サイコトルーパーズ競技資料
§ サイコトルーパーズ 公式競技規則書(ユース大会ルール)
まえがき
二〇三〇年代前半、携帯型EMP(電磁パルス)兵器の登場は、戦場の様相を一変させた。
レーザーに代表されるエネルギー兵器や、高度な電子照準システムは無力化され、従来の通信手段もまた、その価値を失った。
この技術的停滞と混沌のさなか、二〇三六年に起きた「大覚醒」は、人類に新たな可能性、すなわちESP能力をもたらす。
この能力の軍事的可能性にいち早く着目したのが、米国の民間軍事会社スレイプニル・コーポレーションである。
同社が考案したESP能力兵の戦闘訓練プログラムは、EST(ESP通信)による高度な部隊連携が、物理戦闘と同じく現代戦の趨勢を決する重要な要素であることを証明した。
この戦闘訓練プログラムに由来する戦術体系は、FPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム)として民生応用されると広く普及し、多くのユーザー層から支持を集めた。
ただ、その競技性を現実世界で再現するには、観戦者に目に見えないESPの応酬をどう可視化して伝えるか、という技術的かつ複合的な課題が存在した。
しかし、二〇四〇年代前半、サイオニクスの飛躍的な進歩、そしてBMI関連技術やAR技術の成熟によって、それらの課題は解決される。
サイコトルーパーズ――それは、かつてはビデオゲームの中でしか体験できなかったエキサイティングな戦闘を、最新技術によって誰もが安全に体験・観戦できる新たな競技として確立させた一大エンターテインメントだ。
本競技では、ESPによる情報領域の支配、そして旧来の火器、刀剣、格闘術を駆使した物理領域の支配、その両立が勝利の鍵となる。
プレーヤーは仲間と連携し、持てる全ての力を尽くして軍需物資「ミューニション」の確保を目指す。
なお、本規則書は将来有望な若き選手たちの育成と競技の発展を目的とし、満十五歳から満十八歳までのプレーヤーが参加する公式大会に適用されるものである。
【第一部 総則】
第一章 競技概要
第一条(競技の名称)
本競技の正式名称は「サイコトルーパーズ」とする。
第二条(競技の目的と本質)
本競技は、四名を一チームとする二つのチームが、物理的戦闘能力とESP能力を駆使し、アリーナ内に設置された軍需物資「ミューニション」を確保することを目的とする。
第三条(競技の特徴)
本競技は、以下の要素を特徴とする。
・物理戦闘:銃器、近接武器、および肉弾攻撃による戦闘。
・ESP戦闘:テレパシーを主軸とするESP能力の戦術及び戦略的行使。
第二章 用語の定義
第四条(主要用語)
本規則書で使用される主要な用語を以下の通り定義する。
【競技進行・勝敗に関する用語】
・アリーナ:競技が行われる閉鎖型の戦闘フィールド。
・ミューニション:確保対象となる軍需物資。
・確保ポイント:各チームに割り当てられた自陣エリア。ミューニションを完全に持ち込むことで確保が完了する。
・フェイスオフ:試合開始前の対峙時間。
・デプロイメント・フェイズ:試合開始後の戦術的移動時間。
・コンバット・フェイズ:本格的な戦闘が行われる時間。
・戦術ポイント:競技の勝敗を決定するために、特定の条件で加算・減算されるポイント。
・フィールドアウト:ライフポイントの完全喪失、または棄権による戦闘不能状態。
【プレーヤーと能力に関する用語】
・コマンダー:チームのリーダー。特別なボーナスが付与される。
・トルーパー:コマンダーの指揮下で作戦行動を行うプレーヤー。
・ライフポイント(LP):プレーヤーの体力や耐久度を示す数値。
・攻撃力:武器ごとに設定されたプレーヤーに対する基本的なダメージ値。
・対物攻撃力:武器ごとに設定されたミューニション等のオブジェクトに対する専用のダメージ値。
・ESPスコア:ESP信号の強度を示す値。
・ノイズスコア:ESP信号に混入するノイズの強度を示す値。
・EN比:ESPの品質を示す指標。ESPスコアとノイズスコアから算出される。
・チャネル:同時にESP回線を確立できる最大人数。
【装備とシステムに関する用語】
・ベーススーツ:全プレーヤーが装着する、ダメージ計測や生体情報モニタリング機能を持つ全身防護スーツ。
・タクティカル・ヴァンブレイス:プレーヤーの左前腕部に装着される多機能端末。「コーテックス・プロセッサー」を内蔵する。
・競技用アイウェア:AR情報を表示する、スポーツグラスタイプの専用アイウェア。
・兵装ランク: プレーヤーのESPランクに応じて決定される、借用可能な武器のランク。
・アーマリーポイント(AP): 武器の貸与を受けるためのポイント。EN比を基に算出される。
・C4ILINK: コマンダーが装備するタクティカル・ヴァンプレイスにのみ有効化される、チーム内の情報共有ネットワークを構築・維持するシステム。
・トルーパーズ・アイ ARENA: 競技を視聴するための公式アプリケーション。
第五条(ESPパラメータ)
プレーヤーに提出を求めるESPパラメータ(第十一条)の定義は以下の通り。
・ESPスコア:ESP信号の強度を示す値。単位はスコア。1スコアは感応下限値以上のテレパシーを10メートル離れた場所に送信できる信号強度である。
・ノイズスコア:ESPで発信する情報に混入する判読不能な信号強度を示す値。ESPスコアと同様、単位はスコア。
・EN比:テレパシーの品質を示す指標。この数値が高いほど高品質とされる。
(算出式)EN比 = 50 × log10(ESPスコア / ノイズスコア)
・チャネル:プレーヤーが同時にESP回線を確立できる対象者の最大人数。
・ESPランク:EN比の数値に基づきS~Eの6段階で査定されるランク。兵装ランクの決定に用いられる。
【第二部 競技環境】
第三章 アリーナ(競技フィールド)
第六条(構造)
アリーナは市街戦を想定した戦術的な環境の競技フィールドであり、複数の建造物(半壊、全壊も含む)、遮蔽物、高低差のある地形等を含む。
・面積:競技フィールドの広さは、三〇〇メートル四方を基準とする。ただし、公式大会の規定により、この規模は変更されることがある。
・センターライン:競技フィールドを二つの陣地に等しく分割するライン。
・センターサークル:競技フィールドの中央に設置された半径三・五メートルの円形のエリア。
・確保ポイント:競技フィールドの両端に設置された半径三・五メートルの半円形のエリア。
第四章 軍需物資(ミューニション)
第七条(仕様と配置)
物理的仕様:
・形状:一辺が一・二メートルの立方体
・デザイン:下部以外の各面にゼナーカードのマーク(丸、ギリシャ十字、波、四角、星)が描かれている。
・重量:十二キログラム。
・特徴:各面に運搬用のハンドルを備え、一人ないしは複数人での運搬が可能。
配置:
・競技開始時:五つのミューニションがセンターライン上に等間隔で配置される。
・アクティベーション:デプロイメント・フェイズ(※後述)の終了後、五つのミューニションのうち、ランダムな二つがアクティベートされ、確保目標として決定される。
第八条(ミューニションの破壊)
ミューニションは非常に頑丈であり、銃弾を防ぐ移動可能な遮蔽物として利用できる。しかし、アクティベートされたミューニションについては、武器の「対物攻撃力」による累積ダメージが三百二十ポイントを越えると破壊され消失する。破壊される際は爆発を伴い、半径二・五メートル以内の全プレーヤー(敵味方問わず)に物理的ダメージが及ぶ。なお、爆発による被ダメージの算出は、下記の式によって行われる。
・算出式:被ダメージ=三〇〇 ×(一 - 距離 / ニ・五)の二乗
・上記式における距離の単位は「メートル」。
なお、アクティベートされなかったミューニションは通常のオブジェクトとして扱われ、破壊されても爆発することはない。
第九条(ペナルティ)
ミューニションを破壊したプレーヤーのいるチームには、ペナルティとして、戦術ポイントが二ポイント減算される。なお、「ミューニションを破壊したプレーヤー」とは、与えた累積ダメージの多寡に関わらず、最後にミューニションを攻撃して破壊したプレーヤーを指す。
【第三部 プレーヤーと装備】
第五章 チーム
第十条(チーム構成)
一チームは四名のプレーヤーで構成される。
チーム構成の内訳は以下の通りとする。
○コマンダー × 一名:チームのリーダー。下記項目にボーナスが付与される。
・攻撃力:すべての武器や体術による攻撃力が十五パーセント上昇。
・ライフポイント:五〇ポイントがプラスされる。
・アーマリーポイント:一〇ポイントがプラスされる。
・C4Iリンク:自身のタクティカル・ヴァンブレイスをホストとし、チーム全員の情報共有ネットワークを構築・維持する権限。詳細は第五部に定める。
○トルーパー × 三名:コマンダーの指揮下で戦闘行動を行う。
第十一条(プレーヤーの義務とESPパラメータ)
すべてのプレーヤーは、競技に参加する際、個人のスマートフォンに記録されたESPパラメータの提出義務を負う。
ユース選手の場合、試合の直近の日に所属する教育機関で行われた定期的なESP能力測定で得られたデータを提出すること。
なお、提出するデータは次の項目をすべて満たすこと。
・氏名(よみがな)、生年月日、性別、検査日、検査担当者名、ESPスコア、ノイズスコア、チャネル数(省略可)、EN比、ESPランク。
第六章 装備規定
第十二条(防具とアイウェア)
全てのプレーヤーは下記の防具及びアイウェアを着用・装備する。
・ベーススーツ:全プレーヤーが装着する全身防護スーツ。プレーヤーの身体を守るとともに、被弾、斬撃、打撃等、すべての物理的衝撃によるダメージを計測し、プレーヤーのライフポイント(※後述)に反映させる。また、スーツ各部に選手の生体情報と感覚情報をモニタリングするセンサーが搭載されている。
・タクティカル・ヴァンブレイス:ベーススーツの左前腕部に装着される多機能端末。スーツの頭脳である「コーテックス・プロセッサー」を内蔵し、競技用アイウェアと協働して各種情報をプレーヤーに提供する。また、スーツ各部のセンサーから送られてくる情報をもとに敵の索敵を行い、後述のC4Iリンクにおける情報共有ネットワークの基点となる。さらに、プレーヤーの視覚・聴覚情報を基に、観客向けの「プレーヤー視点映像」をリアルタイムで生成し、公式アプリケーション「トルーパーズ・アイ ARENA」のサーバーへ送信する役割も持つ。
・コスチューム(ARコスチューム):観戦者およびプレーヤー間の視認性及び競技のエンターテイメント性向上のため、AR技術によって、ベーススーツ上にはチームあるいは選手固有にデザインされたコスチュームが投影される。
・競技用アイウェア:スポーツグラスタイプの専用アイウェア。ベーススーツのフェイスシールドと協働してプレーヤーの顔面を防護するとともに、タクティカル・ヴァンブレイスに内蔵されたコーテックス・プロセッサーとリンクしてAR情報を表示する。
第十三条(ライフポイント)
すべてのプレーヤーには、固有のライフポイント(以下、LP)が設定される。
・算出式:LP=一二〇+プレーヤーのESPスコア / 七五〇
・ただし、LPの上限は三二〇。
LPがなくなると、そのプレーヤーは戦闘不能扱いとなり、以後の競技の参加権利を失う(=フィールドアウト※後述)。
第十四条(生体情報と感覚情報)
全てのプレーヤーは、競技中、ベーススーツに搭載された生体情報センサーによって、心電図・心拍数・血圧・血中酸素飽和度・呼吸数・体温等のバイタルサインをモニタリングされる。また、同時に、視覚、聴覚及び体表・体内感覚(痛覚)もモニタリングされており、それらの情報はエンターテイメント性向上のため、選手ごとに一元化された情報として観客にリアルタイムで提供される。
第十五条(兵装の基本概念と安全性)
・銃器:高度な電子兵器とそれを無力化するECM(電子対抗手段)が発達した現代戦を鑑み、本競技では信頼性の高い従来型の物理的兵装を使用する。また、すべての銃器は人体に深刻なダメージを与えることのない競技用特殊ダミー弾が使用されており、被弾によるダメージの測定はベーススーツのセンサーがこれを行う。
・刀剣類:実在する刀剣を基に、設計された専用の武具を使用する。ブレードや打撃面等の部分は特殊な素材が使用されており、斬撃、打撃、その他接触によるダメージの測定はベーススーツのセンサーがこれを行う。
第十六条(武器及び特殊装備の選択)
プレーヤーは、自身の「兵装ランク」(※後述)に応じてアクセスを許可された武器カタログの中から自身の戦闘スタイルに合わせた装備を選択し、貸与を受けて使用する。装備の貸与を受ける際は、個々の装備に設定された「アーマリーポイント」(※後述)がコストとして消費される。
第十七条(兵装ランク)
すべてのプレーヤーは、それぞれ兵装ランクを与えられる。兵装ランクはS, A, B, C, D, Eの六段階に設定されており、それらは選手個人のESPランクに準じている。
プレーヤーは、自身の兵装ランクに対応する武器カタログ及びそれ以下の兵装ランクの全ての武器カタログの中から、自身に付与されたアーマリーポイント(※後述)の範囲内で希望する武器及び弾薬などの消耗品の貸与(複数可)を受けることができる。
*使用可能な武器の詳細は「付録:公式アーマリーリスト」に記載する。
第十八条(アーマリーポイント)
すべてのプレーヤーは、装備の貸与を受けるために必要なアーマリーポイント(以下、AP)を付与される。APの算出は、下記の式によって行われる。
・算出式:AP=プレーヤーのEN比 × 一・三五。
第十九条(武器性能補正)
プレーヤーのESPパラメータのうち次の二つの項目により、選択した武器の性能に以下の補正が付与される。
○ESPスコア:スコアが高いほど、武器の攻撃力にプラス補正がかかる。
・算出式:プラス補正値=SQRT(ESPスコア / 百八十)
○ノイズスコア:ノイズスコアが高いほど、命中率(銃器)やクリティカル率(刀剣類)にマイナス補正がかかる。
・算出式:マイナス補正値=SQRT(ノイズスコア / 四十五)
第二十条(物理攻撃とダメージ)
全ての物理的ダメージは、ベーススーツのダメージセンサーによって計測され、プレーヤーのLPに反映される。
第二十一条(メディキット)
すべてのプレーヤーはメディキットによるLPの補充を受けることができる。メディキットは使い捨ての装備で、治療対象となる選手(自分または他プレーヤー)のタクティカル・ヴァンブレイスのチャージポートに当てることにより、一セットにつき、毎秒二ポイント、最大三〇ポイントのLPを回復させることができる。
なお、メディキットは兵装ランクDの武器カタログに記載されており、APコストは八ポイントである。
第二十二条(装備の譲渡および一時的使用に関する規定)
第一項(装備譲渡の原則的禁止)
各プレーヤーに貸与された武器および装備は、当該プレーヤーのアーマリーポイント(AP)に基づいて割り当てられた個人資産と見なされる。したがって、他プレーヤーへの恒久的な譲渡、交換、および貸与は、原則として固くこれを禁ずる。
第二項(戦闘中における一時的な使用の許容と性能)
前項の規定にかかわらず、一連の継続した戦闘状況下において、味方および敵プレーヤーの状態に関わらず、他プレーヤーから貸与、拾得、または奪取した武器をプレーヤーが当該戦闘の終了まで一時的に使用することは例外的に許可される。
ただし、本項の手段により入手した武器には、プレーヤーのESP能力による攻撃力、命中率等の性能補正は適用されず、当該武器固有の基本パラメータで作動するものとする。
第三項(メディキットの譲渡および使用に関する特則)
チームの戦術的運用を考慮し、医療品である「メディキット」に限り、以下の特則を設ける。
・譲渡上限:プレーヤーが他プレーヤーに譲渡できるメディキットは、一試合につき二セットを上限とする。
・使用制限:自分が本来所持していたメディキット、および他プレイヤーから譲渡、拾得あるいは敵から奪取したメディキットは、すべて、それを所持しているプレイヤーが使用用途の決定権を有する。自身および他プレイヤーに使用する行為については、一切の制限を設けない。
【第四部 ESP能力】
第七章 ESP能力の基本原則
第二十三条(ESP能力)
プレーヤーは、第二十四条で禁止されたものを除き、自身が習得しているあらゆるESP能力を使用できる。
第二十四条(禁止ESP能力)
相手プレーヤーの精神や人格に恒久的、あるいは深刻なダメージを与える危険性のあるESP(第二十五条に規定)は使用を固く禁じる。これに違反した場合は、第三十一条の罰則を適用する。
第二十五条(禁止能力リスト)
第二十四条に該当するESP能力は次の通りである。
・領域侵入(トレスパス):対象のソーシャル器官に直接アクセスする能力。
・自滅誘導(セルフ・デストラクション):対象を自傷行為や自死に誘導する。
・記憶操作(メモリー・マニピュレーション):間違った記憶を植え付けたり、特定の記憶を一時的に思い出せなくする。
・記憶消去(メモリー・イレース):対象の特定の記憶を完全に消去する。
・記憶置換(メモリー・リプレイスメント):対象の記憶を別の記憶に置換する。
・道徳崩壊(モラル・シフター):対象の道徳観念や倫理観を歪める。
・人格破砕(パーソナリティ・ブレイク):対象の精神構造を破壊し、正常な人格や思考を維持できなくさせる。
・その他、審判が危険と判断した新種のESP、あるいはユニークESP。
【第五部 C4Iリンク】
第八章 C4Iリンクと索敵
第二十六条(C4Iリンクの定義)
C4Iリンクとは、チームのコマンダーが装備するタクティカル・ヴァンプレイスに設定された機能の総称である。自身のタクティカル・ヴァンブレイスをホストとして、指揮下にある全トルーパーのタクティカル・ヴァンブレイスと協働し、リアルタイムの情報共有ネットワークを構築する。
第二十七条(情報共有)
前条で定義されたC4Iリンクが有効である限り、以下の情報がチーム全員の競技用アイウェアに表示される。
一.チーム全員が探知している敵プレーヤーの位置情報を統合した戦術マップ。
二.味方プレーヤーの正確な位置、ライフポイント(LP)、およびステータス。
第二十八条(索敵の基本原則)
本競技における索敵は、各プレーヤーが装着するベーススーツのセンサー群及びタクティカル・ヴァンブレイスに搭載された統合索敵システムによって自動的に行われる。本システムは、主に敵プレーヤーが発する微弱なパッシブESPを探知することで機能するが、その探知精度は、対象が発する音響情報(敵が立てる物音や足音、呼吸音、心音等)に大きく依存する。したがって、隠密行動に長けたプレーヤーは、至近距離まで接近されるまで探知が困難となる場合がある。
第二十九条(リンク消失)
チームのコマンダーがフィールドアウト(後述)した場合、C4Iリンクは即座にその機能を停止し、第二十七条で定められた情報共有は全て失われる。リンク消失後、各トルーパーは自身のセンサーが探知した敵プレーヤーの情報のみを個別に把握できる状態となり、味方の位置やステータスを知ることはできなくなる。
第三十条(リンクの再設定)
第一項(再設定の開始)
前条の規定によりリンクが消失した場合は、生存しているトルーパーの中から一名が新たなコマンダーとして選出され、C4Iリンクの再設定が開始される。
第二項(選出の方法)
新コマンダーは生存している全プレーヤーのタクティカル・ヴァンブレイスの協働により、リンク喪失時点の戦況から最も生存確率が高いと判断されたプレーヤー一名が次期コマンダーとして選出される。
第三項(所要時間)
新コマンダーの選出後、リンクの再設定が完了するまでには百八十秒の時間を要する。この間、チームはリンクが消失した状態(第二十九条に定める状態)のまま、戦闘を継続しなければならない。
第四項(新コマンダーの扱い)
本条の規定により選出された新コマンダーには、第十条に定めるコマンダーボーナス(攻撃力、ライフポイント、アーマリーポイント)は一切適用されない。また、敵チームが新コマンダーをフィールドアウトさせた場合に得られる戦術ポイントは、第三十四条の規定に関わらずトルーパーと同様の一ポイントとする。
【第六部 試合の進行】
第九章 試合形式と進行
第三十一条(試合時間)
一試合の総競技時間は、デプロイメント・フェイズ(※後述)とコンバット・フェイズ(※後述)を合わせて二十五分間とする。
第三十二条(試合の流れ)
試合は以下のフェイズで進行する。
・フェイスオフ(五分間):
試合開始前、両チームはセンターサークル内で対峙する。
観客へのアピール、対戦相手への心理戦や挑発が許可される時間。
・デプロイメント・フェイズ(九十秒間):
試合開始の合図とともに始まる戦術的移動時間。プレーヤーは任意の位置へ移動できるが、いずれのミューニションとも常に五メートル以上の距離を保たなければならない。また、敵プレーヤー及びミューニションへの物理的攻撃及びESP能力の使用はできない。なお、チーム内における意思の疎通その他に要するESPの使用はこの限りではない。
・コンバット・フェイズ(二十三分三十秒間):デプロイメント・フェイズの終了と同時に二つのミューニションが起動する。ここから、全ての作戦行動及び敵プレーヤーへのすべての攻撃が解禁され、本格的な戦闘が開始される。
第十章 得点と勝利条件
第三十三条(勝利条件)
本競技の勝利条件は、「サドンデス勝利」と「ポイント勝利」の二種類とする。
○サドンデス勝利:試合時間中、以下のいずれかの条件を満たしたチームは、その時点で勝利となる。
・敵チームの全滅:相手チームの全プレーヤーをフィールドアウトさせる。
・作戦目標の達成:アクティベートされた二つのミューニションを両方とも自陣の確保ポイントに持ち帰る。
○ポイント勝利:試合時間終了時点でサドンデス勝利が満たされない場合、累計した「戦術ポイント」の多寡によって勝敗を決定する。
○同点の場合は引き分けとする。なお、トーナメント戦の場合は、代表者同士によるデュエルにて勝敗を決める。
第三十四条(戦術ポイント)
戦術ポイントは、以下の行動によって加算または減算される。
・ミューニションの確保:三 ポイント
・敵コマンダーのフィールドアウト:二 ポイント
・敵トルーパーのフィールドアウト:一 ポイント
・ミューニションの破壊:マイナス 二 ポイント(自チームへのペナルティ)
・反則によるペナルティ:マイナス 一 ポイント(自チームへのペナルティ)
第十一章 フィールドアウト(戦闘離脱)
第三十五条(フィールドアウトの条件)
プレーヤーは以下の条件で「フィールドアウト」となる。
・LP喪失によるフィールドアウト:敵からの攻撃によりLPが0以下になった場合。
・棄権によるフィールドアウト:LPが残存している状態でも、プレーヤーは負傷やその他の理由で、審判に棄権を申し出ることができる。
第十ニ章 反則と罰則
第三十六条(重大な反則)
第二十四条で定められた「禁止ESP」の使用が発覚した場合、使用したプレーヤー及びチームは以下の罰則を受ける。
・即時フィールドアウト:当該プレーヤーは即座にフィールドアウトとなる。
・ポイントペナルティ:チームの総戦術ポイントから一ポイントを減算する。
第三十七条(デプロイメント・フェイズにおける反則)
第三十二条にあるデプロイメント・フェイズ中に、ミューニションとの間に定められた距離制限を守らず、かつ、審判の警告に従わないプレーヤーは、失格とし、コンバット・フェイズへの移行と同時にフィールドアウトとなる。
2.前項の規定による失格によるフィールドアウトは、両チームとも戦術ポイントの増減は伴わないものとする。
第三十八条(審判の権限)
本規則書に明記されていない事態が発生した場合、その裁定はすべて当日の競技審判団の判断に委ねられる。
【第七部 観戦スタイル】
第十三章 観戦の基本概念
第三十九条(観戦の本質)
本競技は、アリーナ内での直接観戦を前提とせず、公式アプリケーション「トルーパーズ・アイ ARENA」(後述)を介した観戦を基本とする。これは、広大なアリーナ全体を俯瞰し、かつ、目に見えないESPの応酬を完全に可視化することで、本競技の戦術的深みを余すことなく伝えるための設計である。
第四十条(観戦形態)
観戦者は、以下のいずれかの形態で競技を視聴する。
・パブリックビューイング:アリーナまたは各所に設置された大型スクリーンにて、公式放送を視聴する。
・パーソナルデバイス:スマートフォン、タブレット等の個人用端末にインストールされた公式アプリケーション「トルーパーズ・アイ ARENA」(後述)を介して視聴する。
第十四章 公式アプリケーション「トルーパーズ・アイ ARENA」
第四十一条(機能概要)
公式アプリケーション「トルーパーズ・アイ ARENA」は、観戦者にこれまでにない没入体験を提供するため、以下の主要機能を搭載する。
一.マルチストリーム映像配信
・ドローンカメラ映像:アリーナ上空を飛行する複数の自律型ドローンが撮影した、フィールド全体を俯瞰する高解像度映像。
・プレーヤー視点映像:全プレーヤーのベーススーツから送信される、一人称視点の感覚情報(視覚・聴覚)をリアルタイムで映像化したもの。また、視点映像画面には、そのプレーヤーの名前、所属チーム、LPゲージ、バイタルサイン、ステータス(正常 / 各種状態異常)などが表示される。また、ダメージを受けたときは視界映像が赤く点滅する。
二.AR(拡張現実)エフェクト表示
すべてのドローンカメラ映像には、以下の情報がARエフェクトとしてリアルタイムで付加される。
・ESPエフェクト:テレパシーなどESPによる通信接続を示すライン、攻撃的ESPにおける情報構築と対象への軌跡、および着信時のインパクトなど、行使されたESP能力に応じた固有の視覚エフェクト。
・バレットライン:銃火器による照準線及び弾道線を示すライン。
・プレーヤー情報:各プレーヤーのARコスチューム上に、名前、所属チーム、LPゲージ、ステータス(正常 / 各種状態異常)が表示される。
三.インタラクティブ機能
・自由視点切り替え:視聴者は、自身の端末でドローンカメラと全プレーヤーの視点映像を、任意のタイミングで自由に切り替えることができる。
・リアルタイムチャット:各視点映像の画面上にはチャットウィンドウが表示され、他の視聴者とリアルタイムで感想や情報を交換することができる。
第四十二条(アプリケーションの利用規約)
公式アプリケーション「トルーパーズ・アイ ARENA」の利用者は、配信される映像の不正な録画、改変、および無許可の二次利用を禁じられる。また、公式が提供する機能以外の方法で視聴データを解析、あるいは改変することは、サーバーへの不正アクセス行為として、厳しく罰せられる。
【第八部 附則その他】
第四十三条(施行期日)
本規則は、二〇四四年四月一日から施行する。
第四十四条(適用範囲)
本規則は、別に定めがある場合を除き、満十五歳以上満十八歳以下の選手が参加する公式大会(以下「ユース大会」という。)に適用する 。
第四十五条(特例措置)
ユース大会の年齢規定に満たない選手が参加する、あるいは競技の振興・発展等を目的として特別に開催される公式試合(エキシビション・マッチ等)においては、大会運営委員会が別途定める特例規則が、本規則の一部に優先して適用される場合がある。
第四十六条(規則の改定)
本規則は、競技の公平性、安全性の確保、および健全な発展のため、競技統括団体の判断により、予告なく改定されることがある。
第四十七条(付録について)
本規則書には、付録として「サイコトルーパーズ U-18戦術教本」および「サイコトルーパーズ 公式アーマリーリスト」を添付する。これらの付録は、本規則と一体のものを構成するものとする。
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