邪教の変わり者

藤城ゆきひら

第1話:エビル教幹部定例会

――エビル教聖堂地下――

黒を基調とした立派な聖堂の地下、3人の人影がある。


「えー、それでは、エビル教の定例会を始めたいと思います」


「本日も、幹部3人そろって定例会が始められること、非常に喜ばしく思います」


僕がいつもやっている挨拶をして、定例会が始まった。


「そもそも私は死なないし、3人揃わなくなる危険が一番高いのは貴方でしょうに……」


腰まで伸びた白銀の髪、まるで精巧な人形のような白磁の肌を持った女性が言う。

彼女は不死身のマリアベル。

見た目は絶世の美女であるが、自らの不死性を利用し、毒や疫病を扱う。

マリアベルが潜入した街がまるごと全滅する、なんてことは日常茶飯事である。

人間に貴賤なく、まるごと邪神様の生贄にしてしまえ、という過激な思想が玉に瑕。


「ちげぇねぇ。3人の中で一番弱いんだから気をつけろよ」


粗暴な言い方だが、僕を心配してくれているこの男は鏖殺のグレゴリー。

筋骨隆々な男、2メートルはある巨体で、鎧等は着ていない。

戦争や紛争があると聞けばそちらに行き、争っている勢力どちらにも甚大な被害を出す強さがある。

邪神様への生贄集めにも熱心だが、非戦闘員に手を出すのは違うと思っているタイプ。

まだ見ぬ強者を探しており、飲み会の時に、邪神様が復活したら戦ってもらえたらいいな……という夢があると語っていた。


「この街にいる間は大丈夫だと思いますが、外に行くときはしっかり気を付けてますよ」


そんな世間話から始まった定例会だが、そろそろ本題に移らないといけないだろう。


「それで、皆さんの最近の活動状況はどんな感じですか?何か困りごととかありますか」


「俺の方は、大きな戦争が無いのが困りごとだな。さすがに無駄に集落を襲って邪神様に捧げるのは俺の美学に反する」


「戦争……ですか……争いは無いほうが僕としては好ましいのですが、帝国と王国って、ことあるごとに戦争やってますよね」


彼の困りごとを解決するには、戦争が始まるのが一番なのだが……何か手はあるだろうか?

しかし、やりたくもない戦争で死ぬ兵士や、巻き込まれる民間人が増えるのはよろしくない。

一番良いのは、帝国と王国の戦いたい人達だけで争ってもらえばいいのだが……

正直なところ、戦争がはじまると被害を受けるのは民間人ばかりなのだ。


どうしたもんかとここ最近の情勢を考えてみて、1つの案が浮かんできた。


「あぁ、マリアベルの協力が得られたら、次の戦争を早めることができるかもしれません。どうせ起きる戦争ですし、好戦派だけ集めてしまえばいいんだ。マリアベル、今時間ありますか?」


「私の困りごとは、最近面白いことが無いことだから暇よ」


「それはよかった。実は、帝国と王国の融和を図ろうとしている貴族達がいるんですが、近々会談するようなんです」


帝国と王国の融和派閥の会談を破壊し、戦争に突入させる案についてマリアベルとグレゴリーに説明をした。

そうすれば、融和派の勢いは落ちるが、戦争に出てくるのは好戦派の、戦いたい人だけになるはずだ。

好戦派は嫌々参加するのではなく、自身の選択で戦う人たちなのだ。

巻き込まれる一般人が死ぬより全然いいはずだ……


そこにグレゴリーが参加して両方を攻撃すれば、民間人の被害が少ないうちに短期で戦争が終わるはずだ。


「じゃあ、私はそこに潜入して、全滅させればいいのね?」


「戦争を始める口実にならないといけないので、毒殺未遂を起こしてください。未遂ですよ、死者はゼロにしてください。そうしたら好戦派が、勝手に盛り上がって戦い始めるはずです」


「えぇ……全滅どころか1人も殺しちゃダメなの。面倒くさいわねぇ」


「そこを何とか、今度埋め合わせもしますから」


「本当に?じゃあ、言われたとおりにやってきてあげるわ。その代わり埋め合わせはしっかり頼むわよ」


「相手の国が融和派を毒殺しようとした証拠が残るようにしてくださいね。」


帝国と王国がいがみ合うような証拠を残すようにマリアベルに頼んだ。

後はグレゴリーにも頼みごとをしておかなければ。


「戦争が始まるとしたら、国境近くのこの街ですね。グレゴリーはいつも通り好きに動いてください。ですが、民間人の被害が広がる前にお願いしますね」


「わかってるよ。もし民間人が困ってたら、この街について教えとく。任せろ」


というわけで、二人の困りごとが解決する見通しがたった。


「ねぇ、コリンズ。あなたは困りごとないのかしら?」


「僕の困りごとですか……街はだいぶ大きくなってきて安定してますし……最近はリブ教の汚職司祭とかも減ってきましたから」


「街づくりに、他所の汚職した聖職者の排除ねぇ。やっぱアナタは変わってるわねぇ、そう思わないグレゴリー」


「んぁ、すまん戦争が始まるかもってんで、何の武器持っていくか考えてて、話聞いてなかった」


「だが、コリンズが変わり者だってのは昔から知ってるだろ」

それもそうね、と納得して笑いあっているマリアベルとグレゴリー。


僕、コリンズはエビル教の3人目の幹部であるが、もしこの3人で戦ったら、最弱が僕であることは間違いない。

邪神様に捧げた魂の多さでみても、一番少ないのが僕だろう。

というか、正直自分の手で誰かを殺めたことすらない。


他の幹部と違うのは、邪神様へ捧げる魂を集めることよりも、エビル教の信者を増やすことに力を注いでいることぐらいなのだが、そうやって活動していたら"変わり者"という二つ名になってしまったのだ。

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