第17話 光の速さで

第17話 光の速さで

(At Burst Light speed)


 一体なにが何だかわけが分からなかった。


 『 100万年後 』という想像もつかないような時間も、このペンダントのことも。何一つ。


 彼が『 わたしのお母さん 』だと言った『 アルテイシア 』という人の名前も、ぜんぶ。


 ノエマの戸惑う心を代弁するかのように、

アルテナが言葉を紡ぐ。



 「プルーデンスさんさ、さっきから話がすごすぎて良く分かんねーよ。」


 「もうちょっとゆっくりさー、話してくれたら

……ノエマも多分、分かんじゃないか?」


 プルーデンスは、そこでハッと何かに気付いたように



 「そう……か。……君たちにはあまりにも飛躍し過ぎた話に聞こえてしまったようだね。でも全部

『 本当のこと 』なんだよ。」


 眉間にシワをよせ納得のいかない表情で腕を組む少年と、浮かない顔で考え込む少女。 


 その二人を視界に入れ、やっと彼は思い出した。



 「そう言えば!君たちがここまでノエマを無事に連れて来てくれたんだったね。……えと、名前は、……失礼……なんて言ったかな?」



 「もー良く分かんないことだらけで、脳みそ爆発しそうなんだけど……おれは、アルテナ!そしてこいつが…」


 「フィー!」


 「フィリムっていうの。わたしが付けた名前。」


 「……!そう……か。二人とも、娘のことを、どうかよろしく頼むね。」


 プルーデンスはその時、少年とその生物を一度見て『 何か 』を思い出したような気がした。



 だが、彼はあえてそれについては語ろうとは思わなかった。


 「アルテナとフィリム。それにノエマも。ここを見つけるの、とても苦労しただろう?」


「とにかくみんな無事でいてくれて、本当に嬉しいよ。そして会いに来てくれてありがとう。」


 「へっ!おれはいいよっ。べつに。」


 「フィー!」


 「………。」



 ノエマがプルーデンスに尋ねる。


 「プルーデンス……」


 「ん?ノエマ、なんだい?」


 「わたしたちのきおくは……

ぜんぶ、ここにあるの?」


 「すまない、ノエマ。……記憶は在る。たしかにね。だけど……全部じゃないんだ。」


 彼は残念だという風に首を横に振って、ノエマにこう聞いた。



 「ノエマ……今の君には本当に、その……

『 記憶 』を受け入れる覚悟はあるのかい?」


 彼のその言葉のひびきは胸に突き刺さるように静かで。そして、ノエマにとってそれはあまりにも残酷だった。


 アルテナはノエマの横顔を見つめる。

ノエマはずっと葛藤していた。


 記憶、痛み、喪失感。

自分は一体何者で、この世界はなんなのか。


 最初の龍、原初の記憶、観測者。

それらが意味する物が、ノエマにはちっとも

分からない。


 そしてまたーー


 ビキッ


 と、頭が痛みだして。


 ノエマは頭を抑えながら

 その場にしゃがみ込んだ。


 片手で頭を抱えながら、

 それでもノエマはゆっくりと

 もう一度立ち上がった。



 「……うん。あるよプルーデンス。」


「わたしは、だいじょうぶ。だって……

みんながいるから。」



 「そうか……それなら。」


 プルーデンスはノエマの覚悟を受け取ると、

話を再開させた。


 「僕は君の父親として、ただ優しくありたかったわけじゃない。『 本当のやさしさ 』とは、時に厳しいものなんだ。」


 「……『 真実 』に目を背けて、時には沈黙を選ばなければならないことも沢山ある。」


 「だけどね、ノエマ。君には、まだまだたくさんやるべきことがあるんだ。」


 プルーデンスの声は真剣だった。



 「きっとこの先で君は、自分がこれから進むべき未来を見る。その目的みちしるべとなる物も、必ず見つけられる。」


 そう言ってプルーデンスはゆっくりと頷いた。


 「ノエマ。それじゃあ、これを付けて。君のペンダントにそっと触れてみてごらん。」


 と、プルーデンスがノエマに渡したのは、少女の髪と同じ色の『 プラチナの指輪 』だった。


 プルーデンスが言う。


 「その指輪は『 特殊な素材 』で出来ていてね。持ち主によってその模様や、輝きが変わるんだ。」


「君のお母さん……アルテイシアが普段からいつも身に付けていたものさ。」


「……彼女から頼まれていたんだ。ノエマに会った時、渡すようにって。」


 ノエマは、その大きな指輪を右手の薬指に通すと、『 光学模様のリング 』が少女の指の形に、形状を合わせてぴったりハマった。


 プルーデンスに言われたとおり、指輪をしてペンダントに触れるとーーー


 指先から光の環が出現して、ノエマの瞳に直接その光景が映ったーー


*・〜:・•・・+♦︎。°。°*.。°。°。♢+•・.


 「ノエマったら、もおー!」


「ぽろぽろパンこぼしてー!ほら、もう。また……ほっぺにくっついてる。」


「あなたも、なんとかいってよー!プルーデンス!聞いてる?」


 「……んん。ノエマ、だめじゃないかあ。お母さんがまたおこってるぞ〜。」


 「プルーデンス……ちょっと来て。」


 と、その白銀色の髪をしたきれいな女の人が、今よりもずっと若い姿だったプルーデンスの耳をひっぱって、どこかへつれていく。」


 「……!?いだたたたたっ……!!」


「アルテイシア、乱暴だなあっ。わかったよ、僕がノエマにちゃんと話すから。君はもう休んでて良いから。ね?ほら。」


 「おぼえていてね、ノエマ。………ちゃんと。」


 あれ、この言葉……


 「忘れちゃダメなんだからねー?

お母さんとの約束よー?」


 どこかで………


 「ってノエマ、誰と話してるの?ちゃんとお話聞いてる?そーゆーとこはほんっと、お父さんにそっくりなんだから。」


 「いま、おかーさんみたいなひとが

おそらでわらってたの!」


 え?……わたし、なに言ってるんだろう……


 「パンは、歩いてたべてはいーけーまーせんっ!ほら、お父さんみたいにちゃんとテーブルに座って……って……プル〜デンス〜!!」


 「ん?」


 プルーデンスーー


 お父さんも、わたしと同じようにパンくずを床に落としながら歩いて。その後、二人でお母さんにいっぱいしかられた。


*・〜:・•・・+♦︎。°。°*.。°。°。♢+•・.


 しだいに光の環が少女の瞳から消え、

石造りの部屋がにじんで見える。


 「お父……さんっ……!!」


 「ずっと……ずっとずっとずっと……」


 「会いたかったんだからあ………」


 ノエマは瞳に涙をいっぱいにためて、父プルーデンスの胸に飛び込んでいった。


 父はそんな娘をしっかりと受けとめて、目にシワをよせながら娘の髪をやさしく撫で続けた。


 何度も何度も。

 そう、頼まれなくたって、何回でも。



 『お父さんの手は、女の人みたいにほそくて。でもとってもあったかくて。それで、すっごくなつかしいにおいがした。』


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 「立ち話もなんだから……ちょっとこっちへ。

ほら、みんなついておいで。」


 プルーデンスはそう言うと部屋の奥へと進んで行く。そして突き当たりまで着くと『 苔だらけの岩の壁 』に行き当たった。


 彼はそのまま『 岩の壁 』に手を当てると、ホログラムの文字入力画面が浮かび、彼はその指でパスコードを入力した。するとーー



     ガ……ゴゴゴゴゴゴ……


 と、大きな音を立てながら岩の壁がゆっくりと奥へと引っ込んでいき、人が通れそうな道が目の前に現れる。


 「ここはね、大昔の……それも

『 超古代文明の遺跡 』なんだ。」


「この場所の名を、昔の人は

龍の谷ウァリス・ドラコニス』と

そう呼んでいたらしい。」


 プルーデンスが導く先には、果たして何が待っているというのか。


 「いこう……アルテナ、フィリム。」


 ノエマは、父と少年らと共に『 龍の谷 』の入り口へと歩みを進めた。


ーーそして、遺跡の最奥ではさらなる『 真実 』が、少女たちを待ち構えていたのであった。


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