ』から『カストディーア』よろしくなご主人。」

 カストディーアはオーガでレベル74の『ファイター』『ヘビーウェポンユーザ(上級職)』を習得している。職業にもレベルは存在しカストディーアの場合は『武器使い』の職業からヘビーウェポンユーザーになっている。職業は上級職問わずカンスト20で構成されており、レベルが上がるにつれパラメータにボーナスそしてスキルを覚えられる。ただこの上級職になるシステムには少し厄介な事があり、へビーウェポンユーザは重い武器を装備する事が前提だ、なので素早さの成長は低下し使える武器の適性も限られている、そういう時に職業を併用するのだ。そうすることでレベルアップ時にパラメータの成長を調整できるし武器適性も調整できる。

 

「『ヘイムス・ヴィティズ』が寮長……『シックス・アイズ』……。会いたかった……私の旦那様……♡」

 彼女はシックス・アイズ、レベル89であり種族が『奇蟲人』という特殊な種族だ。下半身はムカデであり整った顔には目が六つ、ぶっちゃけ四つ閉じれば人間の顔に見えなくない。体は外骨格か硬そうに見える。職業は『デバフアタッカー』『マスターポイズニスト(上級職)』キャラクリのデザイン時点でもパラメータに影響が生じる、シックスアイズの下半身はムカデ、平地では二足歩行より少し遅いくらいか……ただスキルに『センチピード・グリッパー』というものがある。これがあると壁や天井を這うことができる。このようにスキルも豊富であり、僕自身全部は覚えられないほどだ。

 

「最後に私『カリス・ピスティソス』より寮長と全寮の統括を任されてます『センシア』です。ご主人様……ご用件を。」

 最後にシンシアが紹介する、彼女達は皆最初のキャラクリの時点で『メイド』としての職業を与えている。センシアはその『メイド』の上級職『スーパーメイド』を取得している。レベルはカンストの100……。

 

「あ、ありがとう。」

 改めて異世界に来たと実感すると同時に僕の作ったNPCがこんなにも生き生きしてる事に驚いた。呼吸、視線、表情。どれをとっても夢ではなく現実であると分かる。

 

「まず、一つの問題としてここがどこであるか把握したい。現状で何が分かっている?」

 すると一番先に声を出したのはフォスノーラだった。

「ご主人様、昨日の夜に『サマニア・メイデン』を上空に『ロンガ・シュタット』を近くの森へ向かわせました。」

「森?」

「はい、ここより近くに森が存在しています。そこにはゴブリンがアジトを作っているようでして規模もそこそこ大きいかと。」

「ゴブリンねぇ……。」

「ただ一つ問題がございます、あのゴブリンはFOOのゴブリンではございません。なのでどういう技が出てくるか予想できないかと。」

「……森へは深くまで入らないようにしよう、手前で散策を続けてくれると嬉しい。」

「かしこまりました。続いて上空調査では近くに街を発見しましたが、人はすっからかんで皆飢えている様子でした。」

「うーん、なるほど……。」

 少なくともこの世界には人という存在があると分かっただけ前進だ。彼女達がいなければ分からなかった情報だ。

 

「なるほど、これが所謂第一村人発見というやつですね?」

 センシアが急に口を挟む。なんだ、急に……。

「いえ、センシア様。話してイベント発生からです。」

 フォスノーラが必死に説明してる……いや、まぁそうだけど……。

「とにかく、明日はその街に行ってみよう。調査しないと……。」

「かしこまりました。追加でですが、食料はどうなさいます?」

「食料……。」

 そうだよな……生きてるもんな……ゲームじゃないから……。

「近くの森で狩猟しよう。ヴァリアンズも手を貸してやってくれ。」

「あいよ。」

「ノクターンズはこの屋敷の設備を調査してくれ、どの施設が使えるのか把握したい。」

「かしこまりました。」

 ゲームの世界じゃただの飾りだ、現実になったからってアレらが正常に機能するのか……。

 

「因みにですが、トイレは使えましたよ。」

 フォスノーラから衝撃の一言が放たれる。

「トイレ……あれ水洗式だぞ?」

「はい、下水道があります。『ヘイムス・ヴィティズ』に調査依頼をしたところ、ご主人が作った下水処理は機能してました、処理水はそのまま近くの川へ流れるようです。」

「褒めて!」

 シックス・アイズは頭を差し出してくる。

「え……ああ……うん……え?」

 下水道が機能している……なんだそれ……。

 

「シックス・アイズ。ご主人は疲れいるのですよ?離れなさい。」

 センシアが忠告する。

「嫌だね、私達『ヘイムス・ヴィティズ』は皆んなご主人を溺愛している。」

 そんな設定入れたっけ?プロフィールは責任持って覚えてるはずだが……。

 シックス・アイズは抱擁してくる、そんなことよりトイレ機能するんだ……。驚愕の方が勝ってしまった。

 

 すると変なアラーム音が『ピピ』と鳴る。

「ん?」

 視界左上に見覚えのあるUIが出てくる、上から順にHP、MP、ST、MEだ。ヒットポイント、マジックポイント、スタミナ、メンタル。FOOのUI……これも評価の中に『くどい』と書き込まれていた。

 でも、なんで急に出てきた?すると、状態異常の欄に毒が追加される。

「あ……。」

 その場に倒れ、体が動かなくなる。

「あああああああああああ!!ご主人様ああああああああああ!!」

 シックス・アイズが叫ぶと同時に思い出す。シックス・アイズはマスターポイズニスト、かけられない毒はない。

 UIの欄に痙攣も追加される、さすが俺のNPC……最高だな。

「とりあえず『グルージャ』の奴呼んでくるぜ。」

 カストディーアは部屋を出て行った。結構驚いてなかったな……こうなる事を予想してたか……。


 とにかくだ、僕の異世界ライフは始まりを迎えようとしている。でも、その前に二度寝をかますつもりだ。とりあえず、前の世界みたいに縛られた生活を送ることはないだろう……。僕は彼女達と共にこの世界を歩んでみせる。


 第三話に続く……。

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