第2話:聖都エビルタウン

定例会も無事終わり、マリアベルとグレゴリーが旅立った。

しばらくすれば、帝国と王国の好戦派が争い始めるだろう。


やることもないので、街の散策に出ることにした。

街の中央にある教会を出て、あたりを見回した。


――聖都エビルタウン――


元々は何もない荒野だったのだが、今や立派な街である。

四方を石の城壁で囲んでおり、城塞都市とでもいうような見た目だ。


この街は帝国、王国のどちらにも所属していない。

勝手にこの土地に住み着いて、勝手に支配している状況ではあるが、千人以上も住んでいる街というのは我ながらすごいことだと思っている。


農場に牧場もあるし、大工や鍛冶師もいる。

戦争をやるような戦力はないが、戦える人員だってそこそこいる。

僕の街にいるエビル教の信者たちを守るくらいならできるはずだ。


街を歩いていると、後ろから声がかかった。


「コリンズ様。おひとりで出歩かれるのは感心しませんな。」


振り返るとそこには軽装だが、帯剣した騎士がいた。

金色の長い髪を後ろでひとまとめにした、女性騎士だ。


「この街で、僕に危害を加えようとする奴なんていないから、大丈夫だよ」


「それはそうですが。それでも、不測の事態を考えて、せめて一人くらいは護衛を連れて行ってください」


「わかったって。じゃあ今日は君が付いてきてくれよ、ライナ」

そう伝えると、ライナはしぶしぶ付き従ってくれるようだった。


「それで、何の為に街を歩いていたのですか、コリンズ様」


「帝国と王国で戦争が起きるんだ。正確には起こすんだけど……」

今も火種がくすぶっていること、融和派を攻撃して好戦派だけで戦争を始めさせるように仕組んでいることを伝えてみた。


「戦争はよくない、少しでも被害を減らしたい――そう言ってる僕が、戦争が起きるように仕向ける。なんとも悲しいことだなと思ってね」


「それにこの街、エビルタウンが巻き込まれることは無いと思うけど……ここが戦争になったらどうなるのかなと思ってしまってね」


「ここが戦争になったら、私たちはコリンズ様だけでも逃がしますよ」

事もなげにライナは言う。


「なぜ?」


「街が崩れても再建することができます。邪神様に魂を捧げることもマリアベル様がいればいつかは達成できるでしょう。」


「ですが、エビル教を導いていけるのはコリンズ様しかいませんから」


ライナの言うことには一理ある。

マリアベルは不死身だから、邪神様復活までどれだけ時間をかけてもいい。

だが、マリアベルもグレゴリーも生贄>信仰といった感じで、他の信者を作るどころか、部下すらいない始末なのだ。

だから、今日も定例会が終わったら二人はそれぞれ旅立っていってしまった。


「とにかく、この街が戦争に巻き込まれないように気を付けないとなぁ……」

そんな話をしつつ街を散策していると、正面から一人の男が走ってきた。


「コリンズ様!大変です!」


「どうしたんだ、ローチ君」


「聖都リバティから王国のケーニスに派遣されたリブ教の司教に、人身売買の疑いがかかってます」


「なんだと!」

ライナがとてつもない剣幕で怒っている。


それもそのはず、ライナは人身売買の被害者だったのだ。

家族は殺され、自分は売られ、神に縋ったがリブ教からは助けられず。

というか、その人身売買に関わっていたのもリブ教の司祭だった。


ライナがローチを問い詰める。

「ローチ。人身売買に関わっているのは、リブ教の司祭で間違いないんだな?」

今すぐ飛び出していってもおかしくないくらいの怒りだ。


当時の僕は、罪人相手なのだし、罪を暴きつつ、その魂を邪神に捧げてしまってもいいのではないかと思った。


すでに幹部だったマリアベル様にとりなしてもらい、グレゴリーを連れて行って司教を捕縛した。

ついでにその場のノリで、広場で罪状を公開、勝手に公開処刑までもっていってしまった。

事実を知った民衆の怒りがすごかったのだ。


その時に売られかけていた人や、助けた被害者の家族が付いてきたのがエビルタウンの始まりである。


「ケーニスかぁ……国境沿いだから、戦争が始まったら巻き込まれてしまうな……」

と悩んでみてはいるが、汚職をする聖職者など許せるわけがない。

もし、エビル教で汚職をする奴がいたら、マリアベルとグレゴリーをけしかけてやるが、そもそもエビル教の司祭は僕しかいない。


たとえリブ教という別の宗教だとしても、人を導くべき聖職者が汚職とは嘆かわしい。


「ローチ君。とりあえず、証拠を集めてほしい。」


「証拠については、現地に残したメンバーが収集を進めておりますが、現時点でも八割がた黒です」


「わかった。なら準備を始めないとだね。なぜ、汚職をする聖職者は無くならないんだろうか……はぁ……」


「コリンズ様、今はマリアベル様もグレゴリー様もご不在です。今回は私と他数名が付いていきますからね。人身売買をする奴らなんて一人残らず邪神様のもとに送ってやりましょう」


血気盛んなライナをなだめつつ、ケーニスに向かう準備を進めるのだった。

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