第15話 流れ星
第15話 流れ星
(The Falling Star)
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『 光の回廊 』の奥で『 だれか 』が呼んでる。
しかし、その『 存在 』はまだ目には映らない。
ノエマは胸の前でペンダントをぐっと押さえた。ペンダントから伝わる鼓動が、泣き出したように震えていた。
まだ見えないけど。その声をたしかに以前は覚えていた。そんな『 確信 』みたいなものだけが、ノエマのなかで大きく膨れ上がっていく
その時、光の回廊の
吸いよせられるように二人と一匹の足は自然と動かされ、気が付いた時にはーー
回廊の奥。
その突き当たりへとたどり着いていた。
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「あれ?……行き止まりだ。」
アルテナがそう言った時、ノエマのペンダントの光が輝きを増し、天井から光のシャワーを降らせる。そしてそれが螺旋状になっていった。
微生物の壁が、回廊全体が、光が。
ドクッドクッと脈打つ。
……ビキッ!
「ッ
ノエマがとつぜん頭を抑えてうずくまる。
「どうした?!ノエマ!」
アルテナが駆け寄った時だった。
螺旋の輪郭が、徐々に人型になって。
やがてそこに姿を現したのはーー
眼鏡をかけた知らない男のホログラムだった。
ホログラムはこっちを見て目を細める。
一見するとその表情は穏やかでやさしそうに見えたのだが、ノエマの目にはうっすらと『 影 』が映った。
途方もなく永い永い年月をかけて。
瞬く間に過ぎ去っていく月日追いかけて。
だれかを護るためだけにーーー
そして、だれかを傷つけないようにーー
『 沈黙 』を選択し続けた者だけが持つ『 影 』。
そして、ホログラムは静かに語り始める。
二人は体を硬直させた。
しかしホログラムは微笑みながら、
眼鏡をただくいっと動かした。
ノエマにはそのしぐさがなぜだ
かなつかしく思えて。
光の回廊の突き当たりで、『 記憶の蓋 』が開いていくみたいに光が紅と碧に弾けやわらかく輝く。
そして少年の足元に寄り添った
フィリムが小さく呟いた。
「フィ……」
ノエマは一度目を伏せ、そしてまた顔を上げた。
「………もしかして………あなたは………」
「わたしの………お父さんですか?」
声が震える。胸の上のペンダントはまるでホログラムのしぐさに反応するかのように、点滅をくり返している。
光の回廊がまた脈打ち、
ホログラムが突然、ノエマにこう言った。
「ずっと---ずっと。待っていたよ。」
「---その言葉を僕は聞きたかったんだ。」
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その瞬間、回廊の光が再び輝き始めて。アルテナはあまりの眩しさに片目をつむった。
光が揺れ、影が伸び縮みしている。
ホログラムは言葉を続ける。
「ノエマ---」
「この先で、君を待っている人がいる。」
「え……?」
ホログラムはノエマに微笑みながら続けた。
「その人はね。君を『 護る 』ためだけに、ずっとこれまで生きて来たんだ。」
するとノエマの前に回廊のすべての光が集まり、やがてそれは『 光の雫 』となって落ち、ゆっくりまた回廊に還っていく。
ホログラムは最後にノエマに向き直って言った。
「どうか、こわがらないで。」
「この先へ、行ってごらん。」
そして、その姿は光の中へと消えていった。
残された二人と一匹は、ホログラムが立っていた後方。光の回廊の終わりで、互いに見つめ合っていた。
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そこには、またしても扉が現れたのだ。
「今度はドアーだ!……なんつって。」
………………
「おい!たのむからだれか、なんか言って!!」
アルテナは場を和ませようと努力して、
またしても失敗した。
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「ノエマ?」
「……えっ?あ、わたし……どうしたら……」
「はぁ……しゃーねえなあ。もうこうなったら行くしかねえだろ!」
と、アルテナが勢い良く
木製のドアーを開けるとーー
そこには、石造りの薄暗い部屋があった。
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必要最小限の物しかない簡素な部屋を見渡すと、すぐそばには木製のテーブルがあって。
テーブルの真ん中に置いてある『 翡翠色の花瓶 』には、『 紅白のアネモネ 』が飾ってあった。
二人と一匹が入って来たドアーのすぐそばの壁にはランプがあって、急にパッと暖かな灯りがともった。
すると二人には、奥にある机に向かってだれかが座っている姿がはっきりと目に映った。
こっちの気配に気づいたのかその影はゆっくりと椅子から立ち上がり、だんだんとこちらに近付いて来る。彼は手に水差しのような物を持っていた。
アルテナは片腕を伸ばしノエマをかばうように立ち、フィリムはツノを明るく光らせる。ノエマは静かにその場でじっとしていた。
その男が一歩ずつこっちへ歩み寄って来る。
………コツ カツ コツ
カツ コツ ………カッ。
足音が近付いて来てやがて止んだ。
そして、現れたのはーー
ラズベリー色の髪をした細身の男だった。
ひょろ長い背格好。よれよれのスーツ。寝癖でぐちゃぐちゃになった髪。銀縁の丸メガネからのぞくのは柔らかい眼差し。
………カラン
と、その男の手から水差しが落ち、水がゆっくりと床へ流れ出す。それは堪えきれずに溢れた涙のようだった。
すると突然、男が言った。
「……ノエマ……なの………かい?」
「ああ……本当に……お母さんにそっくりになって。はは……」
「……そうだ!よくここまで来たね。ええと、それから……君たちは?」
その男はポンと、アルテナの肩に大きな手を置いて、ノエマの元へと静かに歩み寄り、胸元のペンダントにそのパールグレーの目を落とした。
「それは……とても良く、似合っているよ。」
「ノエマ……本当に……大きくなったね。」
アルテナが咄嗟に言う。
「アンタは一体……!?」
『 何者なんだ? 』という少年の純粋な疑問を、その男は自らの口に人差し指あて、片目を閉じて静止させた。
………………
しばらく長い沈黙が続いた後、ノエマはやっと気持ちを言葉にすることが出来た。
「あなたは……だれ?」
アルテナはノエマとその男のやり取りを見守っていたが突然、その男に向かってこう言い放ったーー
「おい!ボサボサキノコっ!」
フィリムもツノを光らせてぴょんと跳ねる。
「っ?!」
『 ボサボサキノコ 』は少年の突拍子もない罵倒に驚いて、しばらく目を白黒とさせていた。
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