第24話 夜に輝く宝石

第24話 夜に輝く宝石

(Jewel of Midnight)


 「どうやらここは、……すごく古い遺跡みたいだね……。」


 「『 龍の谷ウァリス・ドラコニス 』っていうのよ。えへへ。私、物知りでしょ?すごい?びっくりした?」


 とすぐマウントを取って誇らし気にする、自分よりも若い彼女の意見に彼はもちろん賛同した。


 「アルテイシア……一体君は……どこまで先の未来の出来事を……知っているんだい?」



 「……今はもう、わすれちゃった。だけど、……

あなたとノエマが元気なのは確かだから。」



 「あんまりそーやって心配ばっかりしてると、あなたの可愛いそのくるくるヘアーもすぐハゲちゃうんだから。」


 「……っ?!……たく。はは。君はちっとも変わらないなあ。」



 「そうよ。私はずっと変わらない。それに……あなたは、笑った顔が一番素敵なんだから!」



 ちゅっ


 ふいに彼女が背伸びをして僕の頬にキスをした。

それはまるで、宇宙に新しい星が生まれた瞬間のように。僕の中でその星が強く、明るく輝いたように感じた。


 「……永遠にその顔になるように、またあとで設定し直さなきゃね。」


 「……っ?!」


 「あはは。なんか、ぜんぶ夢みたい!ヘンなの!」



 ガラガラガラ……!!グシャアッ!!!


 突然、遺跡の一部が崩れてきた。


 「……!! あなた、まずいわ。……追手がすぐそこまで来てる。」


 「ノエマをお願い!あと、これを持っていって……[この先にある場所で光のなかに入って ]!!」



 「居たぞ!!!!!!」


 「アルテイシア=ノエシス・リュクシエルだな。大人しく我々に捕らえられれば、貴様はフィデリスで安らかに死ねるだろう。」


 ノエマを抱き抱えたプルーデンスが振り返るとそこにはーー


 『 宇宙秘密警察ベルムサクルム 』の一味が、彼女の前に立ちはだかっていた。


 「・・・・・・・・・」


 「ヘッ!超楽勝だったじゃん。つまんね。」


 「クソが!また賭けに負けた………こんな小娘が『 龍の心臓 』と『 原初の記憶 』をパクったヤツだったなんてな。拍子抜けもいいところだぜ。」


 彼らの目には光がなかった。そして、重たくドス黒いまがまがしい空気を放っていた。まるで彼らは、僕たちとは決定的に違う『 全く別の存在 』であるかのように。


 「アルテイシア!!!!!!」


 「あなた!!!!!!!!!」


「行って!!!……お願いだから……」


 ベルムサクルムの一人が低く呟く。


 「・・・話は、済んだか?」



 『 じゃあね。あなた。』


 『 それに、私の大好きなノエマ。』


 『 三人で過ごせた日を、私はいつも忘れないから。二人とも、これからもいっっっぱい幸せになってね。』


 『 ずっとずっとずっとずっと。笑っていて。

 もっともっともっともっと。先になるけど。

きっときっときっときっと。変わらないよね?』



 『 それでもまた、

この世界できっと見つけてね。』


 『あなたーー

ドジで、のんびりしててちっとも先生らしくない。私の可愛いプルーデンス。


 ノエマをお願いね。


 こんなダメなお母さんだけど

『 覚えていてね?ノエマ。』愛してるよ。


 宇宙がひっくり返っちゃうぐらい

大大大だーーーい好きだよ。


 お父さんポンコツなんだから、いう時は言わなきゃダメよ?あと、どうかよろしく伝えてね。』


 『私…………


     二人と出逢えて、本当に

     良かったよーー

 

 「またね。二人とも。」


 アルテイシアの頬をひとすじの星が流れた。それは彼女にしか聞こえないほど小さな小さな、彼女自身の最後の望みだった。


 「・・・・・・・・・・・・・」


 「はいはいはいはい。終了〜BADENDでした〜!クソみてーな結末だったな。シラけるぜマジで。」


 「終わり。だな。」


  バガアアアアン!!!!!!!!!!!!!


 『 激しい爆砕音と青白い閃光が爆発して遺跡の天井と壁が崩落した。その時、僕の心は粉々に砕け散って 』


 そしてその光景を目の当たりにした

プルーデンスをーー


 「あ……アルテイシア?……」


 「君……言ったじゃないか」


 「そうだよ……やくっ……約束……したんだ。絶対失敗なん、て……ひくっ……しなっ……いし……大丈夫……だから、私に全部……まかせとけって」


 「……こんなの……いくらなんでも冗談が酷すぎるよ。もう、……笑えない……よ。……あんまりじゃないか。」


 「……そうだ……いつもそうだ!!君は……ワガママで、意地っ張りで……子どもみたいにすぐマウントを取りたがって……そのくせ僕がなにかに夢中になれば拗ねたり…して」


 「……もうウンザリ……していたんだ………す………て………すべてすべて全て全てすべて全て全てえぇぇ!!!!!」


     「僕がぶち壊してやる。」


 すると真っ黒な何かがすうっと体のなかに入って来た。心が闇色に染まる。ゾッとするほど冷たいそれは、僕の身体や頭の中をすぐに支配した。そして僕を


 ーー壊した。


 「………があぅぁああ ああぁ あぁあああ!!!!!!!!!!!!!」


 プルーデンスの白い両目は血走って、口の端からは黒い血の泡がぶくぶくと流れ出ている。黒い血が地面に落ち、丸い跡を残していた。


 ガガガガク……ガクガクガタガタガタガタ……


 そして彼は、近くに落ちていた瓦礫の破片を手に取ると、思い切り自分の喉を掻き切った。


 何度も何度も。何度も何度も何度も何度も。だけど彼は死ぬどころか、首には傷ひとつ残っていなかった。


 「はは……あはははは……たはははははははははははあはあはあはあ……はあはあ……げふっ!!げええぇ……うええぇぇおあえぇ……げえぇぇぇ……」


 その時、左手に抱いていたノエマのかけた言葉が、プルーデンスの心を明るく照らすように強く光るのを感じた。


 そしてその小さな希望の光が、

常軌を逸した父の行動をーー


 止めた。


 「おとうさん?……あっちで

……だれかよんでるよ。」


 『すると僕の身体から『 闇色の影のような何か 』が、スッと消えてなくなったんだ。』


 「あえ?ノ……エマ……」


 「ノエマ?……ノエマ。お父さ……んっ……ご……ごめっ……ごめんっ!!!」


 「おとうさん、だいじょうぶだよ。

ノエマがっ……いるよ?」


「だっ……からっ……なかないで、わらって?」


 プルーデンスは父であることも何もかもを全て放り捨てた。


 まだ幼いのにこんなにも気丈に振る舞い、そして強く地面に立ち、そう父に言ってみせた娘の前で崩れ落ちて。


 プルーデンスは嗚咽をもらしながら、子どもの頃に戻ったみたいにその後ずっと声が枯れるまで、娘の前で泣き続けた。


 ノエマもだんだん体が震え出すのを止められなくなって、父と地面に座り込んでただ強く強く二人で抱き合った。


 そして二人の涙は、遙か遠い銀河を渡って。


知らない星の夜に浮かんで、宝石のようにキラキラと強く輝き、やがてだれかの祈りを一つだけ叶えたように、流れ落ちていった。


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