第2話 😊

「路地はまるで、黒い絵の具を溢したかのように、真っ暗に染まっていた。その日は確か雪が降っていたでしょ?だから月の光が雪に反射して少しは明るく見えるはずなんだけど…この路地は雪を踏む音はするのに、雪が光を反射していない。おかしいの」


磯辺の耳を触る手が止まった。村山は少し現実に戻った。


「あ、ごめん…手を止めてた。なんか、思い出すだけで意識が朦朧とするの。

で、さらに奥へ進んでみると、街灯があったの。地面の雪をオレンジ色に染めていて、どこか懐かしさを感じた私は、街灯のすぐそこにある角を曲がった。

で、それを見た。ねぇ、それってなんだと思う?」


磯辺は文学に精通でもしているのか…と言いたくなるほど、文学っぽく話した。

そして、彼女の言うがなんなのかは、全く想像がつかない。ただ、悪い予感はする。


「それは、モノリスだった。謎の絵が彫られていたの。まるで、原始人が描いたかのような、白線で構成された絵が、そこには存在していたの。

ねぇ、おかしいとは思わない?なんでこんな街中の路地裏に、モノリスがあると思う?

しかも、そのモノリスに描かれている人たちは、皆んな細かく顔が彫られていたの。髭や眉毛、しわまで、しっかりと。不気味なほどに、皆んな笑っていた。なのに、楽しそうな光景ではなかった」


村山の耳に磯辺は、指を突っ込んでみた。すると磯辺は顔色一つ変えずにこう言った。


「耳垢が…まぁ良いか、もう。で、話を続けるけど。

その笑っている人たちは、泣いている1人の人を武器で一方的に攻撃していたの。鉈とか斧とかで、武器を持たない1人を集団で、まるでイジメのように。

泣いている人は、おそらく血液と思われる液体ものを出して、泣いていた。その血液を浴びて笑っている人もいた。とにかく、そんな感じ」


いきなりグロいのが来たと村山は思った。首が痛くなる、くすぐったくなる。


「でね、おそらくその続きと思われるシーンが描かれている絵が隣の壁にあったんだけど。

泣いていた人が笑っていたの。他にも色々なシーンを描いた絵があったけど…印象に残っているのは…バラバラに分解されているマンモス…と思われる生物を焼いている絵。そのマンモスも笑っていたし、周りにいる奴らも笑っていた。不気味だった」


続きが気になるところで磯辺は、テーブルに置いてあったペットボトルを取って飲み始めた。


「早く続きを話してって?まぁちょっと待ってよ。ここからは結構キツい内容で…まぁ話すけどさ。

絵を見ていたら通路の奥から化け物が出てきたの。絵の笑っている人たちと同じように、笑っている化け物が」


彼女は村山をもう一度寝かせると、耳を触り始めた。

唐突に化け物が出てきたと言われても…と思ったが、今は落ち着いて話を聞こう。


「赤い服を着た彼らは私とモノリスの絵を見比べるように頭を動かし、そしてジッと私を見た。その笑顔はすごく不気味で…思い出しただけで鳥肌が立つ。

身の危険を感じて、急いで路地を出て…路面が濡れていたから、そこで足を挫いて骨折した。信じるかどうかは、あなた次第」


村山を起こすと磯辺はハンカチで手を拭き、また飲み物を飲んだ。


「あの赤い服の化け物がなんなのかは、私にもわからない。わからないからこそ怖い。今もあの路地で不気味に笑い続けているのかと思うと、震えが止まらない。

なんで笑っているのか?なんで赤い服を着ているのか?なんで泣いていた人が笑い始めたのか。ハァ、やっぱこの話はやめよう。今日は夜遅くまで起きて、深夜を寝ずに過ごそう」


大丈夫なのかと尋ねる村山に、磯辺は返した。


「寝ると、あの赤い服の化け物たちに襲われるような感覚がするというか…どうしても寝ている時間を減らしたいというか…だって、笑い声がするの。気持ち悪い、気持ち悪い、頭がおかしくなりそう…吐きそう…ダメ、もうちょっとここにいて、村山。

あなたには聞こえないの?濁るような気持ち悪い笑い声が、どんどん大きくなっていく。同じ人間の笑い声とは思えない。嘘…あの顔が、窓に…窓に」

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クリスマス、雪、来ない まめでんきゅう–ねこ @mamedenkyu-neko

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