第3話:ケーニス大捕り物

――王国国境沿い、ケーニス――


ケーニスに到着した。

観光客を装っているため、私服姿の僕の隣には非武装のライナがいる。

非武装ではあるが、格闘術でもある程度は対処できるとのことだ。


まずは調査をしている教団員と合流せねば、と思っていると声がかかった。

「コリンズ様。こちらに……」

何も言わず声の主についていく。


案内されたのは、普通の民家。

中に入ると、教団員が数人待ち構えていた。


「コリンズ様。お久しぶりです。」


「あぁ、久しぶり。みんなも元気そうでよかったよ」


エビルタウンで暮らしている教団員も多いが、教団のために外の街に入り込んでいる者もいる。


「それよりも、早く調査結果を教えてくれ」

ライナが皆をせかしている。


その質問には、奥から出てきたローチが答えた。

「新たにケーニスに赴任した、リブ教の司祭であるコルネリウスですが、帝国側に子供を受け渡しているようです」


ローチは手元の紙の束をライナに手渡した。

みるみるうちにライナの顔が赤らんできている。

怒髪天を衝くとはこのことだろう。


ローチは続けた。

「人身売買の証拠はありますが、この街の代官もグルのようでして……司教を排除するだけでは、この街の人身売買は終わらない可能性があります」


なんと、司教だけでなく代官まで人身売買に関わっているとは……

今回のターゲットが2名に増えてしまった。

よく考えると、実働の人さらいたちもいるはずだ。

もっと人員を連れてくるべきだったろうか……と思案していると、教団員の一人が口を開いた。


「コルネリウスの周りにいる聖騎士ですが、彼らは無実のようです。もし、実態を知れば協力してくれるかもしれません……」


「それはいいことを聞いた、ならリブ教の聖女様宛に僕が手紙を書くから早急に届けてきてくれ」


――3日後――

数人の聖騎士がケーニスに来た。

表向きは、盗賊の襲撃を警戒しての巡回ということになっている。

僕はその数人の聖騎士と対面を果たしているところだ。


「やぁ、久しぶり。まさか第二騎士団の団長様も来るなんて、聖女様はこの事態を重く見てくれているということかな」


「はぁ、久しぶり。と言葉を交わす間柄ではないと思うんだがな……」

第二騎士団、団長のバランが苦笑いをうかべている。


若い聖騎士が困惑して、バランに質問をし始めた。

「バラン団長。あの、こちらの方はいったい……」


せっかくだから、自己紹介をしておこうと思い口を開いた。

「やぁ、初めまして。僕はコリンズ。"変わり者"のコリンズと呼ばれているよ。エビル教の司教をやっているんだ」


僕の言葉に、数人の聖騎士が腰の剣に手をかけた。

「やめい。彼に剣を向けるな。少なくとも、今は敵ではない」

バランの言葉に若い聖騎士も剣から手を離した。


「いったい……どういうことなのでしょうか」

邪教と呼ばれるエビル教の司教に剣を向けようとして、聖騎士団の団長が止めるという現実をうまく呑み込めていない様子がどこか滑稽に見えた。


「混乱させてしまって悪いね。ちょっと今から配る紙を見てほしいんだ」

そしてバランと聖騎士たちに紙を配る。

司教のコルネリウスが人身売買に関わっている証拠。

街の代官もグルになっている証拠。

帝国に売られてしまった被害者とその家族の情報。


「これは……事実なんでしょうな……」

バランが力なく漏らす。


「残念ながら、事実です。以前も同じようなことがありましたが、それと変わりません」


若い聖騎士たちは、この証拠が偽物なのではないかを疑っているようだが、バランは疑っていないようだった。


「で、コリンズ様は何をお望みですかな」

気を取り直したバランが問いかけてくる。


そこでざっくりと要望を伝えてみた。

僕たちがコルネリウスの捕縛と代官の捕縛を行うこと。

その後広場で罪を暴いて、公開処刑を行うこと。

現地の聖騎士は人身売買に関わっていないので傷つけたくないこと。

リストにあがっている人さらいの捕縛は、そちらに任せたいこと。


「つまり……無実の聖騎士や、教会の関係者を遠ざければよいのですかな」


「うん。それだけやってくれれば良いよ、あとはこっちの戦力で頑張るから」


「わかりました。余計なお世話かもしれませんが、代官の捕縛についてもこちらの聖騎士を出します」


コルネリウスを捕縛して、罪を明らかにする。

その内容を聞いた聖騎士が代官を捕縛しに行く。

こういった形で決着し、決行日を迎えた。


――ケーニスのリブ教会――

一人の司教が歩いていた。

「なぜ、シスターも聖騎士もいないのだ……」


「それはね。今教会にいるのは君だけだからだよ、コルネリウス」


声につられて僕を見たコルネリウスが声を荒らげる。

「賊か!貴様は何者だ、護衛の聖騎士は何をしている!」


「叫んでも無駄だって、教会には今きみひとりなのだから」


お互いに相手に近づかないまま、話を続ける。


「コルネリウス。君は人身売買に関わっているね、しかも代官とグルだし、王国民を帝国に売り渡していると来たもんだ」

手元に持っていた紙を投げ渡す。


紙を読んだコルネリウスの顔色が、青を通り越して真っ白になってきている。

先ほどの怒っていた顔からの変化で、赤→青→白とずいぶんカラフルだ。


「……貴様……どこでこれを……」


「どこでだっていいじゃないか。大事なのはリブ教の司教が、人身売買をするような腐った奴だってことだ。だからお前を捕縛して、公開処刑にするのさ」


公開処刑にするという宣言に怒ったのか、それとも僕を排除すれば逃げられると思ったのか、コルネリウスは宝石のついた杖を持ってとびかかってきた。


――瞬間――


僕の後ろから飛び出してきたライナが鞘のついた剣でコルネリウスを張り倒した。


「コリンズ様。誰に対しても対話を試みるのはいいのですが、こういう場合は身を守っていただけると……」

ライナに小言を言われてしまった……


とりあえず、コルネリウスを縛り上げて、街の広場まで行くことにする。

街の広場では、ローチたちがすでに人を集めていた。

「聞いてくれ。前に急に姿を消した家族を覚えているか?」

「私たちは人さらいにあって、帝国に売られかけたんだ!」

「人身売買じゃないか、誰が犯人なんだ?」

「それが、リブ教のコルネリウスと代官がグルだっていう話だ」

そんな演劇のようなやり取りをしているところに、縛り上げたコルネリウスを連れた僕とライナが合流する。


広場に用意された台に上がり、コルネリウスを固定する。

準備が終わったので、水をぶっかけてコルネリウスを起こす。


「っぐ、こんなことをしてただで済むと思うなよ……」


「ただではすみませんよ。あなたはここで死ぬのですから」


コルネリウスの悪事を知らしめるため、僕は声を張り上げた。

「ここにいるコルネリウスは、人身売買の罪を犯した。リブ教の司教でありながら帝国に市民を売り渡したのだ!証拠もある、被害者もいる。だからこの場で公開処刑を行う!」


広場は騒然とし始めた。

そこに、バラン団長が現れる。


「またれよ!今の話は事実か?」

バラン団長の登場に一番驚いているのはコルネリウスだろう。


「バ……バラン様!こいつの言うことはでたらめです。私はそんなことに関わっておりません」


「コルネリウス司教。その言葉、神に誓えますか?」


「誓えます。断じて人身売買など……」


「あいわかった。そこの者、公開処刑は待ってほしい。グルだと言われていた代官をこちらに連れてくる。その話を聞いたうえで判断する形としたい」


「……わかりました」


そういってコルネリウスの公開処刑をいったん取りやめる。

ここまではバラン団長と打ち合わせした通りの流れである。


「数人ここに残り、コルネリウス司教が処刑されないように見張っていろ。残りは俺と共に代官に会いに行く」


――1時間後――

ぎゃーぎゃー騒がしくなったと思ったら、捕縛された代官がやってきた。

聖騎士の一人は腕に包帯が巻かれており、怪我をしたようだ。

バラン団長が怒気を孕んだ声で言う。

「コルネリウス!貴様嘘をついたな!代官に先ほどの事を問い詰めたら、いきなり剣を抜き抵抗してきたぞ。騎士団員にけが人も出ている」


バランに怒鳴られたコルネリウスは驚きに声も出ないようだ……


「なっ……代官が聖騎士に剣を……」

市民の間にも動揺が走る。


「コルネリウス。リブ教の第二騎士団団長として俺、バランが宣言しよう、嘘を神に誓ったお前は――破門だ!」


「代官もあちらの者に渡してやれ、リブ教にあんな奴がいたことが恥ずかしい。引き渡したら帰るぞ」


聖騎士から代官を受け取り、コルネリウスの横に固定する。


聖騎士が広場から去っていくのを見届け、改めて公開処刑を宣言した。


首を落としたのは、ライナだった。


「コリンズ様は手を汚さないでください」

そう、優しくライナが言う。

「あれ、もしかして僕が人を手にかけたことが無いことってバレちゃってる?」


「えぇ、コリンズ様に助けられた者全員が知っておりますよ」


恥ずかしい秘密が全員にバレている気分になってしまったが。

こうしてまた一つ汚職をした聖職者を排除し、エビルタウンに帰るのだった。

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