第14話 本当のやさしさ

第14話 本当のやさしさ

(True Kindness)


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 鉄の扉の向こうに広がっていた世界は、二人の想像を遙かに超えていた。


 『 光の回廊 』


とでも呼ぶべき『 無限に続く光の通路 』。


 道のずっと先では白銀色の光が渦を巻いている。壁も床も、その場の空気そのものがキラキラと光輝いていた。


 ノエマが足を踏み出すたびに、滑らかな反響音が返って来て。胸が軽やかなステップを踏んでいるかのように踊った。


 「……すごい。」


 ノエマは、その幻想的な光景に一瞬で心をうばわれていた。


 光る道の端から端へと流れていく光の粒子は、雨粒が逆さまに落ちていくように流れてきらめいて。


 『 光の回廊 』の最も奥の空間へと、身体が勝手に吸い込まれていくようだった。


 アルテナは、思わずその光景に圧倒され言葉を失っていた。そして目を見開いてただ、目の前のあり得ない絶景をずっと見続けていた。


 光の粒子はまるで、生まれたばかりの微生物のようで。幻想的な空間には宇宙の種子が綿毛のようにふわふわと漂い、回廊全体が無数の細胞のように呼吸していた。


 フィリムはぴょんっぴょんっと

跳ねながら先を走る。


 「フィー! フィー!」


 フィリムのツノの光も、もはや回廊と同化している。ノエマは興奮して震えた指で、アルテナのくたびれたシャツの裾を握った。


 「アルテナ……ちょっとこわい……

ぐらいにすごい」


「大丈夫だよノエマ。

おれはむしろ、ワクワクすんね!」


 アルテナの声は穏やかで、それがなんだか少女にはとても心強くて頼もしかった。


 ふと翡翠の瞳が揺れる。


 『光のむこうでだれかが

 待ってる気がするから。』


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 誰かにずっと見られてるような気配。


 光のカーテンが揺れ、壁に波を浮かばせている。ノエマの心音は、トクントクンとしだいに速く鳴っていた。


 『なんで?……なつかしいかんじがするの?』


 『さっきからずっと心の奥で聞こえてくる声。』


 『この先にいるのは、だれ?ーー


 その時、アルテナが急にノエマの肩を

つんつんして言った。


 『ノエマ。恐がんないで、大丈夫。』……

「きっと、この先におれたちの

探してるもんがあるんだ。」


 『……!!』


 その言葉は、ノエマの記憶の奥底で眠っていた

『 だれか 』の声と重なって響いた。


 『……わたし……それをどこかで』


 『……聞いたような気がする』


 回廊の壁で発光する微生物の細胞が、だんだんと大きくなっていって。壁全体が映像のように光速でスクロールしていく。


 おぼろげに浮かぶ『 だれか 』の姿。

ノエマの心に、頭に、その映像イメージが自然と流れ込んで来たーー

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 たくさんの明るい星。

やさしい口調でいつも読み聞かせてくれた

『 とおい おそら の おはなし 』


 自分に向けられる

なんだかあったかいまなざし

おっきくて、やさしい手。


   「ノエマ、君の心はいつだって


 -----にとっての灯台の灯りなんだから。」

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 やがて壁面の光はゆらゆらと波打ち、そこに一つの人型の輪郭が浮かんでくるーー


 が、その人のような影は即座に消えてしまう。


 しかしノエマはその一瞬で確信していた。


 『 ちゃんと、おぼえてるよ。』

 

 『 ずっと、ずっとずっと……』


 『 会いたかったよ……。』


 ペンダントの紅い光が波紋のように広がっていって。回廊全体を眩い光へと変える。


 ノエマは思わず一歩前へ出て、手を伸ばすと光が指先に絡まって、すぐにまたほどけていく。


 フィリムはぴょんと跳ね、

少年に向かって声をかけた。


 「フィー!」


 二人と一匹はなにかに引き寄せられるように

『 光の回廊 』のさらに奥へと進んでいった。


 その先に待つのはまだ姿を見せない『 存在 』


 そして、少女がずっと知らないままで生きてきた『 真実ほんとうのこと 』。


 『 光の回廊 』とノエマのペンダントは共鳴し合い、白紫色の空間がアルテナの心を戸惑わせていた。


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