第13話 小さな龍と光の環

第13話 小さな龍と光の環

(The Little Dragon and the Ring of Light)


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 むかし よりも、ずっとずっと

とおい むかし の、おはなしです。


 とおい おそらの まんなかに、

ひとつの ちいさな 『ひかる わっか』が

ぽおっと よるを てらす あかり のように

うかんで いました。


 その 『 ひかりのわ 』 は、

ただ ひかっているだけ じゃ なくってね。


 みんなの こころを そっと

うつす 『 かがみ 』だったの です。



 かなしい こころ には、

ちいさなあめ が ぽつり。


 やさしい こころ には、

あたたかいひだまり が ぽわんっ と。


 うそを つくと、くろい かげ が、ちょこんっ。

と ちじょうへ おちました。



 まだ、ほんのちいさな 赤ん坊のような女の子 は、かならずそこで たのしそうに わらいました。


 おはなし は 続きます。


 『 ほんとう を だっこ すると 』


 『 まえ に まあるい みち が ひらくよ。』


 たかい たかい おそらの うえで

この ちいさな 『 ひかりのわ 』 を

まもっていた のは、ちいさな ちいさな

りゅうの こども。


 なまえは


『 スキエンティア 』


と いいました。


 『 スキエンティア 』は ちいさい けれど、

だれよりも やさしくて、とっても かしこい りゅうのこども でした。


 えらそうに したことや、ほかの こどもに いじわるをしたことなんかは、いちどだって ありません。


 でもね、『 スキエンティア 』は

いつも ひとりぼっちでした。


 だれも のぼってくる ことが できない ほど

いちばんたかい おそらのうえ で

いつも せかいの おとを きいていたから です。


 ながれぼし たち の ぼうけんのお話。

もりの きぎ の こそこそ話。

どこかで なく 子ども の声。

 

 そして あるときーー


 とおい おそら まで とどいた

ちいさな『 ねがい 』 の 声。


 その ちいさなこえ を きいたとき

『 スキエンティア 』は いつものように

こういいました。



 「『 ほんとうの ちえ 』 って いうのはね、

 『 この せかい で たった一つ の 願いに、

 そっと 気づいてあげること 』なんだよ」



 「だから 『 ひかりのわ 』 はね、

つよい 力で ぐるぐる まわるんじゃなくって


 こころが しずかなほどーー

 ゆっくり、ゆっくり と まわるんだよ。」


ーーいいかい。


 もし まっくらな夜に ひとりぼっち に なっても

こわくなっても だいじょうぶ。


 きみの こころ の なかにも、

ちいさな 『 ひかりのわ 』が ちゃんとある。


 それはね、だれにも こわせない

『 きみだけの ほんとうの あかり 』 なんだ。


 いつか もっと おおきく なったらーーーーーー

きみの 願いを その 『 わ 』 に そっと

うつしてごらん。


 きっとーーー

その『 わ 』が やさしく ひかって

まえへと つづく みちが

ひらくから。

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 朝靄あさつゆが、洞穴の天井から落ちる。


 土の壁に連なって揺れる灯は、鉄の扉の正面を碧く明るく照らし出していた。


 「……っよし……やってみる。」


 翌朝、ノエマは自分を鼓舞するように気合いを入れて重たい鉄の扉の前に立ち、ペンダントを再び

『 くぼみ 』にはめ込んだ。


 しかし。


 何も起きない。


 むしろ黒い稲妻のような『 拒絶の紋 』が、扉の表面にビリビリッと走った。


 「やっぱりだめ……んーこうじゃ、なくって。」


 少女のか細い指先は、朝の寒さに震えていた。


 「ほれっちょっと、かしてみ。」


 アルテナはノエマにそう言って、自分の背丈よりもはるかに巨大な鉄の扉にグッと。全身の力を込めて両手を押し当てた。


 そして掌から扉へと碧い光を流し込むイメージでもう一度強く、力を込めた。


 「ぐうっ!!……くっ……!」


 だが、重厚な鉄の扉はまるでびくともしない。


 「はあっ……!はぁ……

やっぱ力ずくでも無理か……。」


 その時だったーー


 「フィーーーッ!!」


 フィリムの声が突然鋭く響いた。


 ツノの先からは細い光が導くように、ノエマのペンダントへと一直線に光の線を結ぶ。


 そして、少女のペンダントがそれに応えるように一度だけ紅く光り、フィリムの放った光の線は次に少女の左手の甲へ移った。


 少女はびくっ!と 肩をふるわせる。


 「……あ?」


 その異変をアルテナは見逃さなかった。


 「ノエマ……それってもしかして……」


 「ペンダントだけじゃなくって……ノエマも

『 鍵 』ってことなんじゃないのか?」


 「え?……わたしが……カギ?……」



 「うん。だから、ペンダントだけじゃ開かなかったんだ。なんかノエマの心の、んーもっとずっと……」


 「フィーっ!」


 フィリムがアルテナの言葉をもう一押しする。


 「『 想い 』とか『 思い出』とか、そういうのがきっと必要なんだと思う!」


 ノエマの翡翠の瞳がゆらぐ。


 そして、ノエマは両手でペンダントを包むとそっとその目を閉じた。


 静かになる呼吸。


 徐々に落ち着いていく心音。


 胸の奥から『 光の欠片 』のような記憶が、ふわりとあたまのなかに浮かび上がって来る。


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 ーーーいつか見上げた

たくさんの星が浮かんだ夜空。


 やさしくて、大好き声。


 『 なあに、真っ暗な道だってこわくないさ。

ノエマ、君の心はいつだって------にとって------なんだから。』


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 しだいに光の点が一箇所に集中し、少女の胸の上で紅い粒子が螺旋を描いてやがてペンダントの中心へ。


 ペンダントの『 六角形の小さな結晶 』が、光を帯びてゆっくりとその形を変化させ、やがて『 五角形 』へと組み変わっていく。


 「かたちが……かってに……変わってく……。」


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 ノエマのペンダントは、鉄の扉に吸い寄せられるように『 くぼみ 』へと今度こそぴたりとはまった。次の瞬間ーー


 ドクンッ


 鉄の扉が心臓のように脈打つ。


 「よしっ……!!」


 アルテナはもう一度、扉に両手を押し当てる。


 アルテナの掌から碧い光がはしり、

ノエマの紅い光と絡まり合っていく。


 そして二つの光が渦となって扉全体へと走りーー



   ゴォォオオオォォォン……!!!


 洞穴全体が激震し、地響きが唸る。


 そうして、巨大な生き物の心臓が

『 約100万年ぶり 』に

息を吹き返した。


 白紫色の光は弾け、眩い光が

洞穴全体を満たしていく。


 そして、巨大な鉄の扉がゆっくりと

 『 その先へ進め 』

 とでも言っているかのように

 とうとうその重たい口を

 開いたのだった。



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