第4話:リブ教の聖女<聖女視点>

――リブ教の聖域――

一人の女性が佇む。

腰まで伸びた白銀の髪、まるで精巧な人形のような白磁の肌を持った女性。

薬学に明るく、病気にも詳しい、まさに聖女というべき女性である。

誰も名前を知らず、ただ聖女として長い間活動していることしか知られていない。


ノックの音が響き、扉が開かれると、バランと、彼に付き従う数人の団員が現れた。

「ただいま戻りました」


「おかえりなさい、私の聖騎士たち。コルネリウス司教の汚職は事実だったようですね、痛ましいことです」


「汚職はなくなりませんね……それに、我々では気が付くことすらできませんでした」


今のやり取りに違和感を覚えた若い聖騎士が問う。


「聖女様も、コリンズ司教をご存じなのですか?」


「えぇ、知っておりますよ。そもそも今回バランを派遣したのも、彼が手紙で要請してきたからですし」

若い聖騎士の顔が驚愕に染まる。


「あの、コリンズ司教とは何者なのでしょうか?」


「彼は自分で言ってませんでしたか?"変わり者"のコリンズだと」


「そのように言っておりましたが……」


「では、かいつまんで説明しましょう」


私はコリンズについての説明をした。

エビル教の"変わり者"コリンズ。

自ら人を殺めたことはなく、犯罪者を裁くために動く。

被害者を引き連れて、エビルタウンを建設する。

孤児たちを育てている。

神から見捨てられてしまった人を受け入れる。

罪なく虐げられた人も受け入れる。

そういった話をしていると、若い聖騎士が質問をした。


「まるで、リブ教の理念を体現しているような人物なのですが……」


「えぇ、その通りです。それがエビル教の"変わり者"コリンズです」


何とも理解しがたいと思うような顔をして、若い聖騎士は黙り込んでしまう。


「エビルタウンに行くと、元聖騎士も住んでおりますよ。彼の姿に心酔して、ついて行ってしまうのです」


「エビル教とは言いますが、邪神に魂を捧げようとしているのは二人の幹部ぐらいで、エビルタウンに住む"変わり者"のコリンズの信奉者は、邪神の復活を目指しているわけではないらしいですからね」


「それなら、リブ教にいてくれたほうがいいのでは……」

率直な意見を話す若い聖騎士だが、それに対してバランが返答した。


「あいつは、外からリブ教を見ているのだよ。だから、これでいいのさ」


「ふふっ……バラン団長も、昔同じことを言って、ふられてしまいましたものね」


えぇっ!と聖騎士団員たちの顔が驚愕に染まる。


「でも、エビル教の幹部二人や、他の教団員がいたらしっかり捕縛してね」


そう伝えた後、聖騎士たちは退室していった。


――私は夢見る――

いつか、エビル教の信者が、"変わり者"のコリンズの信奉者だけになることを。

いつか、邪神に魂を捧げる存在がいなくなることを。

いつか、リブ教もエビル教も関係なく過ごせることを。


いつか、私がコリンズに会えることを。

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邪教の変わり者 藤城ゆきひら @wistaria_castrum

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