写真の中の島
写真は、言葉よりも雄弁だった。
杉本は、現像したばかりの写真を光にかざしていた。 田所が送ってきた数枚のうち、特に気になる一枚があった。
それは、田所が笑顔で立っている写真。 背景には、見覚えのない島の風景が広がっていた。
「……この島、どこだ?」
写真には、特徴的な地形が写っていた。 入り江の奥に、三本の椰子の木が並び、その背後には低い丘。 海岸線には、小さな木造の小屋が点在している。
杉本は、日誌をめくりながら、これまで記録してきた地図や航路を照らし合わせた。 だが、該当する島は見つからなかった。
「リリナ、これ……見覚えありますか?」
彼は、写真を手にリリナのもとへ向かった。 彼女は、避難所の片隅で子どもたちに水を配っていた。
「この島……?」
リリナは、写真をじっと見つめた。 やがて、ゆっくりと頷いた。
「たぶん……それ、ウルル島かもしれない。 昔、兄と一度だけ行ったことがある。 この三本の木、見覚えがある」
「ウルル島……?」
「ここから南東に、舟で半日くらいの距離。 でも、今は航路が封鎖されてて、行くのは難しいと思う」
杉本は、写真を見つめた。 田所の笑顔。 その背後に広がる、静かな風景。 そこに、彼はいる。
「……行きたい」
「え?」
「僕は、彼に会いたい。 記録を受け取りたい。 そして、ありがとうって言いたいんです。 彼がいなければ、僕の記録はここで終わっていた」
リリナは、しばらく黙っていた。 やがて、そっと言った。
「わたしも、行きたい。 田所さんに、ちゃんとお礼が言いたい。 それに……この島を出るのが、怖くなくなったの。 あなたがいるから」
杉本は、彼女の目を見た。 そこには、確かな意志があった。
「……ありがとう。 一緒に行きましょう。 記録を、届けに」
その日、杉本は日誌にこう記した。
「2月21日、午後。 田所一等兵曹の写真より、島の特定を試みる。 候補:ウルル島。位置:南東、約半日航行距離。 記録者、現地確認の意志を固める。 同行者:リリナ。 記録は、再び動き出す」
夜、杉本は塔跡に立ち、星を見上げた。 風は穏やかで、潮の香りが遠くから届いていた。
(待っていてください、田所さん。 今度は、僕が記録を受け取りに行きます)
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