第18話 龍の谷
第18話
(Vallis Draconis)
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ぽたっ。………………
ぽたっ。………
ぴちゃっ。
「……ッ!!ぎゃあっ!!!」
天井の岩から染み出して落ちてきたその水滴がアルテナの頬に当たり、彼は思わずそう叫んでしまった。
「……!!」
「………アルテナ、すこしうるさい。
びっくりした。」
「うー……。」
『だあー!もー!まただっせぇーとこ、
ノエマにみられちゃったじゃん……おれ……』
少年の恥じらいは、少女には全く伝わらない。
「まあまあ、しょうがないじゃないか。ね?
アルテナ。ノエマも。それに、わざとじゃないんだ。だから二人とも、仲良くね。」
そう二人の子どもの仲裁に入ったノエマの父親=プルーデンスは優しく二人をたしなめる。
「……ノエマ、その……ごめん。
って!!あれなんだ?!」
「もおー……こんどはなに?」
苔むした岩のトンネルを進んだ先で、
三人と一匹の目の前にはーー
『
かつてそう呼ばれていた
『 超古代文明の遺跡 』
その巨大な空間が広がっていた。
「なん……だここは……?!
てか、そうだ。みんな!あれちょっと見てって!」
アルテナの声を簡単にかき消すほどの、ものすごい勢いで下から突き上げてきた風が、ノエマのプラチナの髪をより一層煌めかせる。
ノエマは崖の下を覗くと、遺跡の内部は地下層へと向かって
粗々しい岸壁を削り出したような細い道が、壁伝いに下層まで続いている。
「すごい……いちばんしたが、みえない……。」
ノエマがそう呟くと、アルテナが先ほどから言っている『 空中で静止したまま浮かんでいる謎の黒い物体 』を見てプルーデンスが突然語り始める。
崖を覗いていたノエマも、父から今度はどんな話が聞けるのかと立ち上がって、そうして全員がプルーデンスの元へ自然と集まった。
「アルテナ、あれは『モノリス 』だよ。」
「……もの?……」「……リス〜?」
聞き慣れない単語に二人は
ほぼ同時に首をひねる。
それは、『 真っ黒な長方形の物体 』だった。
二人はなんだかそれを見ているだけで、頭の中がめちゃくちゃにかき混ぜられた気分になって、視界が回りそうになる。
「ははは。それは教師として、
素直にうれしい反応だね。」
「これは『 モノリス 』といってね。
『 大昔の地球に突然現れた』
そう伝えられている物なんだ。」
「それがなんだってこんなところにあんだよ。」
アルテナが話の腰を折ってそういった。
「まあ、そうあわてないで。」
「ごほんっ。じゃあ、簡単に君たちに説明しよう。先生の話、ちゃんと最後まで聞いてもらえるかい?」
「うん。きになる。」
「プルーデンス先生、はやくー」
「フィー?」
「それじゃあ、気を取り直して。」
そう言うと、プルーデンスは指で空中に『 8の字 』を描き、いきなり空間に『 半透明の黒板 』を出現させて授業を始めた。
「まずは、『 モノリスとは一体なんなのか? 』ということについて説明するね。モノリスの正式名称はーー
『
( Multi Operational Neuro Organized Logically Integrated Transcendent Hub )
略して『 M.O.N.O.L.I.T.H 』=『 モノリス 』
と、そう呼ばれているんだ。」
「もっとも……
「そうだね。もっと単純に言えば……つまり……そうだ!」
「『 宇宙のだれかが地球に置き忘れていった
「宇宙の……カバン?」
「てか先生、名前が長過ぎて
ぜんぜん覚えらんねぇ……。」
教え子の二人は異なる印象を受け、それぞれ違った疑問を抱いているようだった。教師プルーデンスは続ける。
「そう、それと『 モノリス 』は、元の持ち主の『 記憶や声、
「それらをまとめて『 丸ごと全部記録 』してくれるんだ。どうだい、すごいだろう?」
「そして、『 持ち主が必要な時に 』それらの情報をこの『 モノリス 』を使って呼び出すことができるんだ。」
プルーデンスの辞書に『 小休止 』とか『 ちょっと休憩 』といった類いの物はなかった……
「それだけじゃないんだよ!持ち主が『 宇宙の果て 』に居たって、『 他の誰かのモノリス 』とずっと繋がっていられるんだ!」
「たとえ『 意思疎通の方法 』が違っても、『 惑星間の種族 』が違っていたとしても、頭のなかで思ったことや考えたことを『 モノリス 』が勝手に翻訳して、相手にメッセージを届けたりもしてくれるんだよ。」
二人の生徒は揃って「ぽかーーーん。」と口を開けて、先生の話をひたすら聞かされ続けていた。
「だからね、『 モノリス 』は他人の『 日記帳 』でもあるし『良き友人 』でもあり、同時に『 もう一人の自分自身 』でもあるんだよ。」
「……だが問題は、どうしてそれが『 地球に存在していたのか?』『 持ち主は何故、モノリスを置いて行ってしまったのか?』……その謎を、今でも僕はずっと探し続けているんだ。」
「ふぅ……。これで、何となくは
みんなにも分かったかな?」
とプルーデンスが額をスーツの袖で
「「………」」
「……だああ〜っ!ぜっんぜんわかんねぇ。」
「先生、じゃあなんでその『 モノリス 』ってやつが今ここにあんの?」
生徒のアルテナが先生に分からないことを聞く。
「良い質問だね。だけど、それも今のところ分からないんだ。動かそうと思えば、誰にだって動かすことはできるんだけどね。」
プルーデンス先生はモノリスを指して言った。
「ふーん」
と。アルテナが何気なくモノリスに触れるとーー
バチンッ ⚡︎⚡︎⚡︎⚡︎⚡︎⚡︎ っと、強めの静電気みたいな衝撃を受けた。
「ッ!?いってぇ……」
プルーデンスはモノリスが示したその反応を見て、いつもの穏やかな表情を崩しーー
「?!……モノリスが……記憶体を拒絶しただって!?そんなばかな……」
「アルテナ……まさか、君は……?」
その時だった。
ノエマの声がプルーデンスの思考を
ほんの一瞬だけ止めた。
「アルテナ!お父さんも!……ちょっと来て!」
「……フィリムのようすがなんか、おかしいの。」
そう言われた二人は異星生物の姿を探すと、下層へと続く細い道で立ち止まっていたフィリムを見つけた。
フィリムはまるでなにかに怯えているように
「フィィィ……!!」
と、見えない相手を威嚇している。
アルテナはその姿を見てプルーデンスに聞いた。
「フィリム……。」
「先生……!この下にはなにがあるんだよ。」
「……あ、ああ。下には……まっまあ、行ってみて自分のその目で直接見て判断した方が良いだろうね。」
「なんだよ。もったいぶっちゃってさー」
「いこ。アルテナ。」
「うおっ……」
ノエマはフィリムを躊躇なく抱きかかえると、ついでにアルテナの手をつかんで歩き出した。
龍の谷の最下層。
そこを目指して。
そして三人と一匹は、壁伝いに遺跡の最奥へと降りて行った。
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